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55話・非情な決断の裏で見せた涙の意味は
しおりを挟む翌日、ギルはとんでもない策を提案した。
「女性たちの救出はバルガードの代表サフールさんに任せることにします。手紙で指示を出し、実行していただきます」
完全な丸投げに、当然反対の声が上がる。特にフィッツは無力な辺境の住民、しかも女性に危険な役目を負わせることに抵抗があるようだった。
「待て、ギルバート。兵士を派遣するならともかく、なぜ代表とはいえ女性にそのようなことをさせる」
「西の集落には魔族がいるのだろう? 危ないぞぃ」
「他に方法がないか、もう少し考えたほうが」
イムノスとトーレスも反対するが、ギルは意見を覆えすつもりはないらしい。顔色ひとつ変えずに説明を続けた。
「まず、サフールさんは魔族と取り引きした実績があり、今のところ魔族側から警戒されておりません。彼女は自分の罪を認めて反省しており、現在は裁きを待つ身です」
本来、俺たちがデオガルドに到着してから役人を派遣する予定だった。しかし、途中で魔族に遭遇してそれどころではなくなり、サフールの処遇については後回しにされていた。
「バルガードの西の集落を潰した罪、グレフ神の像を壊した罪を償う機会を与えるのです。うまくいけば無罪放免。失敗すれば命はないでしょうが、どのみち死罪は免れないのですから構いませんよね」
「そ、それでは捕らわれている女性たちが危険では?」
「既に一度魔族の手に落ちたのです。助かればよし、助からなければそれまで、ですよ」
「なっ……」
あまりにも冷酷な発言に一同は顔色を失った。
だが、正面から魔族に戦いを挑めば何人犠牲になるかわからない。今回の作戦での重傷者はルシオ一人だったが、次はもっと増えるだろう。辺境の地では満足な治療も受けられない。
「もしこの策が駄目だと仰るなら、私とレイで向かいます。兵士を一部隊お借りしますが、無事に帰すと約束はできません」
「……ぐぬぅ」
兵士たちはイムノスの権限でカダロードの警備隊から連れてきた。魔物ならともかく魔族相手には対抗手段がない。まともにやりあえばどうなるかは考えずともわかるだろう。
すんなり認められはしなかったが、結局サフールに任せるということで話はまとまった。もちろん指示の手紙にはギル特製の簡易結界装置などの道具を同封する。うまく立ち回れば捕らわれた女たちを救い出し、サフールも無事に戻れるはずだ。
「手紙を届けた早馬はそのままバルガードにて待機、サフールさんが行動した結果が分かり次第デオガルドに戻って報告するようにしましょう」
「ワシらは報告を待てば良いのだな?」
「ええ。成功しても失敗しても魔族を怒らせることになります。私たちはその間に次の作戦の支度に取り掛かります」
次の作戦、と聞いて再び全員が首を傾げた。ギルは目の前の救出作戦だけでなく、更に先のことを考えている。
「魔族の目的は子孫を残すこと。捕らえた女性たちが逃がされる、または女性たちが子を成せなくなればどうすると思います?」
「魔族がどう行動するかなど見当もつかないが」
同じグレフ神の末裔でも、フィッツにはギルの考えていることが予想できないらしい。まともな感性を持っていれば当たり前だ。ギルの頭の中がどうなっているのか、なにを目指しているのか、俺にもまったくわからないのだから。
「魔族は半魔族を取り返しにくるはずです。一年前、どうやら保護施設があると誤認して教会本部を襲ったらしいので」
これは俺が直接バアルから聞いたから間違いない。魔族はグレフ神の血を引く本家のジーレンなんか狙っていなかった。最初から半魔族を取り返しに来ていたのだ。
「わざと結界の空白地帯を作って誘導し、聖都で魔族を迎え撃ちます」
ギルの発言を聞いたイムノスとトーレスは唖然とし、フィッツは難しい顔で黙り込んだ。危険だからやめろと否定するだけなら簡単だが、では代案をと問われれば口を噤むしかない。
「落ち着いてよく考えてみてください。結界の空白地帯を作るにはイムノス様とトーレス様にも尽力していただく必要があります。私一人ではなにもできませんので」
そう言い残し、ギルは応接室から出た。
トーレスの屋敷の廊下を歩く背中を俺は黙って追いかける。二階の部屋に入ると、ギルは俺を正面から抱きしめてきた。
「……私は間違っているのでしょうか」
掻き消えてしまいそうな弱々しい呟きに、珍しくギルが迷っているのだと気付いた。
無茶な案を提示したのも、有無を言わさず通したのも、それが一番効率が良いからだ。誰一人犠牲を出さずに済む方法なんかない。
「ギルには俺がついてるよ」
「レイ……」
ぎゅう、と背中に回された腕に力が込められる。ギルの肩口に鼻先を埋めながら、俺も抱きしめ返した。
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