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未来のはじまり
第88話:最後の抱擁 2
しおりを挟む『叶恵ちゃん、身体借りるよ~』
「は、はいっ、どうぞっ!」
紫色の光……小凍羅さんが叶恵ちゃんに乗り移った。さっきまでの緊張した面持ちから一転、満面の笑みを浮かべている。こんな曇りのない笑顔の叶恵ちゃん、初めて見た!
でも、ふにゃりと眉を下げて抱き着いてきた。
『お嬢ちゃんとサヨナラしたくないよ~!』
「あたしも。寂しいね」
『元の場所に戻っても忘れないからね』
「うん、うん」
小凍羅さんはぎゅうぎゅうと腕に力を込めてくるけど、体は細身の叶恵ちゃんだから全然苦しくない。
暗い雰囲気を吹き飛ばしてくれる人だった。
色んなことがあったけど、底抜けに明るい彼にずっと励まされてきた。
「今までありがとう」
『ボクこそ、すごく楽しかった。ありがと』
『朝陽』
「うん」
お兄ちゃんの身体に入ったのは緑色の光……瑪珞さんだ。元々お兄ちゃんによく似ているから、乗り移っても表情や仕草にあまり変化はない。
『朝陽を通じて再びおまえと兄妹として過ごせた。幸せな時間だったよ』
「兄さま」
『おまえだけが私の限られた世界を彩る存在だった。……守ってやれなくて済まなかった』
前世でのことを謝罪しながら、瑪珞さんが優しく頭を撫でてくれた。その感触が嬉しくて、あたしから抱き着いた。
「兄さま大好き!」
『……私もだよ』
残るは一人。
『玲司』
「ほいよ、お好きにどーぞ」
両手を広げて待ち構える玲司さんに青色の光……御水振さんが重なり、乗り移る。終始笑顔だった玲司さんの顔がビシッと真顔になった。
……真面目な顔をするとカッコいいんだなあ。
正面から立って向き合う。
玲司さんはお兄ちゃんより少し背が高い。光の時はあたしの目線に高さを合わせてくれていたけど、今はあたしが見上げないと顔が見れない。実際の御水振さんもこれくらい背が高かったんだろうか。
『其方の成長をここまで見守ることが出来て良かった。例え離れても想う気持ちは変わらぬ』
「うん、ありがとう」
『……つつがなく暮らせよ』
そう言うと、御水振さんは黙り込んだ。
冷静で落ち着いた人だった。
あたしのことを一番に考えてくれていた。
他の人に冷たかったりしたけれど、あれは全てあたしを優先していたからだ。
水面のように穏やかで、でも熱い人だった。
離れるのがこんなに辛くなるなんて思わなかった。
「……さ、さよなら」
別れの言葉を口に出したら、その拍子に涙がまた溢れた。視界が歪んで玲司さんの顔がよく見えない。
涙の向こう側に映る人影。
あれは……
少し節くれだった手があたしの頬に伸ばされ、指先でそっと涙を拭った。反射的に目を閉じた時、何かが唇に一瞬だけ触れた。
なんだろうと目を開けると、何故か大乱闘が起きていた。お兄ちゃんが玲司さんを羽交い締めにして、千景ちゃんたちがそれを囲んでキャーキャー騒いでる。
「玲司おまえ何やってんだ!」
「俺じゃねーよ、御水振がやったんだよ!」
「大学生が中学生に手ぇ出した~!」
「やだ、そういう人だったんですね」
「玲司……他所様の大事なお嬢さんになんという」
「ち、違うってぇ!!」
なんだか楽しそう。
つられて、あたしも笑った。
みんながいてくれて良かった。
もし一人だったら、お別れがツラくてわんわん泣いちゃうところだった。あたしが泣いてたら、御水振さんたちが安心して元の場所に戻れないもんね。
「別れは済んだみたいだね」
「う、うん」
八十神くんの言葉に頷く。
この部屋に張られた結界を解いたら、七つの魂はそれぞれ祀られている場所へと戻ってしまう。
こうして集まることは、もう無い。
目の前には七つの光が浮かんでいる。言いたいことは色々あるはずなのに、うまく言葉が出てこない。
「ええと、元気でね、みんな」
『ああ、其方も』
『風邪を引かぬように』
『あばよ』
『無茶すんじゃねーぞ!』
『今のご家族を大事にね』
『お嬢ちゃん、まったね~!』
『達者でな』
「……うん、ありがとう」
結界が解かれた瞬間、七つの光はそれぞれ違う方角へと飛び去った。
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