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58話・心の内をさらけ出すことも時には必要
しおりを挟む「フィッツの護衛たちと仲良くなったみたいですね」
夕食と入浴を終えて部屋に戻った途端、ギルがぼそりと呟いた。食堂での会話を聞いていたらしい。
「今朝までは名前で呼んでいなかったですよね?」
「ああ、昼間に手合わせした時に教えてもらったんだ。時間が合えば一緒に鍛錬しようって約束した」
「そうですか」
ルシオはともかく、他の三人の見分けはまだついていない。大体一緒に行動しているから「マリク、オルミ、サンク」と一気に呼びかけている。そのうち判別できるようになるだろう。
ギルは机に向かい、作業を始めた。ここに来てから、暇さえあればずっと簡易結界装置を作っている。
「なあ、ギルぅ。まだ作るのか?」
「今のうちに可能な限り数を増やしておきたいので」
「ふうん」
山での住民救助作戦で今まで用意した結界装置はほとんど使い果たした。残っていたものも、バルガードのサフール宛てに送っている。これから起きる魔族との戦いに必要不可欠な道具だ。たくさんあれば有利になるとわかってはいるのだが、そのせいでギルが無理をしている。寝る間も惜しみ、ずうっと部屋にこもって作業しているのだ。
「そろそろ寝ようぜ」
「先に休んでいて構いませんよ」
「ギルは?」
「もう少し。キリが良いところまで作ってから」
そういうギルの表情は冴えない。元気がないというか、目の下にくまができているし、顔色も悪い。ここ数日は眠れていないようだ。肉体的疲労だけでなく精神的なストレスもあるのだろう。作戦立案した以上自分がやらなくては、と責任を感じてしまっているのかもしれない。
「ギル」
机に向かうギルの背後に立ち、包み込むように腕を回して抱きしめる。すると、魔物の骨に細工をしていたギルの手がぴたりと止まった。
「どうしました? 危ないですよ、レイ」
細工用の小刀を置き、ギルは俺の腕に自分の手を添えてくる。指先が冷たい。やはり体調が良くないのだろう。
「もう寝ろ」
「まだ眠くないんですけど」
「ダメだ。今日はもう作業終わり!」
椅子から立たせようとしたら抵抗されたが、無理やり引っ張って寝台の上に突き飛ばした。起きあがろうとするので、上に乗っかって妨害する。
「眠るまで見張るからな!」
「……わかりましたよ」
俺の剣幕にギルは渋々了承した。おとなしく横になったので、体の上から退いて毛布をかけてやる。寝台のそばにあった丸椅子に腰掛け、枕元に肘をついて見守っていると、ギルが苦笑いを浮かべた。
「こんなに見られていたら寝られませんよ」
「目を閉じればいいだろ」
「視線を感じるんですよ。気になってしまいます」
確かに、じっと見つめられていたら気が散って眠れないかもしれない。どうしたものかと考えていたら、ギルに手首を掴まれた。
「添い寝してください。そうしたら眠れる気がします」
「添い寝ぇ?」
「……駄目ですか?」
聞き返すと、ギルは上目遣いで見つめてきた。こうやって甘えられると弱い。俺は部屋の明かりを消してからギルの寝台に潜り込んだ。
「俺が先に寝ちまっても絶対起きて作業すんなよ。朝まで寝台から降りるの禁止な!」
「わかってますよ。その代わり、レイも自分の寝台に移らないでくださいね」
「へいへい」
この部屋には寝台が二つあるのだが、同時に両方使われることはない。ギルが徹夜で作業していたり、俺の寝台に潜り込んできたりするからだ。
当たり前のようにギルの腕が俺の首の下に差し込まれ、もう片方の腕が腰へと回され、抱き枕のように抱え込まれている。
「ねえ、レイ」
「なんだよ」
身動きを封じられ、逃げられない状態で声をかけられた。耳元で囁かれ、ぞくりとする。
「レイが色々な人と交流を持って仲良くしているの、私はすごく嬉しいんですよ」
「ふうん?」
「フィッツたちも、あなたのことをすっかり気に入ったみたいですしね」
「そうかなぁ」
横になってもすぐには眠れないのか、ギルはぽつぽつと話し始めた。適当に相槌を打っていると、回された腕にぐっと力が込められる。
「あなたの良さが皆に伝わったようで本当に嬉しいのに、不思議ですね。寂しい気持ちもあるんです」
「寂しい? なんで?」
顔を傾けてギルのほうを見ると、思ったより近くに顔があった。間近で視線が交わる。ギルは今にも泣きそうな表情で俺を見つめていた。
「あなたが他の誰かに奪われてしまうんじゃないかって考えてしまうんです。いつか私を捨てて、誰かの手を取って去っていくんじゃないかって。……おかしいですよね。あなたは私のものじゃないのに」
珍しく弱気な言葉だ。体調が悪いせいで思考が沈んでいるようだ。
「馬鹿だな。誰も俺のことなんか欲しがらねえよ。こんな扱いづらい半魔族、自分だったら要らねえもん」
笑って茶化すと、「そんなことありません!」と強く否定された。ギルの目は真剣だ。
「レイは私の自慢です。強くて優しくて、料理も上手ですし、髪の手入れもしてくれて、あなたがいなかった時の私はどうやって生きてきたのかわからないくらいなんですよ」
「お、おう」
「あなたは、もっと自分の価値を知るべきです。ああ、でも、そうしたら私のことなんてどうでもよくなってしまうかも……そんなの、困ります……」
だんだんと声が小さくなり、まぶたが閉じていく。喋っているうちに睡魔に襲われたようで、ギルは寝落ちてしまった。
しばらくして、規則正しい寝息が聞こえてきた。腕はしっかり回されたままで、俺は寝返りすら打てない状態だ。真横にあるギルの寝顔を眺めることしかできない。
「オマエこそ、俺がどんな奴でもそばにいてくれんの?」
俺の問いに答えることなく、ギルは朝まで眠り続けた。
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