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本編
7話:友情と嫉妬
しおりを挟むアシオンとランチを共にするのが日課になった頃、庭園の四阿に客が訪れた。
「よっ、アデル。学院生活には慣れたか?」
「ヴィレオさ……じゃなくて、ヴィレオ先輩」
「んふふ、いーね。先輩って響き」
満面の笑みを浮かべ、当たり前のようにアデルの隣に腰掛けたのは栗色の髪の上級生だ。座った状態で頭ひとつぶん高い。立って並べばもっと身長差があるだろう。これは彼の背が高いというより、アデルが小さいだけだ。ヴィレオは親しげにアデルの肩を抱き、顔を寄せている。
見知らぬ上級生の乱入に、アシオンはやや怯えた表情で固まった。相手とアデルの関係は気になるが、口を挟めるような雰囲気ではない。
「アデルぅ、おまえ生徒会に入らないか? 入学試験で首席だったんだろ? ぜひ優秀な後輩に仕事を手伝ってもらいたいなぁ」
「はあ、考えておきます」
「即答しないのかよ! ……ま、慎重なおまえらしいな。入りたくなったら声を掛けてくれよ。いつでも歓迎するから」
「わかりました」
言うだけ言って、ヴィレオは校舎に戻っていった。去り際に「邪魔して悪かったね」とアシオンの肩を軽く叩いて。
「……アデル君、今の人、知り合い?」
「あ、うん。親同士が仲良いんだ。だから顔見知りというか幼馴染みというか」
アシオンの声はやや固い。見知らぬ人が乱入してきたことで緊張しているのかもしれない。それをほぐすように笑顔を向け、彼の疑問に答える。
「……生徒会、入るの?」
「うーん……いずれは入るつもりだけど、一年生のうちはまだいいかな」
「そっか~」
それを聞いて、アシオンはようやく表情を緩めた。
生徒会活動に時間を取られたら優秀な人材を探す余裕がなくなるとアデルは考えている。実際、ヴィレオは役員になってからかなり忙しくしている。今回アデルに声を掛けてきたのも、即戦力が欲しいからだろう。
それに、例え望まれて生徒会入りしたとしても入学して間もない時期だ。親の七光りだなんだと陰口を叩かれる可能性もある。有無を言わせないためにも、まずは自分の実力を周りに見せつけておく必要がある。
「良かったあ。アデル君が忙しくなったら、こうして一緒にごはん食べられなくなっちゃうもんね」
「だね。お昼くらいは落ち着いて食べたいよ」
アシオンとのランチタイムは、アデルにとって心が安らぐ貴重な時間となっていた。他の人の目がないから気取る必要もない。アシオンは気弱で口数が少なく、的外れな言動も一切しない。加えて、アデルに対して過度な信頼と友情を抱いている。大抵のことは好意的に捉えてくれる彼と過ごすのは楽だ。
しかし、人脈探しは同学年だけが対象ではない。
うかうかしていたら最上級生は卒業してしまう。近いうちにヴィレオを通じて紹介してもらおう、とアデルが考えていた時だった。向かいに座っていたはずのアシオンがアデルのすぐ横に場所を移して腰掛けた。先程までヴィレオが腰掛けていた椅子だ。
「アシオン、くん?」
肩が当たるほど近くにいるのに、アシオンは俯いていてその表情は見えない。これまでは一定の距離を置いて会話するだけだった彼の不意の接近に、アデルはやや驚いた。
「あの、ア──」
「ごめんね。アデル君にだってクラスメイト以外の知り合いが居て当たり前なのに、ボクの知らない人と仲良く話してるの見て、……ちょっと寂しかった」
どうやらヴィレオに対して嫉妬したらしい。
そっと伸ばされた手がアデルの上着の裾を掴んでいる。覗き込んでみれば、アシオンはくちびるを尖らせてそっぽを向いていた。
なんだか可愛いな。
「このクラスで一番最初に仲良くなったのはアシオン君だよ。友達が増えたとしても、一番はキミだからね」
「う、うん」
とりあえず宥めて機嫌を取り、ランチを再開する。
この嫉妬深い親友が側にいたら人脈作りは難航しそうだな、と思いながら。
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