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本編
42話:第2王子が隣国の王子に宣戦布告いたしました
しおりを挟むその日から、ラシオスは変わった。
しっかりと食事と睡眠を取り、失われた体力を回復させることを優先させた。学院にも休まず通った。
昼休みに東屋でランチを共にしているカリオンは、先日までとは全く違うラシオスの様子に目を見張った。
以前は小鳥の餌ほどしか口にしなかったが、今は用意された料理を残さず平らげている。無理に詰め込んでいるわけではない。己の血肉にするために食べているのだ。
「ラシオス兄様、変わりましたね」
「ようやく目が覚めたよ。……君にも心配掛けたねカリオン。僕が腑抜けている間、色々と動いてくれていたんだろう?」
「大したことはしていません。兄様がお元気になられて本当に良かった!」
凹んでいた時期にさりげなく支えてくれた存在に気付く余裕も出てきた。労われたカリオンは、嬉しそうに頬を染めてはにかんだ。
弱っていた期間休んでいた鍛錬も再開した。落ちた体力を取り戻すためにこれまで以上の努力を要した。
ラシオスの胸ポケットには、先日エリルから譲り受けたハンカチがある。気落ちしそうになる度に胸に手を当て、フィーリアの刺繍入りハンカチから元気をもらう。そんな日々が続いた。
そして、ついに動いた。
授業の合間の時間、フィーリアやエマリナに囲まれて談笑していたローガンに対し、自分から声を掛けた。
「ローガン殿。よろしければ次の剣術の授業で一試合お願い出来ませんか」
その申し出にやや驚きながらも、ローガンはすぐに姿勢を正し、不敵な笑みを浮かべた。
「いいだろう。得物が木剣とはいえ、当たればただでは済まないが、ラシオス殿はそれでも構わないと?」
「ええ。……どちらが相応しいか、剣で決めましょう」
貴族学院の授業は座学ばかりではない。
男子生徒に限り、武器の扱いを習う実践授業も行われる。騎士や兵士でなくとも、儀礼や儀式に剣を使う場面があるからだ。
更に剣での戦い方も教えられる。高位の貴族は命を狙われることも少なくない。そんな時に少しでも自分の身を守れるように備えておく意味合いもある。
故に、ラシオスもローガンも剣を使うことが出来る。
一方はこの国の王子。
もう一方は隣国の王太子。
十日後には両者が参加する式典が控えている。本来ならば、怪我をする可能性のある行為は避けねばならない。
だが、二人とも一歩も退く気がない。
この勝負に全てを賭けるつもりでいる。
そのやり取りを間近で聞いていたフィーリアは青褪めた。二人が剣を交える理由が自分にあると悟ったからだ。
「フィーリア様、顔色が良くありませんわ」
「え? ええ……だって」
「心配ですわよね。でも、殿方の意地と矜持を賭けた大事な勝負ですもの。私たちには見守ることしか出来ませんわ」
「矜持なんて。お怪我でもされたら……」
「その辺りはお二人も分かっておられます。それでも決着をつけたいとお考えなのですわ」
エマリナの言葉に、フィーリアはただ頷くしか出来なかった。
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