【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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49話・時間稼ぎの対話で情報収集のはずが

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 連れ去られた住民たちを見つけ、山を降りるために誘導している最中に声をかけられた。列の最後尾にいた俺はすぐに立ち止まり、声の主がいる背後へと振り返る。

 洞窟を抜け、両側を岩壁に挟まれた狭い場所だ。住民たちは先頭を歩くギルの後ろ姿を必死になって追いかけている。殿しんがりを務めていた俺がいなくなったとしても誰も気に留めなかった。

「ラースぅ、どうして人間を逃がすんだ。苦労したんだぞ? あれだけ集めるの」

 軽く咎めるような口調だが、怒ってはいない。バアルはゆっくり歩み寄ると、当たり前のように俺の肩に自分の腕を巻きつけてきた。

「人間なんか捕まえてどうする気だ」
「えぇ? ずいぶん前に話したことあんじゃん!」
「そうだったか?」
「ま、そん時は計画すら立ってなかったし、思い付きを話しただけだったかもしんねーな」

 顔を寄せ、馴れ馴れしい受け答えをするバアル。実際、記憶を失くす前の俺とは親しかったのだと思う。ただ、今の俺に魔族だった頃の記憶がないことをコイツはまだ知らない。知られたらどうなるかわからないので、ギリギリまで話を合わせ、仲間だと思わせておく。

「ルオムとマルヴは? いなかったぞ」
「あれ、中で見張ってなかったか? サボりかな」

 俺の役目は時間稼ぎだ。ギルが住民を連れてフィッツたちと合流し、無事に馬車に乗せるまで魔族を引きつける。対話が無理なら戦闘も辞さない。もちろん、今の俺の実力ではバアルたちに敵わないと自覚している。万が一の場合はギルが作った簡易結界装置を起動させて逃げるつもりだ。

 今この場にいるのはバアルだけ。コイツは俺に友好的だからまだ扱いやすい。問題は、残りの二人がどこにいるかだ。

「いくら足枷をつけてるからって油断し過ぎだ。やるならもっとうまくやれ」
「つまり、人間を逃したのは計画の甘さを指摘するためにわざとやった、ってことか?」
「そ、そうだ。失敗するのが目に見えていたからな」
「なーんだ! そうだったのか。優しいなラースは」

 口先三寸の言い逃れだが、バアルは信じたようだ。俺に対する信用があるからか、久々に会えた仲間に対して甘さがある。

「でも、おっかしいなー。ちゃんとルオムに見張っておけって言っておいたんだけど」
「実際洞窟の中には人間しかいなかったぞ」
「アイツ人間嫌いだからな。勝手にどっか行っちまったのかも」

 その発言で、俺はルオムと初めて遭遇した時のことを思い出した。無人の集落にいた俺を見て「誰もいないと聞いていたのに」とボヤき、始末しようとした。バアルと違い、俺の顔を見ても仲間だと気付かなかった。人間が嫌いというより他者にあまり関心がないのかもしれない。

「それより、捕まえていた人間はみんな男じゃないか。女はどうした」

 さりげなく女たちの行方を尋ねてみる。山の中を闇雲に探すより実行犯に聞いたほうが早い。これもバアルが俺を仲間だと思っているから可能なことだ。

「ああ、元いた集落に戻してきた。そっちはマルヴに守らせてる」
「? そうか」

 一度に質問責めすると不審に思われてしまう。せっかく連れ出した住民たちを男女にわけ、女だけ元の場所に戻す意味がわからない。労働力として男だけが必要だったのか?

 しかし、やはりおかしい。

 男たちには「見張り」をつけ、女たちは「守らせている」という。明らかに男女で扱いに差がつけられている。

 とりあえず女たちの居場所は判明した。俺の役目は終わった。どうにかしてバアルから離れ、ギルと合流しなければ。

「ラースぅ、この前はなんでどっかに行ったんだよ。オレ悲しかったんだけどぉ」
「悪かったよ。俺にも色々あってな」

 バアルは肩を組んだ体勢で俺の髪をいじっている。下手に振り解くこともできず、されるがままになっている。ここから自然な流れで解散なんて無理じゃないか?

「ラースと一緒にいた人間のせいだろ? アイツ、なんか嫌な感じしたし。ルオムもそう言ってた。アイツに弱味でも握られてんの?」
「そういうわけじゃ」
「オマエの髪が真っ黒になったのも肌の色が薄くなったのもアイツのせい?」
「えーっと、見た目が変わった理由については俺にもよくわからないんだが」

 外見上の特徴である髪や肌の色だけなら変えられるだろうが、俺は魔族みたいに結界によって動きを制限されない。つまり、体質から変わっているということ。

 魔族を半魔族にする方法があるのか。
 あるとしたら、どうして俺が選ばれたのか。

「聞いてんのかよ、ラースぅ!」
「なんだよ、バアル」

 考え込んでいたせいで、話しかけられていたのに無視してしまっていた。さすがのバアルも腹を立てたらしい。

「一緒に行こうぜって言ってんの!」
「どこへ?」
「だーかーらぁ、女んとこだよ。オマエまだだろ? そろそろ一人か二人作んねえとさぁ」

 聞き返しても、やはり意味がわからなかった。バアルはなにを言っているんだ。

「人間の女にガキ産んでもらうんだよ。ルオムは人間嫌いだから、オレらがやんねえと」
「……は?」

 バアルの発言に、俺は目を丸くした。

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