【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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56話・作戦行動は適材適所且つ分担が基本

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 ようやく助け出した住民たちの事情聴取が完了した。

 半数が例の西の集落から連れ去られており、残りの半数はそれぞれ辺境を旅する途中でさらわれてきたらしい。

「一番最初に捕らわれた者は約半年ほど前からあの場所にいたそうです。男たちに課せられた作業内容は農作物の加工や木工細工、陶器作りなど多岐に渡るそうで。市販の酒に混ぜ物をしたこともあるとか」

 事情聴取を担当した隊長が掻い摘んで説明してくれた。

 一年前の聖都襲撃で半魔族奪還に失敗した後に長期計画に移ったのだろう。半年前から少しずつ人間を集めていたが、最近になってサフールと取り引きをしてグレフ神の像を破壊してもらい、集落を一つ乗っ取ることに成功。半魔族奪還ではなく、新たに人間の女に子を産ませることに目的を変更したばかり。

「サフールさんに渡す手紙と新たな簡易結界装置を用意しました。早急にバルガードへ届けてください」
「はっ。お預かりします!」

 手紙を届けるだけではなく、サフールが指示通り動いたかを見届ける重要な任務である。隊長が立候補し、数人の兵士を引き連れて馬で辺境へと向かった。

 険しい山を避ける迂回路を行くため片道三日ほどかかる。隊長が結果を持ち帰るのは一週間から十日後くらいだろうか。それまでにやらねばならないことがある。

「イムノス様。ラウール家とアーネスト家の権限でバルガード側の辺境から聖都に通じる街道周辺に通行禁止令を。トーレス様は街道に点在する休憩施設から結界装置の撤去をお願いします」
「ふむ、すぐに教会本部を通じて通達を出そう」
「わかりました。お任せください」

 大陸全土の地図をテーブルに広げ、ギルはイムノスたちに指示を出した。すぐにイムノスは聖都に向けて出発し、トーレスも人員を召集して準備を始めた。

「ギルバート。私に手伝える仕事はないか」
「フィッツにしかできないことがありますよ」

 フィッツからの申し出に、待ってましたとばかりに笑顔で答えるギル。表情とは裏腹に、その顔色は非常に悪い。

「実は、簡易結界装置に血や髪を使い過ぎてしまって……あなたのものも使わせてもらえると助かります」

 ギルが作る簡易結界装置や御守りは細工を施した魔物の骨に血または髪を仕込んで動力源としている。これまで数えきれないほどの道具を作ってきたせいで、ギルの髪はやや短くなり、抜いた血もかなりの量になっている。傷はすぐ治るとはいえ、失った血は簡単には戻らないのだ。

 その点、同じグレフ神の末裔であるフィッツならギルの代わりに血や髪の提供が可能。他の誰にもできない役目と聞いて、フィッツは二つ返事で快諾した。

「ギルぅ、俺は~?」
「あなたはまだ疲労が残っているでしょう。今はゆっくり休んでいてください」

 みんなが忙しなく走り回っている中、一人だけ休むなんて気が引ける。とはいえ、疲れているのは確かだ。おとなしくトーレスの屋敷の中で過ごすことにした。

「そういや、アイツはどうなったかな」

 ギルたちがいる応接室を後にして、俺はルシオのいる部屋へと向かった。

 一階の一番奥にある日当たりの良い部屋は現在医者が常駐する医務室と化していた。保護した住民たちの治療もひと通り終わっている。患者用の寝台を使っているのはルシオだけだ。

「おーい。なんか変わりはあったか?」
「レイ」

 目隠しの衝立から顔を出すと、フィッツの護衛三人が椅子を並べて寝台を囲んでいた。許可を得る前に歩み寄り、枕元に立って覗き込む。ルシオは相変わらず昏睡状態だ。

「まだ起きないんだな」
「ああ。だが、だいぶ顔色が良くなった」

 確かに、顔に少し赤みが差してきたような気がする。死にかけたとは思えないほどだ。

「もしかして、あれ以来ずっと医務室ここにいるのか」
「なんだか落ち着かなくてな。ギルバート様から呼び出されるまで、フィッツ様もオレたちと一緒に様子を見ていたよ」

 寝台のそばにはもう一つ椅子が置いてあった。

 ルシオがこうなってから、護衛たちは落ち込んだままだ。いつもの悪態や軽口が出てこないから調子が狂って仕方がない。

「こんな場所にこもってたら体がナマっちまうぜ? そんなんで、いざって時に動けるのかよ」
「……なに?」

 俺の言葉に顔を上げる三人を見て、更に続ける。

「おまえらが見張ってないとコイツは目を覚まさねえのか? おまえらが付き添っていれば怪我が早く治るのか? 違うだろ。コイツをサボりの言い訳に使うなよ」
「キサマ、黙って聞いていればなんたる言い草だ!」
「フザけるなよ半魔族めが!」

 わざと挑発的な言葉を選んでやると、三人が睨みつけてきた。一番近くにいたヤツが立ち上がり、俺の胸ぐらを乱暴に掴む。鼻先がくっつくくらいの近さで目線を合わせ、ニヤリと笑ってみせた。

「やるなら庭に出ようぜ」
「望むところだ!」

 医務室の窓を開け放ち、そこから庭へと飛び出した。頭に血が昇っているからか、三人も俺の後を追うように窓枠を乗り越えてくる。

「ちょ、ちょっと! 皆さん怪我しないでくださいよ!」

 慌てた医者が声を張り上げて注意するが、三人にはまったく聞こえていないようだった。

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