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41話・護衛同士の交流と情報交換は必要…?
しおりを挟むデオガルドに到着後すぐに教会を訪ねると、なんとフィッツが滞在していた。カダロードで別れて以来、およそ二ヶ月ぶりの再会だ。俺たちが辺境を旅している間、フィッツは護衛を引き連れて大陸内部にある都市や町を回っていたらしい。そろそろ出立しようかという時に俺たちが現れた、というわけだ。
「奇遇だな、ギルバート。元気そうでなによりだ」
「ええ、あなたも。フィッツ」
教会内の応接室でテーブルを挟んで座り、挨拶を交わす二人。俺はギルの後ろに、フィッツの護衛たちはフィッツの後ろに立って控えている。
デオガルドの教会で一番偉い聖職者トーレスは人の良さそうな小柄な老人だ。グレフ神の末裔が二人揃った状況に恐縮していたが、ギルの話を聞いて緊張が吹き飛んだらしい。すぐさまカダロードに使者を出し、イムノスを呼ぶ手配をしてくれた。
本来ならば俺たちがカダロードに出向くべきだが、現場が近いデオガルドで話をしたほうが良いと判断した。
バルガードに役人を派遣してもらう予定だったが、こちらはとりあえず保留になった。対魔族の方針を定めてから対応したいとギルは考えているようだ。いくら護衛の兵士を連れていても魔族に遭遇したら勝ち目はない。もし派遣するのなら護身用の簡易結界を持たせたほうがいい。人数分作るとなると時間がかかるので、どのみち即日派遣とはいかないのだ。
詳しい話はイムノスが到着してからという話になっている。それまでの間、教会に隣接しているトーレスの屋敷に滞在させてもらうことになった。
「イムノス様が到着されるまでゆっくりお過ごしください。必要なものは可能な限りご用意させていただきます」
「ありがとうございます。しばらくお世話になります、トーレス様」
トーレスの申し出に、ギルは頭を下げて感謝の意を表した。フィッツたちもトーレスの屋敷で世話になっているので、滞在中は嫌でも顔を合わせる機会が増える。
早速案内されたトーレスの屋敷は華美ではないが広くて部屋数が多い。俺たちやフィッツたちが泊まってもまだ余裕があるほどだ。
部屋がたくさんある理由は、各集落の代表を宿泊させるためだ。辺境の集落にはグレフ神の血族は滅多に来ないが、数年に一度神の像に血を補充しなければ結界の効果が切れてしまう。故に、血族が訪れる日に各地の集落から都市に代表または代理の人間が集まるのだ。宿泊施設として使うために大きな屋敷を維持しているという。
イムノスとは違い、トーレスは分家の者ではない。過去に叔母がグレフ神の血を引く子を産んだが乳飲み子のうちに死んでしまい、分家認定はされなかった。それでも褒賞と教会内での優遇などがあり、現在はデオガルドの教会の責任者を務めている。イムノスはカダロードの教会だけでなく都市の責任者も兼任しているので、権力の差はかなりあるらしい。
食事までの時間、俺たちはあてがわれた部屋で休憩することにした。夜通し山道を駆けてきたせいで足腰が痛むし、体も服も汚れている。屋敷にいる間は使用人に頼めば洗濯もしてくれるというので、最低限の着替えだけ残して全部お願いしておいた。
「レイ、髪を洗ってください」
「やだよめんどくさい」
ギルのいつもの我が儘だが、今日は俺も疲れている。さっさと風呂に入って休みたいので断ったのだが。
「この屋敷のお風呂は大浴場で、階下にあるってフィッツが言ってました」
「大浴場……?」
「複数の人が一度に入れる大きなお風呂ですよ」
「へえ、そんなのあるのか」
今までいろんな場所に泊まってきたが、大体は部屋に専用の浴室があった。タイル張りの狭い部屋の中に一人で浸かるのがやっとの湯舟が設置され、熱い湯が大きな水がめに貯められていて、必要なぶんだけ木桶ですくって使う。ギルの髪を洗う時は湯舟の外からやっているのだ。袖まくりしても濡れるからあまりやりたくないのだが、ギルがしつこくねだるから毎回仕方なく洗ってやっていた。
「ここは各地の集落の代表が利用しますから、各部屋に湯を運ぶより効率が良いのだと思います」
「確かになあ」
沸かした湯を運ぶのは重労働だ。湯舟だけでなく水がめも満たさなくてはならない。上階に浴室があれば運ぶ難易度も跳ね上がってしまう。一階の湯沸かし場のそばに大浴場があれば、湯を運ぶ仕事がなくなる。使用人にとって非常にありがたい話だろう。
「ですから、今日は一緒に入りましょう!」
「は?」
そういうワケで、ギルと一緒に風呂に入ることになった。階下に降りて大浴場へと向かう。男女で入り口が分かれていて、まず脱衣所、更に奥に浴室がある。服を脱いでから手拭いを持って扉を開けると、湯気で視界が真っ白になった。
「うわ、本当に広いな!」
「走ったら危ないですよ、レイ」
「わーってるって!」
大浴場は広くて天井が高く、大きな窓があって開放感がある。石造りの大きな湯舟は同時に十人くらい入れそうだ。
「ギル、先に髪洗ってやるよ」
「お願いします」
洗い場の椅子にギルを座らせ、後ろに陣取る。手桶で湯を汲み、頭からぶっかけてから洗髪剤を使って洗ってやった。ギルは鼻唄を口ずさみながら自分の体を洗っている。
すると、大浴場の扉が開いて何人か入ってきた。
「おや、ギルバートじゃないか」
「フィッツたちも今からお風呂ですか」
「今日は鍛練で汗をかいたからな。ここでは皆と一緒に入っている」
入ってきたのはフィッツと護衛の四人だった。全員背が高くて筋肉質で、武器を持っていない状態でも強そうに見える。魔法なしで戦うとしたら、たぶん俺は勝てないだろう。
「半魔族に世話をさせているのか」
「レイに洗ってもらったほうが髪がきれいにまとまるんですよ。私はどうも雑みたいで」
「まったく……」
小言を言いながら、フィッツたちもまず洗い場で汗を流した。その時、護衛の一人……前回カダロード滞在中になにかと突っかかってきた男が俺を見て「うわ」と声を上げた。
「おい、なんだその傷痕は」
「ああ、これ? 覚えてない」
「ひどいな。痛まないのか?」
「別にぃ」
男が指差したのは、俺の脇腹から背中にかけて残っている大きな傷痕だ。周囲の皮膚がひきつれているが、傷口はふさがっていて痛みはない。天気が悪い時に少し違和感があるくらい。
「しかし、ギルバート様の護衛ならもっと鍛えるべきではないか? こんな細腕でなにができる」
「おい、触んなよ」
ギルの髪を洗っていて手が離せない俺の左右から二の腕やら背中やらをペタペタ触ってくる男たち。別に減るもんじゃないが、許可なく触られたくはない。
「ちょっと、フィッツ。あなたの護衛が私の護衛にちょっかいを出すのを止めてください。レイが嫌がっています」
「そう固いことを言うな。護衛同士の交流や情報交換も悪くはないだろう。君は少し過保護なのではないか?」
フィッツの言葉に、ギルは口を噤んだが不機嫌さを隠さなかった。護衛たちは俺から離れ、そそくさと湯舟に浸かりに行き、フィッツの後ろに隠れた。
どっちが護衛だ。
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