【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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60話・個人を見分けるにはまず知ることから

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 馬車に揺られること小一時間、都市や町から離れた場所までやってきた。街道から少し外れれば結界の効果範囲から外れるので魔物と遭遇する率が高い。とはいえ、辺境ではないので大型で強い魔物はほぼいない。

 安全な場所に馬車を待機させ、俺たちは周辺を探索し始めた。しばらく歩き回っていると、犬型の魔物の群れを発見した。やや距離が離れているからか、向こうはまだこちらに気付いていない。

「いち、にい、……全部で八匹か」
「一人二匹だな」

 俺たちは四人。頭数で割れば一人で二匹倒せば済む。個々で撃破しても問題ないが、集団での戦いかたがあるというので付き合うことにした。

「レイはルシオの代わりを頼む」

 予備の長剣を渡され、首を傾げる。

「いいけど、俺は剣は使えねえぞ?」
「群れを任意の場所に誘い込むだけだ。持っておけ」
「ふうん、わかった」

 軽く打ち合わせをした後に群れと対峙する。まずは相手にこちらの存在を知らせ、襲いかかってくるように仕向けた。バラバラに飛びかかる魔物を、サンクと二人がかりで長剣を使い誘導する。大盾を構えたオルミが突っ込んできた魔物をすべて受け止め、勢いを失ったところをマリクが大剣を振り回して行動不能に陥らせた。最後に剣で心臓を突き刺せば終わりだ。

「もう片付いた」
「ざっとこんなもんさ」

 八匹の魔物を倒すのにかかった時間はわずか数分。連携に不慣れな俺を混ぜてもすんなりいったのだから、ルシオがいればもっと簡単に倒せただろう。グレフ神の末裔の護衛を務めるだけの実力を持っている。普段俺に対して偉そうな態度を取る理由は自分たちの能力にそこそこ自信があるからだったのか。

 荷台に魔物の死骸を積み込み、デオガルドへと帰還する。

「まさか魔法を使わずに済むとは思わなかったぜ」

 改めて、今回の戦闘を振り返ってみた。

「ちゃんと役割分担してるんだな。サンクとルシオが群れの軌道を操作して、オルミが盾で勢いを削いで、そこをマリクが叩くって感じ?」
「時と場合にもよるがな」
「野盗が相手だと全員で突っ込む時もある」
「ルシオとサンクだけで終わっちまって、オレらの出る幕がなかったりとかな」

 得意武器は違えど息が合った四人だからこそどんな状況にも対応できるのだろう。ルシオが負傷した理由は助け出した住民を体を張って守ったから。アイツが弱いわけではない。

「それより、やっとオレたちの見分けがついたか?」

 隣に座るオルミがニヤリと笑う。

「まあな。ガタイが良いのがオルミで、背が高いのがサンク、マリクが筋肉質って感じで判別してる」

 俺の回答に、三人は納得したようだった。護衛の服装は同じなので、体格や所持する武器で見分けるしかないのである。

「ルシオは?」
「一番顔が整ってる」
「なんだよそれ!」

 どっと笑いが起きた後、馬車の中に沈黙が流れた。ルシオはまだ目を覚ましていない。今朝医務室を覗いた時も相変わらず眠ったままだった。

「オレたちは昔っから一緒なんだ。ラウール家に仕える家だからってのもあるけど、妙にウマが合ってな」
「フィッツ様とも十年以上の付き合いになる」

 向かいの席に座るサンクとマリクが語り出した。前々から仲が良いとは思っていたが、家同士の繋がりもあって長い付き合いらしい。

「ギルとはどうだったんだよ」
「フィッツ様はアーネスト家に自由に行き来していたが、オレたちは全然。来るなと言われたわけじゃなくて、なんか行きづらかったんだよ」
「ああ。アーネスト家の屋敷はちょっとな」

 どうやら護衛たちはアーネスト家が苦手みたいだ。

「俺が世話になってた時はそんなに居辛いとは思わなかったけどなぁ」
「レイが怪我して保護されたのは一年前の話だろ?」
「オレらが言ってるのはもっと前の話だよ。アーネスト家の先代当主がまだ存命だった頃の話だ」

 先代当主と聞いてもピンと来ず、俺は首を傾げた。

 ラウール家の現当主はフィッツの伯父であるイムノスだが、アーネスト家は誰になるのだろう。しばらく世話になっておきながら、アーネスト家の名を持つ人間はギルしか知らない。他に身内がいるのかすら聞いたことがなかった。ギルの腹違いの妹エマの話もつい最近知ったばかりだ。

「先代当主様はギルバート様の祖父に当たる御方で、非常に厳しいという話をよく聞いた。自分の娘を全員グレフ神の血を繋ぐために捧げ、結果としてギルバート様とエマリエ様のお二人が無事に生まれ育っている。故に分家の中でもかなり格が高かった」

 つまり、ギルとエマの母親は姉妹だったというわけか。自分の娘を全員グレフ神の末裔に娶らせるとか正気の沙汰とは思えない。孕んだら最後、娘は死ぬとわかっているのに。

「先代当主様は聖都襲撃事件の少し前に亡くなられてな。オレたちも葬儀に参列したからよく覚えてるよ」
「死因は伏せられていたが、お年を召していらしたから恐らくご病気だったのだろうな」

 会ったこともないじいさんの話なんかどうでもいいが、ひとつ気になることがある。

「じゃあ、今のアーネスト家の当主って」

 俺が尋ねると、三人は口を揃えてこう答えた。

「ギルバート様に決まっているだろう」と。

 辺境行きの許可が降りたのも、好き放題して許されているのも、ギルがグレフ神の末裔でありながら分家の当主の座に就いていたからだったのだ。

「……うん? 待てよ」

 そうなると更にわからなくなる。祖父が死んだら普通は父親が跡を継ぐものではないのか。

「なあ、ギルとエマの父親は誰なんだ?」

 母親は産後に必ず命を落とすが、グレフ神の血を引く父親はまだ生きているはず。そう思って聞いてみたのだが、俺はすぐに後悔した。

「本家のジーレン様だ。そんなことも知らないのか」
「ちなみに、フィッツ様のお父上もジーレン様だ」

 聞くんじゃなかった。

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