【完結】侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

みやこ嬢

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本編

57話:親心

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 その日、アデルは王都のとある屋敷を訪れていた。男爵家の息子、ライアンの一歳の誕生祝いを届けにきたのだ。


「エリアーナ、ひさしぶり」

「アデル様、よく来て下さいました!」


 出迎えてくれたのは、この屋敷の女主人であるエリアーナだ。二十代半ばの男爵夫人はまるで花がほころぶかのような笑顔を向け、アデルを応接室へと招いた。
 持参したプレゼントは馬車を降りた時点で侍女に預け、先に運び込んでもらってある。

 アデルが通されてから間もなくライアンが連れてこられた。ふくふくとした可愛らしい幼児で、侍女の手を借りながら自分の足で一生懸命歩いてくる。その愛らしさに、アデルは思わず口元を手で覆った。


「最近ようやく歩けるようになったんですよ」

「こんなに小さいのに、すごいねライアン」


 褒められたのが分かったのだろう。ライアンはアデルを見上げ、にこっと笑った。それを見て、アデルは完全にこの子を気に入った。ライアンを膝に乗せて抱かせてもらい、幼児特有の甘い匂いと柔らかさを堪能する。


「この髪と瞳の色、男爵と同じだね」

「ええ。顔立ちも似てるんですよ。少しくらい私に似てくれても良いのに主人の特徴ばかり出てしまって。なんだか悔しいですわ」


 言葉とは裏腹に、エリアーナは嬉しそうに見えた。

 彼女はアデルの父親、アランのハーレムの一員である。アランの協力者であり信奉者。アデルと親しいのも彼女がそういう立場の者だからだ。

 ライアンは早速プレゼントである木馬の玩具に興味津々の様子で、アデルの膝から降りていってしまった。侍女が離れた場所で付き添って遊ばせている様子を眺めながらお茶を飲み、会話を楽しむ。


「エリアーナは父上のこと好き?」

「ブッ」


 突然の問いに、エリアーナは飲んでいた紅茶を吹き出した。しかしその後は取り乱すこともなく、彼女は居住まいを正してきちんとアデルに向き合った。


「もちろん。アラン様は私の恩人ですもの」

「恩人?」

「ええ。アラン様がいなければ、私はライアンを授かることが出来ませんでしたから」


 どういうことかと尋ねると、エリアーナは侍女に退室するように指示を出し、ライアンを抱きかかえた。


「私は十七でこの男爵家に嫁いでから、何年も子を授かりませんでした。毎日お義母様に跡継ぎはまだかと責められ、非常に辛い日々を送っておりました」


 そんな時にアランと知り合ったのだという。


「アラン様は私が思い悩んでいると気付き、声を掛けてくださいました。殿方にこんな話をするのは躊躇われたのですけど、あの方の前だと自然と何でも言えてしまうんです」


 そして、一緒に不妊の原因を探すこととなった。
 元々主治医から身体に異常はないと太鼓判を押されている。それでも子を授からないというのは、夫である男爵との相性が悪いか精神的な問題だろう、と。


「まずアラン様は、主人にお義母様を別の屋敷に移すよう助言を致しました。毎日毎日顔を合わせる度に跡継ぎを催促されてましたから、それが負担なのだろうと。アラン様のお言葉ですから、主人はすぐに従いました。おかげで大変気が楽になりましたわ」


 まずはストレスの原因の排除。
 なるほど、合理的な指示だとアデルも思う。
 しかし、ここから先が普通とは違った。


「あとは子が授かりやすい日を計算したり、どのようにするかを実地で教えていただきました。私自身が気負っていたせいもあったのでしょう。アラン様のご指導のおかげで、無駄に身構えることをやめ、自然体でいられるようになりました。そうしたら、程なくしてこの子を授かったんです」


 アデル向けにボカした表現ではあるが、直接肌を重ねて指導を受けたということだ。そこには気付かないフリをしつつ、アデルは気になっていたことを尋ねてみた。


「跡継ぎって、やっぱり大事?」

「そうですね。貴族ですから、やはり血を繋いでいくのは大切なことだと思います」

「そうだよね……」


 エリアーナに抱かれながらお菓子を食べるライアンの顔を眺め、アデルはぽつりと呟いた。その様子を見て、エリアーナはそっと空いているほうの手を伸ばし、アデルの髪を優しく撫でた。


「私はずっと『なんとしても跡継ぎを産まなくては!』って思ってました。そして、この子が生まれた時も『やった!跡継ぎだ!』って。……でも、ライアンが成長していく姿を見ていたら、だんだんそういうのがどうでもよくなってしまって」

「どうでもいい???」

「とにかく元気で幸せでさえあればいいと、今はそう思ってます。ライアンが笑って過ごせるのであれば、って。……ふふっ、こんなこと言ったなんて知られたら、お義母様に叱られてしまいますけどね」


 内緒ですよ、と悪戯っぽい笑みを浮かべるエリアーナは本当に幸せそうで、それがアデルには眩しかった。同時に、先程の言葉の意味を噛みしめる。


「僕、エリアーナが好きだよ」


 アデルの初恋はエリアーナだった。
 彼女はヴィクランド邸に訪れる際は必ずアデルと遊んでくれた。目線を合わせ、きちんと話をしてくれた。
 今思えば、大人に対する憧れが強かったのかもしれない。


「ええ、私もアデル様が大好きですわ」

「ライアンも好き」

「ふふ。この子が大きくなったら、是非アデル様のお側に置いてやってくださいね」

「でも、僕は──」


 そこでアデルは言葉に詰まった。
 ライアンを側に置けるような立場になれる自信もなく、そうなる覚悟もないからだ。


、アデル様がご自身で選ばれたのなら、それに間違いはありません」


 珍しくキッパリとした口調で、エリアーナはそう言った。まるで彼の心を読んだかのように。
 悩みを言い当てられた気がして、アデルは目を見開いた。そして、小さく息をついて微笑む。


「……もしかして、父上から何か言われた?」

「あら? なんのことかしら」


 わざとらしく目をそらすエリアーナの様子から、アデルは全てを察した。
 最近思い悩んでいる息子を心配し、それとなく元気づけるように頼んでいたのだろう。そういった気遣いをさせてしまったことに気付き、アデルは恥ずかしそうに頬を染めた。


「やっぱり僕はまだ子供だ」

「親からみれば、子供は幾つになっても子供です。心配するのは当たり前のことですよ。だからアデル様にも、いつかライアンが悩んでいたら話を聞いてやってもらいたいと思って」

「根回し早くない?」

「ええ。でも、アデル様はきっとそうして下さいますでしょう?」

「……うん、ライアンの力になる。約束する」

「それを聞いて安心しました」


 その後も楽しく語らい、アデルはライアンが疲れて眠ってしまうまで男爵邸で過ごした。






──────────────────

 
エリアーナは第1話目で名前だけ出ていた男爵夫人です。
彼女も『アランのお悩み相談室』でお世話になったひとりです。指導以外で肌を重ねることはありません。
ちなみに男爵も個別で指導を受けました。
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