【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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42話・護衛同士の親睦会は四対一の肉弾戦で

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 イムノスが来るまでデオガルドに滞在することになった。

 滞在二日目の朝、魔物の骨を細工するギルを残して屋敷内を散策する。使用人たちは俺が半魔族だと知っているので耳は隠していない。屋敷の敷地内では重くて分厚い外套を着込まずに済む。軽装で歩き回っているうちに庭に出た。

 教会に隣接するトーレスの屋敷は部屋数が多いだけではなく庭も広い。花木を植えて愛でるためではない。各集落の代表がグレフ神の像を持参した際に馬車を停めておく場所を確保するため。極めて実用的な理由だ。

「おっ、先客か」

 庭の片隅にある四阿あずまやに四つ人影を見つけた。フィッツの護衛たちだ。そのうちの一人、いつもの奴が俺の姿を見つけて話しかけてきた。

「半魔族も鍛練しに来たのか」
「ん。ずっと部屋にいんのも退屈だしな」

 部屋にこもりきりでは体が鈍ってしまう。かと言って、一人で町に行くわけにもいかない。消去法で選んだ暇つぶしだったのだが、意外にも「良い心掛けじゃないか」と褒められた。

「ちょうど今から始めるところだ。一緒にやるか?」
「いいのか?」
「構わん。それに、半魔族がどれだけ戦えるか我々も興味があるからな」

 そう言って、四人は俺を取り囲んだ。コイツらは人間の中でもかなり大柄な部類だ。全員俺より頭ひとつぶん背が高く、そばに立たれると見上げなくてはならなくなる。

「半魔族はどうやって戦うんだ」
「こんな細腕の半魔族に護衛が務まるのか?」

 昨日の大浴場ではギルに怯えてフィッツの後ろに隠れていた癖に、俺一人が相手だと舐めた態度を取ってくる。

「半魔族半魔族ってうるせえな。俺には『レイ』って名前があるんだよ!」
「名前で呼んでほしけりゃ実力を示せよな」
「言われなくても!」

 安い挑発だが、下に見られたままではいられない。ギルから人前での魔法の使用は禁止されているが、コイツらも今は武器や防具を身に付けていない。体術だけで相手をすると決めた。

 一番背の高い男が伸ばした腕をかわし、次いで一番筋肉質な男が掴みかかってきたので手刀で軌道をそらして払う。すると、他の二人が同時に飛びかかってきた。一旦身を屈めて囲みから抜け出し、跳躍して四阿の屋根に着地すると、四人から感嘆の声が上がった。

「おお、身軽だ」
「まるで猿だ」
「なんだと!」

 またしても挑発され、屋根から飛び降りた。地面ではなく背の高い男の首に脚を巻きつけ、後方に体重をかけてバランスを崩す。倒れる直前に離れ、近くに立っていた男に駆け寄って回し蹴りを入れた。俺の蹴りを避けることばかりに気を取られたからか、後ろにあった庭木に背を打ちつけて悶絶している。

 続けて筋肉質な男に飛び掛かるが、コイツは体幹が安定し過ぎている。殴った俺の拳のほうが痛くて思わず舌打ちした。その隙をつき、残りの一人が俺を背後から捕まえて羽交い締めにする。身動きが取れなくなった俺は再び囲まれてしまった。

「多勢に無勢で、まあ良くやったほうだな」
「ホント身軽だな」
「弱っちいって発言は撤回してやるか」

 四対一では分が悪い。魔法なしではここまでが限界だろう。

「俺の負けだ」

 負けを認め、両手を上げる。すんなり降参した俺に、四人は愉快そうに笑い出した。

「お、やけに素直じゃないか」
「まあ気を落とすな。よくやったよ」
「もうちょい体重がありゃ効いたかもな」
「身軽なだけじゃ相手は倒せんぞ~」

 得意げに上から目線の褒め言葉と助言を寄越してくる。手合わせは終わりとばかりの態度にムカつき、サッと身を屈めて足払いを仕掛けた。油断しまくっていたので全員引っかかってスッ転んだ。反撃される前に四阿の屋根に飛び乗る。

「半魔族、てめえ!」
「戦闘中に気ィ抜くほうが悪いんだよ、ばぁか」

 地面に転がったまま文句を言う四人を屋根の上から見下ろしながら舌を出してやる。試合ならともかく実際の戦いでは明確な終わりはない。もし俺が凶悪な魔族だったら油断した時点で命はないのだ。

「随分と楽しそうだな」
「ふ、フィッツ様!」

 そこへフィッツが現れた。コイツも鍛練するようで、いつものキッチリした服ではなく動きやすい服装に着替えている。

「全員でかかっても半魔族に勝てなかったか」
「いえ、コイツが卑怯な真似をしまして」

 無様な姿を目撃され、必死に弁解する四人。だが、フィッツはまともに受け取らなかった。

「私は最初から見ていたぞ。数の利がありながら情けない。素直に負けを認めることだ」
「は、はい……」

 フィッツからここまで言われてしまえば逆らえない。四人は俺に向き直り、揃って頭を下げた。

「俺たちの負けだ、半魔族」

 しかし、呼びかたは以前のままだ。気に食わないので訂正してやることにした。

「俺は実力を示したぞ。ちゃんと呼べよ」

 数分前のやり取りを思い出しているのか、四人は互いに顔を見合わせた。そして、大きな体に見合わないほど小さな声でこう言った。

「……侮って悪かった。レイ」

 ギルやテオ以外から名前で呼ばれたことがなかったので、他人から「レイ」と言われると違和感しかない。

「え。なんか気持ちわるっ」

 素直な感想を呟くと、四人は一斉に立ち上がって四阿の上にいる俺に向かって抗議してくる。

「なんだとキサマぁ!」
「調子に乗るなよ半魔族!」
「フザけんなクソガキ!」
「降りてこいゴルァ!」

 あまりにも口汚い悪態をつくので、見兼ねたフィッツが止めに入った。

「おまえたち、私の護衛なら礼儀と品性を忘れるな」
「申し訳ございません!」
「罰として、デオガルドの外周を走ってこい」
「はっ!」

 デオガルドは割と大きな都市で、外周はかなりの距離になる。素直に屋敷の敷地外へと駆けていく四人を見送っていると、フィッツが俺に手招きをした。降りてこいという意味だと受け取り、四阿の屋根から飛び降りる。

「なかなかやるではないか。ギルバートの護衛を務めるだけの腕はあるようだな」
「そりゃどーも」

 軽く返事をすると、フィッツは俺の頭に手を置いた。あまりにも当たり前のようにぽんぽんと叩くものだから、手を振り払うことすら忘れてしまう。

「ギルバートは?」
「部屋で魔物の骨をいじってる」
「……そうか」

 ギルに用事があって尋ねたわけではないらしい。フィッツは四阿の長椅子に浅く腰掛け、またしても俺を手招きした。近くに来いという意味だと解釈して歩み寄る。

「あの者たちは貴族の次男か三男でな、私の旅路に同行してくれている。腕は立つし、私の前では非常に礼儀正しいのだが、おまえを相手にしているとどうも素が出るようだ」
「はあ」

 長椅子のそばに立つ俺を更に手招きするフィッツ。仕方なく長椅子の向かいに置いてある一人掛けの椅子に座ると、ヨシと言わんばかりに目を細めた。どうやら話し相手が欲しかったらしい。

 四人を相手に立ち回ったせいで少し疲れている。汗が引くまでは付き合ってやるか、と椅子の背もたれに体重を預けた。
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