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50話・魔族の真の目的と別離の言葉
しおりを挟む「なんで、わざわざ人間の女に産ませるんだ……?」
震えそうになる声を必死に抑え、動揺を隠し、笑顔を取りつくろった。言いたいことは色々あったが、一番聞きたかったことをバアルに問う。
「しょーがねえだろ。それしか子孫残す方法ねえんだから。人間もわかってるんだろな。だから、せっかく産ませた混血を奪って監禁しちまうんだ」
魔族目線だと『半魔族の保護』は『自分の子を奪われて監禁された』という捉え方になるらしい。魔族の繁殖には人間の女が必要、つまり魔族に女がいないということか。だとすれば、度々辺境の集落で女が襲われて魔族の子を孕まされる理由も理解できる。もちろん理解はしても許される行為ではないが。
「そ、そりゃ人間からしたら半魔……いや混血なんか産まれても困るだろ。だったら女を攫って産むまで見張れば良かったのに」
うっかり結界の効果範囲から出た女は魔族に犯され、そのまま集落に戻って生活し、数ヶ月後に半魔族の赤ん坊を産む。尖った耳と浅黒い肌の子どもは魔族に襲われた恐怖の記憶と結びつき、母親は育児を拒絶する。人間の集落の中において、半魔族は到底受け入れられない存在だからだ。産まれた頃を見計らって魔族が迎えに来たとしても聖都の保護施設送りになっている。
それなら最初から女を連れ去ればいいと言ったのだが、バアルは肩をすくめて鼻で笑った。
「オレらのとこに連れていけるわけねーじゃん。人間なんて弱い生き物、大断絶を越える頃には死んじまうよ」
「それもそうか」
確かに、魔物や魔族の領域である大断絶の向こう側なんて人間の女が暮らせるはずがない。
「だから、一年前の失敗を踏まえてこっちにオレらの拠点を作ったってワケ! 人間の集落ひとつ乗っ取って、ガキ産ませる場所を確保したんだよ」
集落を乗っ取るためにサフールと取り引きをし、グレフ神の像を壊して結界を無効化した。俺とギルはちょうどもぬけの殻になったタイミングで集落に訪れ、ルオムに遭遇した。
「一年前の失敗って、グレフ神の末裔を始末し損ねたことだろ? 残念だったな」
怪しまれないように話を合わせたつもりだったが、なぜかバアルは怪訝な顔をしている。
「グレフ神の末裔ぇ? そんなん知らねえよ。オレらは監禁されてる混血を取り戻しに行ったんだろが。忘れたのかよ!」
「へ?」
なんと、聖都襲撃の目的から違っていた。フィッツは魔族の狙いをジーレン抹殺だと考えていたし、おそらく人間側はそう捉えているだろう。魔族側は一貫して子孫繁栄のためだけに行動している。
聖都襲撃事件も、集落乗っ取りも、すべて。
「混血を取り戻すって……なんで?」
かなり間抜けな質問をしたと自分でも思う。バアルからすると、同じ目的を持って行動していた仲間が肝心の目的を忘れている状態だ。いくらオレに甘いバアルでも、今の発言には困惑を隠せないようだった。褐色の肌だからわかりづらいが、たぶん顔を青くしている。
「なんでって、おまえホントに大丈夫か? 頭打って記憶が飛んじまったのか?」
「そ、そうかも。そのせいで髪とか色が変わったのかな」
「マジかよ! やべーじゃん!」
怪しむどころか、バアルは俺を心配している。頭をわしゃわしゃと撫でまくり、頭を打った痕跡を探している。人間に対する扱いが酷いだけで、仲間思いの良いヤツなのだ。
「なんか会話が噛み合わねえと思ってたけど、頭を打ったせいなら仕方ねえよな! 今は元気みたいだし問題ねえか!」
勝手に納得してくれた。
「んで、なんの話してたっけ?」
話が脱線してしまい、元の話題を見失っている。今を逃せば魔族の本来の目的を知る機会は二度と訪れない。俺は再び「混血を取り戻す理由」を尋ねた。
「魔族にゃ女が生まれにくいから人間の女の腹を借りるんだ。人間から生まれた混血同士が子作りすると人間か魔族のどっちかが生まれてくる。まどろっこしいが、俺らが子孫を残すにゃこの方法しかねえんだよ」
子孫を残すために混血……半魔族が必要。しかし、人間が半魔族を一箇所に集めて監禁しているから奪い返しに行った。魔族側の行動には筋が通っている。
では、人間側は?
人道的な観点から半魔族を聖都にある保護施設に収容しているのだろうか。魔族の目的を知った上で、魔族の数をこれ以上増やさないために閉じ込めていたのだとしたら。
魔族はどうやって多重結界を無効化したのか。
なぜ保護施設ではなく教会本部を狙ったのか。
まだ残る謎をバアルに確認しようとした時、遠くで大きな爆発音がした。
「おっ。サボってるかと思ったけど、ちゃあんと仕事してるみたいだな」
「今のは……」
「ルオムだな。アイツが向こうで暴れてる」
涼しい顔でバアルが指差した方角から砂けむりが上がっているのが見えた。フィッツたちが待機している辺り。ギルが住民たちを引き連れて合流している頃だ。
「この前の人間もいると厄介だな。加勢に行くかぁ」
「……ッ」
マズい。ルオムは瞬発力が高い。この前みたいに油断している時ならともかく臨戦態勢の時は簡易結界装置で動きを封じるのは難しい。住民たちを守りながらではギルが不利だ。更にバアルまで加われば、全員無事に下山するなど不可能。
行かせるわけにはいかない。
「バアル」
俺に抱きつくように肩を組んでいるバアルの腕にそっと触れ、至近距離で目線を合わせる。キョトンとした顔で見つめ返してくるバアルに、俺は別れの言葉を告げた。
「ごめん。またな」
言いながら、懐から簡易結界装置を取り出して地面に落とす。靴底で踏み付けて発動させると、バアルの体が瞬時に硬直した。
「ぐぎっ、ら、ラース……? なんで?」
そっと俺の肩に回された腕を外すと、バアルはその場に膝をついた。戸惑いと焦りが混ざったような表情でそばに立つ俺を見上げ、手を伸ばそうとしている。
いくら仲間に甘いバアルでも、今度こそ俺を許さないだろう。
「ラース、なんでだよぉ!」
バアルの問いには答えず、砂けむりが上がる方角へと走った。
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