【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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59話・回復力が高い奴ほど無理をしがちな件

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 食堂で朝食を済ませ、医務室に立ち寄る。寝台で眠り続けるルシオの顔を見てから庭に出ると、フィッツと護衛三人が走り込みを終えたところだった。

「よぉ、早いな」
「おはよう、レイ」

 片手を上げて声をかけると、フィッツが笑顔で挨拶を返してきた。三人は芝生に座り込んでいたり、仰向けに倒れていたりと疲れ切った様子だ。

「なんだオマエら。フィッツに体力で負けてんのか」
「うるせえな半魔族」

 そばにしゃがみ込んで顔を覗くと悪態が飛んできた。すぐにフィッツが「こら」と無作法をたしなめる。

「彼らの体力がないわけではない。私の回復力が高いだけだ」
「へえ。グレフ神の血の治癒能力って怪我だけに効くわけじゃねえのか」
「疲れにくく回復が早いという感じだな」
「すげー!」

 そこまで聞いて、はたと気付く。

 昨夜のギルがあんなに疲れていたということは、常人ならブッ倒れてしまうくらいの疲労を抱えていたということだ。グレフ神の治癒能力をもってしてもすぐには回復しないほど疲れ切っている。簡易結界装置に髪や血を使っているから余計に負担が大きいのだろう。

「やっぱ無理にでも休ませないとだな」
「? なにか言ったか、レイ」
「んーん。別にィ」

 ギルは朝食後すぐに部屋へと戻り、作業を再開している。今夜もちゃんと寝かしつけてやらねば、と心に決めた。

「俺は今から鍛錬だけど、オマエらはもう終わり?」
「ちょ、待て。呼吸が」

 三人はまだ荒い息を繰り返している。

「彼らが回復するまでの間、私と組み手でもするか?」
「やるやる~!」

 フィッツの提案を受け、俺は二つ返事で了承した。

 護衛たちに負けず劣らず、フィッツもかなり鍛えている。背も高いし筋肉質で、恐らく強い。身分や立場的にも表立って戦うことはないだろうが、自分の身を守れるくらいの腕は持っていそうだ。その証拠に、護衛の三人が止めに入らなかった。

「では始めよう」

 数歩の距離を空けてから、腰を落としたフィッツが拳を構えた。手合わせ開始の合図は護衛の一人、筋肉質で体幹が強いマリクが担当する。

「始めッ!」

 合図と同時にフィッツが踏み込み、距離を詰めてきた。体格の割に意外と素早い。片足を引いて上体を捻り、繰り出された拳を避ける。すぐに次の拳が飛んできたが、これも低く身を屈めて避けた。

 防戦一方ではいられない。俺も隙をついて拳を振るうが、腕で軽く払われて軌道をずらされてしまう。

「やるな、フィッツ」
「レイもな。捌くのがやっとだ」
「そりゃこっちのセリフだっつの!」

 軽口を交わしながらも攻撃を試みてはかわされ、反撃を受けては避けるを繰り返す。手合わせ開始からどれくらい経っただろうか。さすがに疲れが出始め、わずかに判断が遅れた隙をフィッツは見逃さなかった。

「っ!」

 大きな手のひらが俺の首に触れるか触れないかの位置で寸止めされた。力を込めれば首が絞まる。勢いよく押し込むだけで無力化できる体勢だ。潔く負けを認め、俺は両手を挙げて降参の意を示した。

「はぁ、つえぇなフィッツ」
「立場上、護身術は必要不可欠だったからな」
「それもそっかぁ」

 疲れが溜まらない体質は戦闘が長引いた際に有利に働く。いざという時に生死を分けることになるだろう。フィッツに『いざ』という時が来ないようにするために護衛がいるわけだが。

「レイ」

 次は護衛三人との鍛錬だ、と意気込んだところで俺を呼ぶ声が聞こえた。ギルだ。屋敷の窓から庭にいる俺たちのほうを見ていた。

「どうした、ギル」

 すぐに窓の近くに駆け寄る。

「細工に使う魔物の骨が残り少なくなってしまって。調達しに行きたいのですが」
「そりゃマズいな。今から狩りに行ってくる」

 簡易結界装置の主な材料は魔物の骨だ。市場で流通していないので、自分で魔物を倒さねば入手できない。

「私も行きます」

 そう言うが、ギルはまだ疲れが残っている顔をしている。グレフ神の回復力でも間に合わないくらい疲労が蓄積しているのだ。魔物を倒すためには結界の効果範囲外まで行かねばならない。何時間かかるかわからないのだから、ギルを行かせるわけにはいかない。

「ダメだ。ギルは留守番してろ」
「でも、」

 なおも食い下がるギルに、俺は後ろを指さした。

「鍛錬代わりに俺とアイツらで行ってくる。ギルはフィッツとゆっくりしてろよ」

 いきなり指名された三人が「えっ」と間の抜けた声を上げた。

「私は行っては駄目なのか」
「フィッツはギルがちゃんと休むように見張っててくれよ。目ぇ離すとすぐ無茶すっから」
「ふむ、わかった」

 トーレスや使用人ではギルに言うことを聞かせられないが、身内のフィッツなら問題ない。ギルの見張りは他の人間には任せられないのだ。

「すぐに帰ってくるからな!」
「無理しないでくださいね、レイ」
「わーってるって」

 トーレスに馬車を用意してもらい、俺とマリク、オルミ、サンクと一緒に乗り込んだ。

「なんでオレたちまで……」
「フィッツ様の護衛なのに……」

 三人の嘆きは聞き流しておく。

 馬車は結界の効果範囲外、魔物が出没する地域に向かって走り出した。

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