54 / 94
54話・グレフ神の血は人間に有害である…?
しおりを挟む「俺が治した? ハハッ、冗談キツいぜギル」
あまりにも有り得ない話をされたせいで笑うことしかできなくなった。乾いた笑いをこぼす俺に、ギルは真顔で話を続ける。
「フィッツの護衛は明らかに助からない状態でした。医者も顔をそむけるほどの酷い怪我を負っていたのです」
「そ、そんなに?」
「ええ。止血用の布で隠していましたが、腹が破れて内臓まで見えていたほどでした」
負傷した現場を見ていたフィッツたちや診察した医者は絶望的な状況だと理解していたのだろう。俺が見た時には既に患部は覆い隠されていたから、そこまで酷いとは思わなかった。だから軽々しく煽るようなセリフが言えたのだ。
「あの場にいた者の中でただ一人、あなただけが彼の生存を諦めていなかった。あなたの魔力が彼を生かすために作用し、致命傷だった腹部の傷を癒したと考えるのが自然ではないかと」
ギルの言っている意味が微塵も理解できず、俺は「ぽぇ」みたいな妙な声を喉奥から出した。しばらく放心した後、気を取り直して反論する。
「いやいやいや、俺そんな魔法使えねえし! それに、魔力だって全然消費してないし! アレはフィッツかギルがやったんじゃねえの? グレフ神の血が起こした奇跡みたいなさぁ!」
俺はてっきりフィッツが部下に対する感情を爆発させて治癒能力を開花させたとばかり思っていた。または、ギルが作った不思議な道具の効果とか。
だが、ギルは俺の言葉を鼻で笑った。
「グレフ神の血が人を助けるために作用するわけありません。ですから、その考えは的はずれです」
「え……」
はっきりと断言するギル。口調は穏やかだが棘がある。俺に対してではなく、グレフ神に対してだろうか。口にするのも嫌だと言いたげな感じだ。
「以前から疑問に思っていたんですよ」
ギルは俺の手を引き、窓際にある椅子へと座らせた。自分も向かいの椅子に腰を下ろし、話を続ける。
「グレフ神の血を引く子を孕んだ女性は必ず命を落とす。ほとんどの女性は子を成せず、妊娠してもすぐに流れ、なんとか臨月まで体が保ったとしても出産と同時に死に至る。おかしいとは思いませんか?」
「えっと、確かに女が死に過ぎるとは思うけど」
俺の返答に、ギルが頷く。
「ですが、魔族が人間の女性を孕ませても命に関わるような事態には陥らないのです。聖都にいる時にも調べましたが、あなたと共に辺境を旅して見聞きして、魔族の子ども……半魔族を産んだ女性が産後も普通に生存している事実を知って驚きました」
バルプルドに住むテオの母親は生きているが、魔族に対する恐怖と嫌悪感から育児放棄をしていた。代わりにテオの祖母にあたる女が最低限の世話をして育てていたと聞いた。半魔族を産んだ話はよく聞くが、そのせいで死んだという話は一つもなかった。
「わかりますか。魔族の血よりグレフ神の血のほうが人間にとって有害なんですよ、レイ」
ギルが導き出した答えは、おそらく真実なのだと思う。体に流れる血が人間にとって有害なものであるとするならば、それは人間だと言えるのだろうか。
「でっ、でもさあ、グレフ神の血のおかげで結界が維持されてるわけだろ? 人間にとって悪いことばっかじゃねえよな?」
自分の根源を否定するギルは悲しげな顔をしていた。そんな顔を見ていたくなくて、俺は必死になって利点を挙げた。別にグレフ神を擁護したいわけじゃない。ギルを元気付けたい一心だった。
ふ、とギルが笑う。朗らかな笑みではない、嘲笑と表すべき表情だった。
「結界こそが人々を縛る枷なのかもしれませんよ」
一年間ずっと一緒にいたけれど、ギルはいつも俺より先のことを考えていて、同じものを見ても導き出す答えは違っていた。この件もそうなのだろう。俺に教えてくれた理由は、ギルの中で真実だと確信したからだ。
そんな馬鹿な、と笑い飛ばすなんてできなかった。
26
あなたにおすすめの小説
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
記憶喪失から始まる、勘違いLove story
たっこ
BL
事故に遭い目が覚めると、自分が誰かもわからなくなっていた陽樹。同居していたという同僚の月森との生活を始める。
職場でも家でも一緒、さらに休日までも一緒に過ごしているうちに、陽樹は月森を意識し始める。
そんなとき、月森に振られた記憶を不意に思い出して……。
●年齢制限ありの回は ※
軽い表現の回は * を表示します。
描写は物語の終盤になる予定です。
《今作品は完全に不定期の更新となります。ご了承くださいませ》
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる