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48話・悪事の証拠
美しい銀の髪を持つ闖入者に、アルケイミアの王子ディールモントは目を奪われていた。ゆらりと立ち上がるが、彼の足は一歩も動かず壇上から降りることも出来ない。顔色は悪く、今にも倒れそうな状態である。イリアが手を取って再び椅子に座らせるが、ディールモントの目はルーナに向けられたままだった。
大広間中の視線を一身に集めたルーナは初めて壇上へと顔を向けた。
「はじめまして、ディールモント殿下。めでたき宴の席を騒がせてしまうことをまずお詫び申し上げます」
優雅に一礼し、顔を上げる。
「今この場で明らかにせねばならないことがあります。発言をお許しくださいますか」
「……」
問われたディールモントは何も言えず、ただうろたえるばかり。そんな彼に代わり、シュベルトの王子グレイラッドが「構わん、続けよ!」と許可を出す。
これに慌てたのはクレモント侯爵ステュードである。会場警備の騎士を呼び付け、闖入者を捕えるようにと命令した。騎士たちはルーナを取り囲み、じりじりと距離を詰めていくが、傍らに立つリヒャルトが接近を許さない。彼は腰に佩いた剣の柄頭に手を添え、いつでも抜けるように備えている。
シュベルトの騎士を倒さねば命令の遂行は不可能と悟ったアルケイミアの騎士たちは、ついに腰の剣を抜いた。すると、今度はラスタがわざとらしい悲鳴をあげる。
「まああ、信じられませんわ。か弱い女性に剣を向けるだなんて!」
ラスタが発した非難の言葉に、周囲にいた他の貴婦人たちも同調する。見るからに多勢に無勢な上、狙いはうら若き乙女なのだ。何より、先ほどルーナが言った『明らかにせねばならないこと』がみな気になっている。告白か、告発か。無関係な者ほど興味関心を示していた。否、そうなるようにラスタが舞台を整えたのだ。
「神の名の下、全てを明らかにすべきです。それとも、何か後ろ暗いことでもお有りでしょうか」
神官長がひと睨みすると、クレモント侯爵は悔しそうに歯噛みして騎士たちを下がらせた。
邪魔をする者がいなくなり、会場内がしんと静まり返ったところでルーナは語り始めた。
「アルケイミアの王族は直系の男子に限り、魔力をほとんど持っておりません。国で一番魔力を持つ聖女と結婚し、子を作っているにも関わらず。おかしいとは思いませんか」
アルケイミアの貴族から「昔からそうだった」「魔力が少ない家系なのではないか」と声が上がり、ルーナも頷く。
「ええ、私たち国民はそう教えられてきました。今回の聖女選定の儀において、私は身に覚えのない不正を疑われ、聖女候補から外されました。その後の出来事が疑念を抱かせたのです。資格を失った私の代わりに第二聖女に選ばれたアトラは、選定段階では上位の候補ですらありませんでした。にも関わらず、突然他の候補の令嬢たちを押しのけて選ばれたのです」
この言葉に強く反発を示したのは当のアトラである。怒りで冷静さを欠いた彼女は、父親と異母兄の静止を振り切って飛び出した。ルーナの前に立ち、真っ向から睨み付ける。
「それが何だというのよ! わたしが選ばれたらおかしいとでも言いたいの?」
「ええ。その通りです」
「自分が聖女候補から外されたからって、腹いせにわたしを引きずり降ろそうというの? だから『妾の子』は嫌なのよ、根性が卑しくて寒気がするわ!」
相対する二人の令嬢。口汚なく罵るアトラを冷ややかな目で見つめるルーナ。周囲からどのように見えているか、今のアトラには分からない。
「今回に限らず、聖女選定が執り行われるたびに不正が行われてきた疑いがあります。被疑者をこちらへ」
神官長が合図を送ると、後ろ手に拘束された数人の男たちがルーナたちの前まで連行されてきた。聖女選定の選定官を務めた神官である。
「彼らは大神殿の神官であり、此度の聖女選定の選定官を務めておりました。しかし、故意に審査結果を歪めた疑いがあります。何者かに金銭で買収され、見返りに『本来ならば選ばれない者』を聖女に推した……そうですね?」
問われた男たちは顔面蒼白となり、必死に自己弁護の言い訳を繰り返した。会場内にいるインテレンス卿を見つけ、助けを求める。
「誤解だ、私は何もしていない!」
「宰相殿の指示通りにしただけで……」
「閣下ぁ! お助けください!」
しかし、インテレンス卿は男たちを一瞥して鼻を鳴らすのみ。特に動揺した様子もない。
「若い令嬢同士の口喧嘩はまだ微笑ましいが、罪人を宴の席に出すなど客人たちに失礼ではないか。さっさと摘み出せ」
インテレンス卿が吐き捨てるように指示を出す。「話が違う」「お慈悲を」と喚き出す彼らを鬱陶しそうに見下ろしていたが、ルーナが抱えている分厚い帳簿が視界に入った途端に顔色を変えた。わなわなと体を震わせ、黙り込む。
「あら、ものすごい汗ですね。もしかして体調がよろしくないのでは?」
「なっ……それは」
視線はルーナが持つ帳簿に釘付けとなった。古めかしく特徴的な革製の表紙に金糸を編んだ紐で何十枚もの紙が綴じられている。見間違うはずがない。アレは代々引き継がれてきた大事なもの。何故この場に、何故ルーナが持っている。渦巻く思考が徐々にインテレンス卿から冷静さを削り落としてゆく。
脂汗でベトベトになった顔面を取り繕うこともせず、インテレンス卿はルーナへと近付いた。
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