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57話・護衛同士の交流は大人気ない方法で
しおりを挟むいつまでも辛気臭い顔をしているフィッツの護衛たちを庭へと誘き出した。俺が煽りまくったせいで三人ともめちゃくちゃ怒っている。
「待てコラァ! 逃げるな半魔族!」
「今日こそブチのめしてやるからな!」
「二度とナメた態度できねえようにしてやらァ!」
本当に貴族出身かと疑いたくなるような罵詈雑言を叫びながら追いかけ回され、俺は笑いが止まらなかった。広い庭を縦横無尽に走りながら、更に挑発を続ける。
「おやおやぁ? それで全力で走ってるつもりか? 鍛錬サボってるから余計に鈍臭くなってね?」
たまに立ち止まり、伸ばされた腕を紙一重でかわして再び逃げるを繰り返す。そのうち、足の速さでは勝てないと悟った三人は互いに目配せをしてから散開した。一人は今まで通りに俺の後ろを追いかけ、もう一人は先回りをして進路を塞ぐ。残りの一人は状況に応じて動くことにしたらしい。
先回りされて左右のどちらかに逃げようとしたところを妨害された。動きが止まった隙をつかれ、手首を掴まれる。
「捕まえたぞ半魔族!」
「生意気な発言を反省しろ!」
「痛い目に遭いたくなきゃ謝れ!」
頭ひとつぶん背の高い護衛たちに囲まれ、一方的に責め立てられる。足払いを警戒してか、三人とも片足を引いていた。
「わかったよ、謝りゃいいんだろ」
コイツらも成長しているのだ。俺相手に油断しなくなっているところは素直に評価できる。
「でも、捕まえただけで勝ったと思うのはどうかなぁ」
「なっ……まさか!」
視覚的にわかりやすい形で魔法を発動してみせた。俺の頭上に浮かぶ炎の球を見て、三人が驚愕の声を上げる。たとえ手足が封じられていても、意識さえあれば魔法は使える。
コイツらには魔族との戦いにも慣れてもらわなくてはならない。この程度の魔法で臆するようでは前線で戦うなんてできるわけないのだから。
「闇雲に怖がる必要はねえ。コレは魔力を元にして生み出した、ただの炎だ。当たれば熱いが、魔力さえ供給されなくなれば消える」
「お、おお」
試しに自分の手のひらの上に小さな炎を出し、魔力を追加して大きくしたり、逆に魔力を抜いて掻き消してみせる。
いつのまにか俺の腕を掴んでいた手は離れ、三人は少し距離を置いて立ち尽くしていた。
「ちなみに、魔法を使ってるヤツの意識を他にそらしたり、気絶させたりするのも有りだ。俺は半魔族だから効かねえけど、魔族が相手なら簡易結界装置が有効だな」
「なるほど」
途中から対魔族の講義みたいになってしまった。すっかり勢いを削がれた三人だったが、戦意を失ったわけではないらしい。
「おりゃっ」
一人が足払いを仕掛け、跳躍して避けた俺を一人が背後から羽交い締めにする。残りの一人が殴り掛かろうとしてきたので、威嚇のために炎を生み出してみたのだが。
「あ、ギルバート様」
「えっ?」
最初に足払いをしてきたヤツが屋敷のほうを指差してそう言うものだから、俺は反射でそちらに気を取られた。集中が途切れ、魔法の炎が霧散する。
しかし、指差したほうにギルの姿はどこにもなかった。
「隙ありィ!」
「うわ、やめ、いひゃひゃ!」
炎が消えた瞬間、三人が一斉に俺の体をくすぐり始めた。首筋や脇腹、果ては靴を脱がされて足の裏までくすぐってくるものだから、俺は笑い転げる羽目になった。
「どうだ、反省したかァ!」
「わ、悪かっ、ごめ、」
「聞こえんなあ!」
「おっ俺、謝っ、もうやだあ!」
散々煽りまくった後だったからか、俺が謝ってもなかなかやめてくれない。最終的に庭の芝生の上に転がされ、三人がかりで全身をくすぐられまくった。笑い過ぎて息もできず、涙目になる俺。
このまま笑い死にさせられてしまうのかと覚悟した時だった。
「……おまえたち、なにをしている」
冷ややかな低い声が庭に響き、三人の動きがピタリと止まった。怒りの表情で屋敷の出入り口に立つ男の姿に、一斉に立ち上がる。
「ふ、フィッツ様! これは、その」
「実は、レイと勝負をしてまして」
必死に言い訳を述べる三人を睨むフィッツ。
「多勢に無勢は良いとして、勝敗がついた後も責め続けるとはどういうことだ」
「も、申し訳ございません!」
説教タイムの間に体を起こし、乱れた呼吸を整える。叱りつけられた三人はすっかり竦み上がっていた。
「まったく。見つけたのが私でなくギルバートだったら医務室の寝台がすべて埋まるぞ」
ボヤきながら、歩み寄って手を差し出すフィッツ。助け起こした後は、俺の服についた土ぼこりを払い落としてくれた。
「すまねえな、助かったよフィッツ」
「構わん。ずいぶん楽しく遊んだようだな」
「俺がからかい過ぎたんだ。あんま怒ってやるなよ」
一応擁護すると、フィッツはフッと目を細めた。
「わかっているとも。三人を元気付けるためにわざとやったのだろう?」
「ハハッ、バレてたか」
どうやら最初からお見通しだったらしい。
「マリク、オルミ、サンク」
「はっ」
名前を呼ばれた三人がフィッツのそばに駆け寄って片膝をつく。
「今後は毎日庭で鍛錬することを義務付ける。レイの都合が良い時は手合わせを頼んでも構わないが、くれぐれも礼を欠かぬように」
「かしこまりました、フィッツ様」
素直に指示を受ける三人。俺の前で見せる尊大な態度はどこにもない。
「レイも、もし暇があれば相手を頼む」
「別にいいけど」
フィッツからも改めて頼まれれば断る理由はない。
それより。
「オマエら、名前あったんだな」
「当たり前だろうが」
「次からは名前で呼べよ」
今まで名前を知らなくても支障がなかったのだから仕方ない。
「えぇ~見分けつかねえよ。どうせ四人一緒にいるんだし、『護衛の人たち』で良くね?」
俺的には軽口を叩いたつもりだったんだが……。
未だ目を覚ましていないルシオも当たり前のように数に含めたからか、三人だけでなくフィッツまでもが涙目になってしまった。
お、俺が泣かせたのか?
大の大人を?
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