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未来のはじまり
第87話:最後の抱擁 1
しおりを挟む七つの光との繋がりは完全に断ち切られた。
八十神くんが張った結界のおかげで彼らはどこにも行かず、まだ室内をふわふわと漂っている。
……この結界を解いたら、もうお別れだ。
そう思ったら悲しくて、涙が勝手に溢れてくる。ぼろぼろと泣くあたしを気遣うように、七つの光が周りに集まってきた。
『お嬢ちゃん、泣くなよぉ~』
「で、でも、だって……」
『あーもう、そんなんで大丈夫かチビ助』
「だいじょうぶじゃない」
『明るいだけが取り柄だろーが。笑えよ』
『私たちは皆おまえの笑顔が好きなんだよ』
『そうそう。泣き顔はあまり見たくないな』
「むり……」
『別れを惜しむ気持ちは嬉しいが離れがたくなるだけだ。……分かるな?』
「……うん」
次々に慰められ、涙を拭う。
前世では酷い別れ方ばかりだった。
今世くらいは笑顔でさよならしなきゃ。
分かっているのに、やはり涙が止まらない。
「ねえ、いい? みんな」
「分かった」
「了解」
後ろからボソボソとやり取りする声が聞こえてきた。そっちを振り返ると、千景ちゃんを始めとした七人が立っていた。
「もうこれで最後なんでしょ? 私たちの体を貸すから、後悔のないようにお別れしたら?」
「そーそー。夕月ちゃんに触れられる最後のチャンスだよ」
「玲司、言い方がやらしい」
「なんで俺だけ!?」
光の運び手である七人が体の提供を申し出てくれた。驚いたけど、すごく嬉しい。今まで話せても触れ合うことは出来なかったから。
『じーさん、借りるぜ』
「うむ」
まず、黄色の光……太儺奴さんが玲司さんのおじいさんに乗り移った。先ほどまでの穏やかな顔付きが少しキリッとしている。あたしの頭をわしわしと撫でながら声を掛けてくれた。
『チビ助、元気でな。もう危ない真似すんじゃねーぞ。次からは守ってやれねーから』
「うん、わかった」
『ホントに分かってんのかァ?』
「……信用ないなあ」
『はは、嘘だよ。信じてる』
ニカッと笑うその顔は記憶の中の太儺奴さんそのままで、一瞬だけあの頃に戻った気がした。
『良いか鞍多』
「はいよ。あ、俺は教師なんで、生徒との過度な接触は遠慮してくれよ」
次は赤色の光……華陀真さんが鞍多先生に乗り移った。
『おまえにはどんなに詫びても足らん。今世で幸福な人生を送れるよう願っておる』
「ありがとう主人様」
華陀真さんはあたしの肩に手を置いてそう言った後、軽くハグをしてくれた。
「あ、こら! 生徒に抱き着くな!」
『やかましい、これくらい構わんだろうが!』
「おまえが良くても俺は──、アッ、ちょっ、伊能撮るな! 校長に見られたらマズいんだって!!」
鞍多先生と華陀真さんがひとつの体で言い争いを始め、千景ちゃんがスマホで写真を撮って更に大騒ぎになってしまった。
『千景、頼む』
「はいはーい」
今度は千景ちゃんの中に紫色の光……螺圡我さんが乗り移った。途端に目が吊り上がり、踏ん反り返った姿勢になる。
『……俺様はクソみてえな生き方しかしてこなかったけど、おまえと出会ったことだけは悔やんでねえよ。おまえもそうだろ?』
「うん、後悔してない」
『なら良い……しっかり生きろよ!』
そう言って、螺圡我さんはあたしを正面から思いっ切り抱き締めてきた。千景ちゃんの体だから抵抗がない。あたしも背中に腕を回して抱き締め返した。
『夢路、借りますよ』
「はい、どうぞ」
橙色の光……阿志芭さんが夢路ちゃんに乗り移った。元々穏やかな顔がよりしっとりとした大人の落ち着きを見せている。
『体にはくれぐれも気をつけて。おまえは寝相が悪いから心配だよ。お腹を冷やさぬように。あと、いつも母君から言われている手洗いとうがいを忘れずに。それと、』
指折り日常生活の注意事項を伝えてくる。
「全部小言ってどうなの」
『ああ済まない。もう側で見ていてやれなくなると思うと、つい』
「……お師匠様」
優しい眼差し。夢路ちゃんの瞳から涙がこぼれた。中にいる阿志芭さんが泣いているんだ。それを見て、あたしもまた泣けてきてしまった。二人で泣きながらハグをして、体を離す時には笑顔に戻った。
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