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未来のはじまり
第89話:物好きな大人
しおりを挟む「さて、仕事も終わったし、僕も帰ろうかな」
「帰るって、どこに?」
「さっき言ったよね。施設だよ」
そうだった。八十神くんは仕事でこの町に引っ越してきたんだ。
お兄ちゃんの魂を神格化させるため。
それと、七つの魂を解放するために。
当初の目的を果たし、更にあたしを天界のお役目から完全に解放することにも手を貸してくれた。
あの夜は怖かったけど、最終的に味方になってくれたと考えていいのかな?
「本気で殺されそうになったっていうのに、榊之宮さんは呑気だね」
「ウッ……」
また心を読まれた!
どうせあたしは能天気ですよーだ。
「アンタがどっか行くのは構わないけど、転校してきてまだ一ヶ月半だよ? 流石に学校もおかしいと思うんじゃない?」
「家庭の事情って言っておけば根掘り葉掘り聞かれはしないよ。わざわざ面倒ごとに関わろうとする物好きな教師なんか今時いないしね」
「……その話の流れで俺を見るな八十神」
ちらりと視線を向けられて、鞍多先生は苦々しい表情になった。
お兄ちゃんに巻き込まれた形になるけど、なんだかんだで先生は親身になって協力してくれた。面倒臭がりに見えるけど、実は生徒思いの熱い教師かも。
「そのことで、ちょっと提案がある」
玲司さんのおじいさんが軽く手を上げ、話に入ってきた。
「八十神くん。君さえ良ければ、儂が身元保証人になって住居などを提供したいんだが」
はい?
どういうこと???
「おい、じーちゃん!」
「うるさいぞ玲司。……儂は色々な役をやっておってな、その中のひとつに『保護司』というのがある。刑務所や少年院の受刑者の仮釈放時の身元引受人になったり、出所後の日常生活に戻るための助言や手助けをしたりとかな」
「僕は犯罪者じゃないけど?」
「わかっとる。しかし、その、天界からの仕事の度に周りに暗示やら何やら掛けるのも手間だろう。もう施設から出て、全ての事情を知っている者……例えば、儂のような者の世話になればいいんじゃないか」
「……」
「自分で言うのもなんだが、儂は社会的な立場があって信用もある。そういった手続きにも慣れておるし、実績もある。もちろん君次第ではあるが」
突然の申し出に、八十神くんは戸惑っているように見えた。返答に困っているのか、何度も口を開きかけては閉じるを繰り返している。
嫌ならすぐに断るよね。
そうしないってことは、これは彼にとってかなり魅力的な提案だということだ。
「施設暮らしが良いならそれでも構わん。だが、どのみち高校を卒業する頃には退所せねばならんだろう。アパートを借りたり、進学や就職するにも身元保証人やら何やらが必要になる。全部暗示を掛けていたらキリがない。これも何かの縁だ。このジジイを利用したらいい」
玲司さんのおじいさんは懐が深い。
穏やかな目で八十神くんを見据え、彼の言葉をまっている。
「……すすんで面倒ごとに関わろうとするなんて、ここには物好きな大人しかいないね」
「だから、俺を見るな八十神」
「こんなことしても、あなたには何のメリットもないと思うけど」
「天界関係者に恩を売りたいだけかもしれんぞ? さっき早速バカ孫が悪さをしよったからな。儂が生きとるうちに出来るだけ徳を積んでおかんと」
「わ、悪さしたのは俺じゃねーよ!」
「……はは、そうだね。考えておくよ」
おじいさんは八十神くんと無理やり連絡先を交換して、この場は御開きとなった。
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