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すべての始まり
第5話:光
しおりを挟むお兄ちゃんの部屋から出て二階の自室に向かう。
一段一段、ゆっくりと階段を上がると、どんどんざわめきが近くなっていくのが分かった。
この気配、あたしの部屋から?
そろりそろりと足音を立てないように廊下を進み、突き当たりのドアの前に立つ。まだザワザワしている。何人かが壁の向こうで話してる感じ。でも、なにを言ってるかまでは聞き取れない。
何度もドアノブに手を伸ばしては引っ込めるのを繰り返し、にじむ涙を拭う。
怖い。怖い。怖い。
でも──
『家の中にいるのは悪いものじゃない』
『ぼくが保証する』
お兄ちゃんはそう言っていた。
だから大丈夫。
「どりゃあ!!!」
意を決してドアノブを握り、勢いよく開く。
怖いから目は閉じている。
ドアを開けた瞬間、ざわめきがピタリと止んだ。しばらく経っても何の音もしない。恐る恐る瞼を開けると、目の前にはいつもと変わらないあたしの部屋があった。
「…………あれ?」
気合いを入れて開けただけに、何もないと拍子抜けしちゃう。
室内を見回してみても、朝と同じで物の配置も変わってない。勉強机、ベッド、本棚。念のためクローゼットの中とベッドの下も見たけど異常はない。
ドアを開けるまでは確かに何かがいたはず。
隠れるような場所はない。
姿が見えないなんて、もしかしてオバケ!?
この部屋にオバケがいるの?
ザワザワは聴こえなくなったけど気配は消えてない。この部屋には何かいる!!
「あー、お腹空いた。おやつ食べにいこっと」
ワザと大きな声でそう言いながら、あたしは勉強机の上にカバンを置いた。いつもならこのタイミングで制服から普段着に着替えるんだけど、今ここで無防備な状態になるのは嫌だ。そのまま踵を返して部屋から出て、後ろ手にドアを閉める。
廊下を歩いて階段に向かうフリをして再び部屋の前に戻り、今度は無言でドアを少しだけ開けて隙間から覗いてみた。
──あ。
あたしの視界に入ったのは、部屋の中を漂う輝く光の塊。それが、いち、にい、……七つ!
しかも、ひとつひとつ色が違う。
「きれい」
思わず声が出ちゃった。
そしたら、光の塊がチカチカと点滅し始めた。
あたしに見られたことに気付いた?
光はバラバラに机やベットの下、カーテンの裏に移動したけど、それを追い掛けていくと隠れるのを諦めたようで部屋の真ん中に集まった。
「……あなたたち、オバケ?」
さっきまでの恐怖はもうない。見た目もきれいだし、動きや反応が可愛く思えてきたからだ。
返事には期待してなかったんだけど……
『我らはオバケなどではない』
「しゃべったァ!!」
大人の男の人みたいな低い声がして、あたしはその場で飛び上がった。自分で聞いといてビックリするなんて失礼だとは思うけど、光の塊が喋るとか、驚くなってほうが無理でしょ。
『其方が生まれる前から側にいる』
「え、そうなん……ですか」
思わず敬語になっちゃうのは、相手が自分より年上っぽいからだ。声からして大人なのは間違いないもんね。
ていうか、今なんて言った?
生まれる前から???
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