42 / 94
42話・護衛同士の親睦会は四対一の肉弾戦で
しおりを挟むイムノスが来るまでデオガルドに滞在することになった。
滞在二日目の朝、魔物の骨を細工するギルを残して屋敷内を散策する。使用人たちは俺が半魔族だと知っているので耳は隠していない。屋敷の敷地内では重くて分厚い外套を着込まずに済む。軽装で歩き回っているうちに庭に出た。
教会に隣接するトーレスの屋敷は部屋数が多いだけではなく庭も広い。花木を植えて愛でるためではない。各集落の代表がグレフ神の像を持参した際に馬車を停めておく場所を確保するため。極めて実用的な理由だ。
「おっ、先客か」
庭の片隅にある四阿に四つ人影を見つけた。フィッツの護衛たちだ。そのうちの一人、いつもの奴が俺の姿を見つけて話しかけてきた。
「半魔族も鍛練しに来たのか」
「ん。ずっと部屋にいんのも退屈だしな」
部屋にこもりきりでは体が鈍ってしまう。かと言って、一人で町に行くわけにもいかない。消去法で選んだ暇つぶしだったのだが、意外にも「良い心掛けじゃないか」と褒められた。
「ちょうど今から始めるところだ。一緒にやるか?」
「いいのか?」
「構わん。それに、半魔族がどれだけ戦えるか我々も興味があるからな」
そう言って、四人は俺を取り囲んだ。コイツらは人間の中でもかなり大柄な部類だ。全員俺より頭ひとつぶん背が高く、そばに立たれると見上げなくてはならなくなる。
「半魔族はどうやって戦うんだ」
「こんな細腕の半魔族に護衛が務まるのか?」
昨日の大浴場ではギルに怯えてフィッツの後ろに隠れていた癖に、俺一人が相手だと舐めた態度を取ってくる。
「半魔族半魔族ってうるせえな。俺には『レイ』って名前があるんだよ!」
「名前で呼んでほしけりゃ実力を示せよな」
「言われなくても!」
安い挑発だが、下に見られたままではいられない。ギルから人前での魔法の使用は禁止されているが、コイツらも今は武器や防具を身に付けていない。体術だけで相手をすると決めた。
一番背の高い男が伸ばした腕をかわし、次いで一番筋肉質な男が掴みかかってきたので手刀で軌道をそらして払う。すると、他の二人が同時に飛びかかってきた。一旦身を屈めて囲みから抜け出し、跳躍して四阿の屋根に着地すると、四人から感嘆の声が上がった。
「おお、身軽だ」
「まるで猿だ」
「なんだと!」
またしても挑発され、屋根から飛び降りた。地面ではなく背の高い男の首に脚を巻きつけ、後方に体重をかけてバランスを崩す。倒れる直前に離れ、近くに立っていた男に駆け寄って回し蹴りを入れた。俺の蹴りを避けることばかりに気を取られたからか、後ろにあった庭木に背を打ちつけて悶絶している。
続けて筋肉質な男に飛び掛かるが、コイツは体幹が安定し過ぎている。殴った俺の拳のほうが痛くて思わず舌打ちした。その隙をつき、残りの一人が俺を背後から捕まえて羽交い締めにする。身動きが取れなくなった俺は再び囲まれてしまった。
「多勢に無勢で、まあ良くやったほうだな」
「ホント身軽だな」
「弱っちいって発言は撤回してやるか」
四対一では分が悪い。魔法なしではここまでが限界だろう。
「俺の負けだ」
負けを認め、両手を上げる。すんなり降参した俺に、四人は愉快そうに笑い出した。
「お、やけに素直じゃないか」
「まあ気を落とすな。よくやったよ」
「もうちょい体重がありゃ効いたかもな」
「身軽なだけじゃ相手は倒せんぞ~」
得意げに上から目線の褒め言葉と助言を寄越してくる。手合わせは終わりとばかりの態度にムカつき、サッと身を屈めて足払いを仕掛けた。油断しまくっていたので全員引っかかってスッ転んだ。反撃される前に四阿の屋根に飛び乗る。
「半魔族、てめえ!」
「戦闘中に気ィ抜くほうが悪いんだよ、ばぁか」
地面に転がったまま文句を言う四人を屋根の上から見下ろしながら舌を出してやる。試合ならともかく実際の戦いでは明確な終わりはない。もし俺が凶悪な魔族だったら油断した時点で命はないのだ。
「随分と楽しそうだな」
「ふ、フィッツ様!」
そこへフィッツが現れた。コイツも鍛練するようで、いつものキッチリした服ではなく動きやすい服装に着替えている。
「全員でかかっても半魔族に勝てなかったか」
「いえ、コイツが卑怯な真似をしまして」
無様な姿を目撃され、必死に弁解する四人。だが、フィッツはまともに受け取らなかった。
「私は最初から見ていたぞ。数の利がありながら情けない。素直に負けを認めることだ」
「は、はい……」
フィッツからここまで言われてしまえば逆らえない。四人は俺に向き直り、揃って頭を下げた。
「俺たちの負けだ、半魔族」
しかし、呼びかたは以前のままだ。気に食わないので訂正してやることにした。
「俺は実力を示したぞ。ちゃんと呼べよ」
数分前のやり取りを思い出しているのか、四人は互いに顔を見合わせた。そして、大きな体に見合わないほど小さな声でこう言った。
「……侮って悪かった。レイ」
ギルやテオ以外から名前で呼ばれたことがなかったので、他人から「レイ」と言われると違和感しかない。
「え。なんか気持ちわるっ」
素直な感想を呟くと、四人は一斉に立ち上がって四阿の上にいる俺に向かって抗議してくる。
「なんだとキサマぁ!」
「調子に乗るなよ半魔族!」
「フザけんなクソガキ!」
「降りてこいゴルァ!」
あまりにも口汚い悪態をつくので、見兼ねたフィッツが止めに入った。
「おまえたち、私の護衛なら礼儀と品性を忘れるな」
「申し訳ございません!」
「罰として、デオガルドの外周を走ってこい」
「はっ!」
デオガルドは割と大きな都市で、外周はかなりの距離になる。素直に屋敷の敷地外へと駆けていく四人を見送っていると、フィッツが俺に手招きをした。降りてこいという意味だと受け取り、四阿の屋根から飛び降りる。
「なかなかやるではないか。ギルバートの護衛を務めるだけの腕はあるようだな」
「そりゃどーも」
軽く返事をすると、フィッツは俺の頭に手を置いた。あまりにも当たり前のようにぽんぽんと叩くものだから、手を振り払うことすら忘れてしまう。
「ギルバートは?」
「部屋で魔物の骨をいじってる」
「……そうか」
ギルに用事があって尋ねたわけではないらしい。フィッツは四阿の長椅子に浅く腰掛け、またしても俺を手招きした。近くに来いという意味だと解釈して歩み寄る。
「あの者たちは貴族の次男か三男でな、私の旅路に同行してくれている。腕は立つし、私の前では非常に礼儀正しいのだが、おまえを相手にしているとどうも素が出るようだ」
「はあ」
長椅子のそばに立つ俺を更に手招きするフィッツ。仕方なく長椅子の向かいに置いてある一人掛けの椅子に座ると、ヨシと言わんばかりに目を細めた。どうやら話し相手が欲しかったらしい。
四人を相手に立ち回ったせいで少し疲れている。汗が引くまでは付き合ってやるか、と椅子の背もたれに体重を預けた。
26
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方
ばつ森⚡️8/22新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】
公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。
「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」
世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!!
【謎多き従者×憎めない悪役】
4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。
原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし
ギャップがあり過ぎるけど異世界だからそんなもんだよな、きっと。
一片澪
BL
※異世界人が全く珍しくないその世界で神殿に保護され、魔力相性の良い相手とお見合いすることになった馨は目の前に現れた男を見て一瞬言葉を失った。
衣服は身に着けているが露出している部分は見るからに固そうな鱗に覆われ、目は爬虫類独特の冷たさをたたえており、太く長い尾に鋭い牙と爪。
これはとんでも無い相手が来た……とちょっと恐れ戦いていたのだが、相手の第一声でその印象はアッサリと覆される。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
転生執事は氷の公爵令息の心を溶かしたい【短編】
堀川渓
BL
事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!?
しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!!
短編/全10話予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる