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61話・どの輪にも入れない孤独を埋める手段
しおりを挟むデオガルドに帰還し、業者に魔物の解体を頼んでからトーレスの屋敷へと戻った。玄関前に馬車を停めて降りると、なにやら屋敷の中が騒がしい。
「おい、なにかあったのか?」
マリクが近くを通りかかった使用人に尋ねると、明るい表情でこう返された。
「早く医務室へ! お連れ様が目を覚まされましたよ!」
俺たちは慌てて医務室へと向かった。一階の一番奥にある部屋の扉は開け放たれており、入れ替わり立ち替わり使用人が出入りしていた。みな俺たちに気付くと道を開けてくれたので、すんなり中へと入ることができた。
既に日は傾きかけ、庭に面した大きな窓からは夕陽が差し込んでいる。寝台のそばには医者とトーレス、フィッツの姿があった。彼らの視線の先には、背中に枕を置いて上体を起こしているルシオがいた。負傷して以来ずっと閉じられていた目が開いている。
「る、ルシオ~~!」
マリク、オルミ、サンクが飛びかからんばかりの勢いで寝台へと駆け寄った。涙する仲間の姿に驚いたのか、ルシオは苦笑いを浮かべている。フィッツも嬉しそうに口元をゆるめ、少し痩せたルシオの手を握っていた。
その光景を医務室の出入り口近くに立って眺めていると、不意に背後から声をかけられた。
「おかえりなさい、レイ」
「ただいま、ギル」
ギルは離れたところから見守っていたらしい。アイツらには昔からの絆がある。俺も間に割り込むなんてしたくない。ルシオが無事に目を覚ましてくれただけで満足だった。
「少し前に意識を取り戻したんですよ。数日間飲まず食わずでしたので体力は落ちてますが、元が丈夫なのですぐに回復するでしょうって」
「そっか」
命に関わる大怪我を負ったのだ。助かったとしても今までのように動ける保証はない。だが、ルシオは不思議な力で治癒されたからか通常の怪我人よりは早く復帰できるという。
その不思議な力で治癒したのが俺ではないかとギルに言われたが自覚はない。たぶん偶然だと思う。
ギルと二人でそっと医務室から抜け出し、二階にある部屋へと戻った。
「魔物倒してきたぞ。死骸は業者に預けてある。解体が終わったら屋敷に骨を届けてくれるって」
「助かります。お疲れ様でした」
今日の成果を報告すると、ギルはにこりと微笑んだ。目の下にあったクマが少しマシになっている。
「俺がいない間、ちゃんと休んでたか?」
「ええ。フィッツが付きっきりで見張るものですからなにも作業できませんでしたよ」
「そりゃ良かった」
「フィッツと二人でゆっくり話をするなんて、小さな頃以来だったかもしれません」
夕陽が沈み、徐々に暗くなってゆく空を眺めながらギルが呟いた。その記憶の中には幼い日のエマもいたのだろう。寂しげな、それでいて少し嬉しそうな表情で窓の向こうを見つめている。
「ギル」
気付いたら、体が勝手に動いていた。後ろからギルの背中に抱きつき、ぎゅう、と腕に力を込める。
「どうしました? レイ」
「別に。ただ」
「ただ?」
いきなり抱きつかれても、ギルは嫌がらなかった。腹に回された俺の腕にそっと自分の手のひらを重ねてくる。拒絶されなかったことが嬉しくて、俺は更に腕に力を込めた。
「…………さびしい」
弱々しい言葉が俺の口からこぼれ落ちた。それを聞いたギルは一瞬体をこわばらせ、俺の腕を解いて向き直る。
「レイ」
穏やかな声に名を呼ばれ、抱き寄せられる。正面から抱き合う体勢になり、ギルの胸元に顔を埋めた。
「あなたでもそんな風に思うことがあるんですね」
「うん……」
今までは平気だった。記憶はないけどギルが一緒にいてくれたからだ。でも、いろんな奴と出会い、話を聞くうちに、ギルと俺の間には埋められない溝があると知った。
ギルにはグレフ神の血を引く末裔としての役割があり、特殊な生まれと立場を共感できるフィッツがいる。
フィッツには子どもの頃からの付き合いがある護衛マリク、オルミ、サンク、ルシオの四人との絆がある。
俺は昔馴染みだという魔族、バアルとルオム、マルヴを捨てて人間側についた。記憶がないから大して罪悪感もなく、何度も騙して裏切った。
人間たちの中に身を置き、少しずつ打ち解けてきたけれど、中途半端な俺にはどこにも居場所がないような気がした。
ルシオが意識を取り戻してくれて、本当に嬉しかった。ホッとした。でも、代わりに俺にはなにもないのだと実感してしまった。積み重ねた思い出がないからどの輪にも入れない。自分で選んだ道だというのに、今は寂しくて仕方がなかった。
「あなたには私がいます」
優しい言葉に顔を上げれば、ギルの指先が俺の頬をするりと撫でた。そのまま顎に添えられ、軽く持ち上げられる。
夕焼けに照らされ、ギルの銀の髪が赤く染まって見える。バアルたちを思い出すが、すぐに頭の中から掻き消した。
「あなたを一人にはしませんよ」
「ギル……」
昨夜はギルが弱音をこぼしていた。
今日は俺が弱音をこぼしている。
俺たちは全然違うけれど、同じ気持ちを抱いていると思っていいのだろうか。
「俺をギルのものにして」
言い終わる前に、ギルは俺の唇に自分の唇を重ねた。
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