【完結】侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

みやこ嬢

文字の大きさ
56 / 78
本編

56話:彼の痕跡

しおりを挟む


 自分の弱点を克服するため、ラグロは自分なりに努力を始めていた。というか、最初から彼はそのために毎日大量の書物を読んで調べていた。


 ──目を合わせたり、言葉を交わすと
   相手の心が読めてしまう体質──


 この力があるせいで、ラグロは常に長く伸ばした前髪で目を覆い隠し、誰とも喋らないように努めてきた。貴族学院に入学してからもずっと。

 彼がストレスなく話せるのは言葉と思考のズレが少ない人間に限られる。だが、ほとんどの人間は本音と建前がある。それが貴族ならば尚更。
 良い悪いに関わらず、ズレが大きい人間と対面するだけでラグロは体調を崩してしまう。こんな状態では普通の生活が送れない。
 自分の体質を克服するため、ラグロは様々な方法を探し、試していた。

 そして、先日ようやく突破口を見つけた。

 オラーティオ家の占いやラグロの『目』を無効化した抗術である。これを習得、改良して自分自身に掛けられればラグロは他人と関われるようになり、嘘吐きだらけの王宮に出仕することも可能となる。


「だから、王宮の地下牢まで行ってディレンから抗術を教えてもらう。ていうか

「ずいぶん思い切った方法だね! ……っていうか、王宮の地下牢なんて行って大丈夫なの?」

「専用の通用口があるから、表から行くよりは人に会わずに済むらしい。それに、犯罪者は自分に正直だから下手な偽善者より楽だ。ディレンももう嘘をつく必要がないだろうし」


 生徒会の集まりがない日の放課後は図書室の奥でラグロと過ごすのがアデルの習慣となっていた。クラス委員の仕事は単なる口実で、単に彼と話をするが楽しいからだ。ラグロも、学院内で話せる数少ない人物であるアデルとの時間を大切にしていた。

 だが、それも終わる。


「明日から放課後は地下牢に通う」

「えっ」

「全ての取り調べが終わったら、ディレンの身柄は遠くの犯罪者収容施設に送られるらしい。それまでに何とか抗術をマスターしたい」

「……そっか」


 つまり、放課後のこの時間が無くなるということだ。


「……寂しくなるね」


 ラグロの前では嘘はつけない。アデルは素直に思ったままの気持ちを言葉にした。

 カインが遠くに行って、ぽっかりと空いた心の隙間を埋めてくれたのはラグロだ。仲良くなれたのはここ数ヶ月だが、それ以上に深い繋がりが出来ている。

 ラグロも同じ気持ちだが、彼には何としてもこの体質を克服したい理由があった。


「あっ。そういえば、うちの侍女たちも抗術使えるみたいなんだけど、そっちから学ぶわけにはいかないの?」

「あー……談話室サロンで見た二人か。あいつらはなんか苦手。得体が知れないというか恐ろしいというか……」

「待って待って妹の専属侍女なんだけど? ラグロ君がそこまで言うなんて大丈夫なのかな」

「おまえの妹を気に入ってるのは確かだから、その点だけは問題ない」

「その点!?」

「うるさ……! とにかく、しばらく俺は図書室には来ないから、うっかり奥まで入り込むなよ。真っ暗なの怖いんだろ?」

「う、うん。わかった」


 ラグロの話では、エルマとアルマは二人でようやくディレンと同じくらい魔術が使える程度だという。抗術も原理を理解しているわけではなく、やり方を教えてもらっただけなんだとか。
 やはり、抗術をマスターするにはディレンから直接教えてもらうか心を読むしかない。


「こんな図書室の奥場所じゃなく、教室や外でもおまえと話せるようになりたい」

「うん。僕も」


 顔を隠さず真っ直ぐ目を見て話せたら、きっとラグロにも友達が増える。今まで閉じていた外への可能性が開かれる。
 そんな日が早く来るようにとアデルは願った。








「……というわけで、僕の憩いの場が減っちゃったんだ」

「アデル君、放課後いないなーと思ったら図書室に行ってたんだね。ボクずっと生徒会だと思ってた」

「いつのまにかラグロ君と仲良くなっていたのは、そういうことだったんですね」


 いつものランチタイム。
 学院の中庭にある四阿あずまやでお昼を食べながら、アデルはアシオンとアルタリオに経緯を説明した。

 彼らとラグロは御前会議の日に初めて言葉を交わした。ずっと同じクラスだったのに、だ。
 ラグロが抗術をマスターし、うまく自分の体質をコントロール出来るようになれば誰とでも話せるようになる。その時はまず親友であるアシオンとアルタリオをおススメしようとアデルは考えていた。

 だから、ラグロの事情を説明するために仲良くなったきっかけやら何やらを二人に教えたのだが……


「ラグロ君か……ノーマークだったね」

「あんなに体調を崩すほどアデル君のために動いたということは……彼もやはり……」

「そういえば膝枕してもらってたよね。ボクだってやってもらったことないのに」

「親密度が異様に高かったのも気になりますね。薄暗い図書室の奥で一体何をしていたのやら……」


 アデルから少し距離を置き、アシオンとアルタリオはボソボソと小声で話し始めた。新たな恋敵ライバル出現かと戦々恐々としている。

 そんな会話がされているとはつゆ知らず、アデルは「アシオン君たち仲良いな~」と呑気に考えていた。いつかこの輪にラグロが加わったらどんなに楽しいだろう、と。







 友達といる時だけは笑っていられる。

 屋敷に帰ってひとりになると寂しくなって、用もないのに離れに行ってはカインとの思い出に浸った。


「もっと話がしたかったな……」


 一番思い出されるのは、最後に会った日のこと。
 緊張でうまく話せないままだった。怒らせたというより悲しませてしまった。もっと明るく笑って見送れたら良かったのに、とアデルは毎日悔やんでいた。

 寝室は綺麗に掃除され、カインの痕跡は何ひとつ残っていない。それでも彼がここにいたことは事実。


「カイン様……」


 この気持ちが薄れる日は来るのだろうか。

 アデルはベッドに近付く気にはなれず、壁際の椅子に座り、ただ時間が過ぎていくのを待った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

あの日、北京の街角で

ゆまは なお
BL
5年前、一度だけ体を交わした彼が、通訳として出張に同行するーーー。 元留学生×駐在員。年下攻め。再会もの。 北京に留学していた上野孝弘は駐在員の高橋祐樹と街中で出会い、突然のアクシデントにより、その場で通訳を頼まれる。その後も友人としてつき合いが続くうちに、孝弘は祐樹に惹かれていくが、半年間の研修で来ていた祐樹の帰国予定が近づいてくる。 孝弘の告白は断られ、祐樹は逃げるように連絡を絶ってしまう。 その5年後、祐樹は中国出張に同行するコーディネーターとして孝弘と再会する。 3週間の出張に同行すると聞き、気持ちが波立つ祐樹に、大人になった孝弘が迫ってきて……? 2016年に発表した作品の改訂版。他サイトにも掲載しています。

処理中です...