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34話・火花、散る
しおりを挟むマージさんからの提案に、僕もゼルドさんも一瞬言葉を失った。
元々仲間を増やそうかと考えてはいた。この先の探索を思えば戦力と頭数は必要。今のままではゼルドさんの負担が大きいからだ。
でも、パーティーを組むとなれば一緒に行動する時間が嫌でも増えてしまう。タバクさんと数日間行動を共にするなんて考えられない。
青い顔で黙り込む僕をちらりと見下ろしてから、ゼルドさんが先に口を開いた。
「断る」
キッパリとした断りの言葉に、フロアが一瞬静まり返った。
たまたま居合わせた冒険者たちも動きを止め、雑談を中断してこちらの様子を窺っている。パーティー入り交渉なんて珍しい光景ではないけれど、何故か空気が張り詰めていて身動きが取れない。
「……現在仲間は募集していない。それに、彼の実力が分からない以上何とも答えようがない」
注目が集まっていることに気付いたようで、ゼルドさんは追加で理由を述べた。
二人を交互に見ながら何も言えずに立ち尽くしていると、タバクさんがフッと笑って肩をすくめた。
同時に周囲の緊張も解ける。誰ともなく雑談を再開させてはいるけれど、こちらの会話に聞き耳を立てているようだった。
「そりゃそーだ。俺だって、どれくらい使えるか分からん奴と組みたくない」
「済まない」
「構わねーよ。んじゃ、とりあえずどっか適当なパーティーに入るとするかな」
そう言って、タバクさんはヒラヒラと手を振りながら出て行った。僕の横を通り過ぎる際に「ざんねん」と小さな声で言い残して。
ギルドを介さず直接探すつもりだろうか。気さくで人当たりの良いタバクさんならすぐに仲間が見つかりそう。
気を取り直し、ダンジョンの情報提供に話題を切り替える。
第四階層にある避けては通れない大穴はギルドとしても無視できない存在らしく、乗り越えるための支援をすると約束してくれた。具体的には縄はしごなどの道具の貸出または購入資金の補助だ。
今はまだ僕たちしか到達していないけれど、そのうち追いつく冒険者も現れる。
第四階層での宝箱の出現場所も教えると、マージさんはこめかみを押さえてうーんと唸った。
「なんか、妙に難易度高いわねぇ」
「そうなんですか」
僕は何ヶ所かダンジョンに潜ったことがあるけれど、ほとんどは臨時の支援役として浅層に付き添った程度。
普通は一~五階層までが浅層で、比較的探索が楽なエリアだ。十階層くらいまでが中層、更に潜ると深層と呼ばれ、かなり腕の立つ冒険者パーティーでなければ探索できない。
しかし、僕たちが提供した情報を元に考えると、オクトのダンジョンは第四階層から中層レベルの難易度とみて間違いないらしい。道理で第三階層と第四階層では内部の見た目もモンスターの強さも違うわけだ、と妙に納得した。
「やっぱり仲間を増やしたほうがいいんじゃないの?ライルくんは戦えないんだし」
マージさんの心配はもっともだ。
僕が自分の身を守れるくらい強ければいいんだけど。せめて、ゼルドさんの足を引っ張らないくらいには。
うつむく僕の肩を覆うように大きな手のひらが乗せられた。さりげなく添えられただけの手から服越しにあたたかさが伝わってくる。
「ライルくんは強い。そこらの冒険者とは比べ物にならないほど頼れる仲間だ」
「あらっ!」
ゼルドさんの言葉にマージさんが眼鏡の奥の目を何度か瞬かせた。
「そうなの?ゼルドさん」
「ああ。先日もモンスターの気を引いて私の窮地を救ってくれた。身軽な彼でなければ高い位置にある宝箱には届かないし、そもそも発見にも至らなかった」
「ふんふん」
「それだけではない。ライルくんは携帯食にも工夫を凝らし──」
「ちょ、ちょっと!」
慌てて二人の間に割り込み、話を止める。
ギルドのフロアには少ないながらも他に冒険者が数人いるし、さっきの件で注目を集めている。そんな中で僕の話を大きな声でしないでほしい。誉め殺しツラい。
「ふふっ、うまくやってるようで安心したわ」
「はあ」
なんだかドッと疲れてしまった。
情報提供の件はギルド長のメーゲンさんに相談してから公開し、支援の内容も決めるという。他の冒険者の探索が捗れば『対となる剣』が見つかる可能性も高くなる。自分たちで見つける必要はない。とにかくゼルドさんの鎧が外せればいいんだから。
ギルドを出て、町中をぶらぶら歩く。
今日の用事は全て済ませたが、まだ昼前。食事をするにも宿屋に帰るにも早い時間だ。
「ちょっと散歩しますか」
「そうだな」
路地を入って奥の通りに向かう。新しくできた宿屋がある区画だ。他にも何軒か冒険者向けの店を建てていて、辺りには真新しい木材の匂いが漂い、木槌を打つ音が響いている。
「何ができるんでしょうね。ご飯屋さんかな」
新しい宿屋は突貫工事で造ったとは思えないほど大きくて立派な建物だった。その隣の建設中の建物は宿屋と変わらないくらいの広さがあり、現在は内装と外構工事の真っ最中だ。
ここも宿屋なのかと覗き込んだら、休憩中の大工さんたちと目が合った。タバコをふかしつつ、ニッと笑いかけてくる。
「完成したら遊びに来な」
「はいっ。あの、なんのお店ですか?」
遊びに来いというからには宿屋ではない。
ならば何かの販売店か、それとも娯楽施設か。
「娼館だよ、しょ・う・か・ん♡」
「ふぇっ!?」
夜の娯楽施設だった!
顔を真っ赤にした僕を見て、大工さんたちは笑い転げている。おじさんにからかわれた。
「悪ぃ悪ぃ、ボウズにゃ早かったな。後ろのニイさん、営業始まったらご贔屓に~なんつってな!」
ゲラゲラ笑いながら大工さんは作業に戻っていった。
なんのお店か気になっていたし、判明したのはいいんだけど、僕は子ども扱いされただけだ。ゼルドさんと並ぶと余計に小さく見えるのかもしれない。
「……僕、成人してるんですけど」
「知っている」
この前まで未成年だと思ってたくせに。
頬をふくらませた僕を見て、ゼルドさんが肩を揺らしながら顔をそらした。
「行きたかったのか、娼館」
「行きませんよ。そういうの苦手で」
「そうか、私もだ」
あれ?
娼館を利用するつもりはないのかな。
せっかく近くに出来るというのに。
ぐるりと町の外周を回るように散歩を続ける。メインの通りに戻ると、昼が近いからか人の行き来が増えていた。
その中にタバクさんの姿を見つけた。
数人の冒険者たちと和気あいあいと話しながら近くの定食屋に入っていく。どうやらもう仲良くなったらしい。店の前を通り掛かると、楽しげに騒ぐ声が聞こえてきた。
社交的な彼は誰とでもうまくやれる。タバクさんはあの人たちと組んでダンジョンに行くのかな。ちょっと安心した。
同時に、ふと気になって隣を見上げる。
「あの、ゼルドさんは僕と一緒で退屈しませんか」
「……?」
質問の意図が分からない、みたいな顔をされた。
「ええと、僕以外に話せる人とかいたほうが楽しくないですか?」
「いや」
「そ、そうですか」
アッサリ否定されたけど、これはゼルドさんが周りから怖がられているからだ。見た目だけで恐れ、誰も近寄ってこない。話し方がカタいのも避けられる要因の一つだろう。
こんなに優しい人なのに。
「どちらにせよ、一つの町に長居するつもりはない。関わりがない者とわざわざ親しくなる必要もない」
「……えっ」
淡々と話すゼルドさんの言葉に、今度は僕が驚いた。
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