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消えたクラスメイト

第18話:浄化

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 紫色の光が輝きを増す度に地鳴りと共に足元がグラついた。

「ちょ、ちょっと、あっ」

 足場が崩れ、下に落ちるかと思った瞬間、伸びてきた蔦があたしの腕や足に絡まって保護してくれた。そのまま安全な場所に移動して降ろされる。

 植物を操っているのは緑色の光かな?

「ありがとう」

 お礼を言うと、緑色の光はあたしの側を飛びながらチカチカと点滅して応えてくれた。

 あたしは助けてもらったけど、禍ツ神マガツカミが取り憑いている叶恵かなえちゃんは地面に出来た亀裂に挟まって動けなくなっていた。胸のあたりまで地面に埋まっている状態だ。

 それを見下ろす六つの光。

『このまま生き埋めにしてしまおうか』
『そうしよっか~。祠の足元で眠ればいいよ』

 御水振オミフリさんと小凍羅コトラさんが何やら物騒な話をしている。あたしには聞こえないけど、他の光も賛同してるみたい。

「お、お願い。叶恵ちゃんを助けて……!」

 あたしの言葉を聞いて、緑色の光が他の六つの光に向かって飛んでいった。そして、何かを訴えるように点滅した。

『……仕方ない。そこまで言うのなら』

 おっ、御水振さんが方針を変えたっぽい。
 それくらい、緑色の光の意見を尊重しているということなのかな。

阿志芭アシハ

 御水振さんの呼び掛けで橙色の光が前に出た。地面に埋まる禍ツ神に近付き、その目の前で眩く光り輝いた。金色に輝く光が降り注ぐ。

『クッ……うう……!』

 光に照らされた禍ツ神が突然苦しみ始めた。
 もしかして浄化されてる?

 このまま浄化し続ければ禍ツ神は消えるのかもしれない。でも、声も姿も叶恵ちゃんだ。苦しそうにしているのを見るのは辛い。
 そう思っているのが伝わったのか、禍ツ神はこちらを見上げて悲しそうな顔をした。赤く光る目の端からは涙がポロポロこぼれている。

夕月ゆうづきちゃん、たすけて』

 それはまるで叶恵ちゃん自身の訴えのようだった。

 あれは本当に禍ツ神だけを苦しめているの?
 叶恵ちゃんを傷付けるようなことはしてない?

 先程からの御水振さんたちの態度をみると、あたしに危害を加えようとした叶恵ちゃんを助けてくれるとは思えない。

 どうしよう。
 間に入って妨害すべき?

 ぐらつく心を読んだのか、緑色の光が再び側にやってきた。そして、あたしの目線より少し高い位置でぴたりと止まった。数秒間じっと見つめ合う。

 緑色の光は穏やかに光るのみ。
 何を言ってるかは分からない。

 でも『信じて』と言われた気がした。

『夕月ちゃん、苦しい、はやくたすけて』

 叶恵ちゃんの声で、叶恵ちゃんの姿で泣きながら訴える禍ツ神の前に膝をつき、その手を握る。

「少しだけ我慢してね」
『ッ! 夕月ちゃん、私を見捨てるの!?』
「見捨てないよ。神様だもん」

 祠が打ち捨てられたせいで禍ツ神になったのなら再び祀り直せばいい。こんな誰も来ない場所なんかじゃなく、もっと人が来やすい場所に。
 そりゃあ、簡単なことじゃないと思うけど。

「神様は人をしあわせにするんでしょ? だったら、こんなことしてちゃダメだよね」
『あ……ああ……』

 橙色の光が一際大きく輝き、叶恵ちゃんに取り憑いていた禍ツ神の穢れた部分を消し去る。
 黒いすすみたいな穢れが宙に浮かび上がり、端の方から粉々に砕けて光の粒に変わっていく。光の粒は、地面に落ちてバラバラになった石造りの祠に降り注いだ。
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