【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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40話・知りたいのに知りたくないこともある

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 デオガルドに行くために山越えをしている最中、魔族に遭遇した。しかも三人。戦闘になれば俺たちが不利だ。いや、俺は元々魔族らしいし、バアルからは仲間扱いされている。俺がうまく立ち回れば戦わずに済むかもしれない。

 ふと、ギルが黙り込んでいることに気が付いた。さっきはバアル相手に反論していたが、新手の魔族二人が現れてからひと言も発していない。流石に分が悪いと理解し、どう切り抜けるかを考えているのだろう。そう思っていたのだが。

「エマ……?」

 崖の上に立つ魔族を見上げ、ギルがぽつりと呟いた。ギルの視線は少女のような小柄な魔族に釘付けとなっている。

 エマという名前には聞き覚えがあった。以前ギルが寝ぼけて口にしていた名前だ。愛おしそうに甘い声で呼んでいた、恐らく、ギルの大切な人の名前。

「ねえバアル。そいつら誰?」
「ボクに酷いことしたヤツだ、なんとかしてよ」

 バアルに向かって声をかける二人の魔族。小柄なほうはギルのことを知らないようだ。前髪が長くてヒョロいほう……ルオムは西の集落で撃退された件をしっかり覚えている。

 二人の魔族は崖の上から飛び降り、バアルのそばに着地した。小柄な魔族は顔立ちは可愛らしいし髪も長いので女だと思い込んでいたが、女の声ではないし胸もない。近くで見れば男だとわかる。

「私が合図をしたら走って」
「へっ?」

 突然ギルが小声で話しかけてきた。懐から小さな白い塊を取り出して足元に投げつける。次の瞬間、三人の魔族の動きが止まった。

「ぐあっ、なんだこれは」
「まさか結界?」
「動けない……ッ」

 ギルが作った簡易結界装置だ。短時間しか保たないが効果はある。魔族は地面に足を縫い付けられたように一歩も動けない。

「レイ、今です!」
「お、おう」

 ギルに促され、俺たちは駆け出した。

「行くな、ラース! ラース!」

 背後からバアルの呼ぶ声が聞こえるが、振り返らずに走った。ギルに手を引かれ、一気に駆け抜ける。岩場を抜け、樹々が生い茂る場所まで辿り着く頃にはすっかり息が上がっていた。木陰に身を隠し、乱れた呼吸を整える。

「結界の効果は長くは保ちません。途中野営をする予定でしたが夜通し駆けて山を降りましょう」
「あ、ああ」

 ギルからの提案に頷きながらも、俺の心は複雑だった。自分の正体。三人の魔族。ギルの発言。一度に色々有り過ぎて気持ちの整理がつかない。

 携帯食と水で腹ごしらえを済ませ、再び荷袋を担いで道なき道を走る。たまに魔物に遭遇したが、倒さず逃げてやり過ごした。死骸が残っていると俺たちが通った場所が魔族に知られて後を追いかけられてしまうからだ。誤って倒してしまった場合は死骸を魔法で遠くに吹き飛ばして偽装しておいた。

 一晩中走り続け、空の端が白み始めた頃、ようやく山を降りて平地に辿り着いた。ゴツゴツした岩場をではなく整備された街道に立った途端、疲労が一気に襲ってくる。だが、まだ安心はできない。

「もう少しで結界の効果範囲内に入れるはずです」
「よ、よし。早く行こうぜ」

 俺たちは重い足を引きずりながら最寄りの休憩施設へと向かった。

 点在する集落の結界同士が作用し合い、大陸の中心部はほとんどが結界の効果範囲内となっている。街道も例外ではない。辺境とは違い、比較的安全に行き来ができるようになっている。

 早朝だからか休憩施設には俺たち以外の利用者はいなかった。荷袋を下ろし、魔法でかまどに火をつける。小鍋で湯を沸かす傍ら、鉄串に刺した燻製肉の表面を軽く炙った。かまどの炎を囲み、淹れたての熱い茶と焼いた燻製肉で食事をとる。夜通し走って疲れた体にしみた。

「あのさあ」
「はい?」

 使い終えたカップと鉄串を洗って荷袋にしまい直しながら、俺はギルに話しかけた。ギルはまた魔物の骨に細工している真っ最中で、顔を上げずに返事だけをした。バアルたちを撒くために手持ちの簡易結界装置を使ってしまったので新しく作っているのだろう。カダロードで仕入れた小刀を持ち、細かな模様を刻み込んでいる。

「さっきの魔族って、ギルの知り合い?」
「は?」

 しかし、俺の問いかけに間の抜けた声を上げた。魔物の骨と小刀を取り落とし、愕然とした顔でこちらを見ている。

「知り合いなのはあなたでしょう? レイ」
「は?」

 今度は俺が間の抜けた声を上げる番だった。

「いや、だって、オマエさぁ」
「はい?」
「なんか見てたじゃん、後から来た魔族」
「そうでしたっけ」

 思い当たる節がないのか、しらばっくれているのか、ギルは首を傾げている。魔族を『エマ』と呼んだことは無意識だったのかもしれない。

「……俺の気のせいだった、かも」

 答えを求めているわけじゃない。すべてが明らかになったら一緒にいられなくなる気がして、話を途中で切り上げた。



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