40 / 94
40話・知りたいのに知りたくないこともある
しおりを挟むデオガルドに行くために山越えをしている最中、魔族に遭遇した。しかも三人。戦闘になれば俺たちが不利だ。いや、俺は元々魔族らしいし、バアルからは仲間扱いされている。俺がうまく立ち回れば戦わずに済むかもしれない。
ふと、ギルが黙り込んでいることに気が付いた。さっきはバアル相手に反論していたが、新手の魔族二人が現れてからひと言も発していない。流石に分が悪いと理解し、どう切り抜けるかを考えているのだろう。そう思っていたのだが。
「エマ……?」
崖の上に立つ魔族を見上げ、ギルがぽつりと呟いた。ギルの視線は少女のような小柄な魔族に釘付けとなっている。
エマという名前には聞き覚えがあった。以前ギルが寝ぼけて口にしていた名前だ。愛おしそうに甘い声で呼んでいた、恐らく、ギルの大切な人の名前。
「ねえバアル。そいつら誰?」
「ボクに酷いことしたヤツだ、なんとかしてよ」
バアルに向かって声をかける二人の魔族。小柄なほうはギルのことを知らないようだ。前髪が長くてヒョロいほう……ルオムは西の集落で撃退された件をしっかり覚えている。
二人の魔族は崖の上から飛び降り、バアルのそばに着地した。小柄な魔族は顔立ちは可愛らしいし髪も長いので女だと思い込んでいたが、女の声ではないし胸もない。近くで見れば男だとわかる。
「私が合図をしたら走って」
「へっ?」
突然ギルが小声で話しかけてきた。懐から小さな白い塊を取り出して足元に投げつける。次の瞬間、三人の魔族の動きが止まった。
「ぐあっ、なんだこれは」
「まさか結界?」
「動けない……ッ」
ギルが作った簡易結界装置だ。短時間しか保たないが効果はある。魔族は地面に足を縫い付けられたように一歩も動けない。
「レイ、今です!」
「お、おう」
ギルに促され、俺たちは駆け出した。
「行くな、ラース! ラース!」
背後からバアルの呼ぶ声が聞こえるが、振り返らずに走った。ギルに手を引かれ、一気に駆け抜ける。岩場を抜け、樹々が生い茂る場所まで辿り着く頃にはすっかり息が上がっていた。木陰に身を隠し、乱れた呼吸を整える。
「結界の効果は長くは保ちません。途中野営をする予定でしたが夜通し駆けて山を降りましょう」
「あ、ああ」
ギルからの提案に頷きながらも、俺の心は複雑だった。自分の正体。三人の魔族。ギルの発言。一度に色々有り過ぎて気持ちの整理がつかない。
携帯食と水で腹ごしらえを済ませ、再び荷袋を担いで道なき道を走る。たまに魔物に遭遇したが、倒さず逃げてやり過ごした。死骸が残っていると俺たちが通った場所が魔族に知られて後を追いかけられてしまうからだ。誤って倒してしまった場合は死骸を魔法で遠くに吹き飛ばして偽装しておいた。
一晩中走り続け、空の端が白み始めた頃、ようやく山を降りて平地に辿り着いた。ゴツゴツした岩場をではなく整備された街道に立った途端、疲労が一気に襲ってくる。だが、まだ安心はできない。
「もう少しで結界の効果範囲内に入れるはずです」
「よ、よし。早く行こうぜ」
俺たちは重い足を引きずりながら最寄りの休憩施設へと向かった。
点在する集落の結界同士が作用し合い、大陸の中心部はほとんどが結界の効果範囲内となっている。街道も例外ではない。辺境とは違い、比較的安全に行き来ができるようになっている。
早朝だからか休憩施設には俺たち以外の利用者はいなかった。荷袋を下ろし、魔法でかまどに火をつける。小鍋で湯を沸かす傍ら、鉄串に刺した燻製肉の表面を軽く炙った。かまどの炎を囲み、淹れたての熱い茶と焼いた燻製肉で食事をとる。夜通し走って疲れた体にしみた。
「あのさあ」
「はい?」
使い終えたカップと鉄串を洗って荷袋にしまい直しながら、俺はギルに話しかけた。ギルはまた魔物の骨に細工している真っ最中で、顔を上げずに返事だけをした。バアルたちを撒くために手持ちの簡易結界装置を使ってしまったので新しく作っているのだろう。カダロードで仕入れた小刀を持ち、細かな模様を刻み込んでいる。
「さっきの魔族って、ギルの知り合い?」
「は?」
しかし、俺の問いかけに間の抜けた声を上げた。魔物の骨と小刀を取り落とし、愕然とした顔でこちらを見ている。
「知り合いなのはあなたでしょう? レイ」
「は?」
今度は俺が間の抜けた声を上げる番だった。
「いや、だって、オマエさぁ」
「はい?」
「なんか見てたじゃん、後から来た魔族」
「そうでしたっけ」
思い当たる節がないのか、しらばっくれているのか、ギルは首を傾げている。魔族を『エマ』と呼んだことは無意識だったのかもしれない。
「……俺の気のせいだった、かも」
答えを求めているわけじゃない。すべてが明らかになったら一緒にいられなくなる気がして、話を途中で切り上げた。
36
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方
ばつ森⚡️8/22新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】
公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。
「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」
世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!!
【謎多き従者×憎めない悪役】
4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。
原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし
ギャップがあり過ぎるけど異世界だからそんなもんだよな、きっと。
一片澪
BL
※異世界人が全く珍しくないその世界で神殿に保護され、魔力相性の良い相手とお見合いすることになった馨は目の前に現れた男を見て一瞬言葉を失った。
衣服は身に着けているが露出している部分は見るからに固そうな鱗に覆われ、目は爬虫類独特の冷たさをたたえており、太く長い尾に鋭い牙と爪。
これはとんでも無い相手が来た……とちょっと恐れ戦いていたのだが、相手の第一声でその印象はアッサリと覆される。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
転生執事は氷の公爵令息の心を溶かしたい【短編】
堀川渓
BL
事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!?
しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!!
短編/全10話予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる