【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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54話・グレフ神の血は人間に有害である…?

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「俺が治した? ハハッ、冗談キツいぜギル」

 あまりにも有り得ない話をされたせいで笑うことしかできなくなった。乾いた笑いをこぼす俺に、ギルは真顔で話を続ける。

「フィッツの護衛は明らかに助からない状態でした。医者も顔をそむけるほどの酷い怪我を負っていたのです」
「そ、そんなに?」
「ええ。止血用の布で隠していましたが、腹が破れて内臓まで見えていたほどでした」

 負傷した現場を見ていたフィッツたちや診察した医者は絶望的な状況だと理解していたのだろう。俺が見た時には既に患部は覆い隠されていたから、そこまで酷いとは思わなかった。だから軽々しく煽るようなセリフが言えたのだ。

「あの場にいた者の中でただ一人、あなただけが彼の生存を諦めていなかった。あなたの魔力が彼を生かすために作用し、致命傷だった腹部の傷を癒したと考えるのが自然ではないかと」

 ギルの言っている意味が微塵も理解できず、俺は「ぽぇ」みたいな妙な声を喉奥から出した。しばらく放心した後、気を取り直して反論する。

「いやいやいや、俺そんな魔法使えねえし! それに、魔力だって全然消費してないし! アレはフィッツかギルがやったんじゃねえの? グレフ神の血が起こした奇跡みたいなさぁ!」

 俺はてっきりフィッツが部下に対する感情を爆発させて治癒能力を開花させたとばかり思っていた。または、ギルが作った不思議な道具の効果とか。

 だが、ギルは俺の言葉を鼻で笑った。

。ですから、その考えは的はずれです」
「え……」

 はっきりと断言するギル。口調は穏やかだが棘がある。俺に対してではなく、グレフ神に対してだろうか。口にするのも嫌だと言いたげな感じだ。

「以前から疑問に思っていたんですよ」

 ギルは俺の手を引き、窓際にある椅子へと座らせた。自分も向かいの椅子に腰を下ろし、話を続ける。

「グレフ神の血を引く子を孕んだ女性は必ず命を落とす。ほとんどの女性は子を成せず、妊娠してもすぐに流れ、なんとか臨月まで体が保ったとしても出産と同時に死に至る。おかしいとは思いませんか?」
「えっと、確かに女が死に過ぎるとは思うけど」

 俺の返答に、ギルが頷く。

「ですが、魔族が人間の女性を孕ませても命に関わるような事態には陥らないのです。聖都にいる時にも調べましたが、あなたと共に辺境を旅して見聞きして、魔族の子ども……半魔族を産んだ女性が産後も普通に生存している事実を知って驚きました」

 バルプルドに住むテオの母親は生きているが、魔族に対する恐怖と嫌悪感から育児放棄をしていた。代わりにテオの祖母にあたる女が最低限の世話をして育てていたと聞いた。半魔族を産んだ話はよく聞くが、そのせいで死んだという話は一つもなかった。

「わかりますか。魔族の血よりグレフ神の血のほうが人間にとって有害なんですよ、レイ」

 ギルが導き出した答えは、おそらく真実なのだと思う。体に流れる血が人間にとって有害なものであるとするならば、それは人間だと言えるのだろうか。

「でっ、でもさあ、グレフ神の血のおかげで結界が維持されてるわけだろ? 人間にとって悪いことばっかじゃねえよな?」

 自分の根源ルーツを否定するギルは悲しげな顔をしていた。そんな顔を見ていたくなくて、俺は必死になって利点を挙げた。別にグレフ神を擁護したいわけじゃない。ギルを元気付けたい一心だった。

 ふ、とギルが笑う。朗らかな笑みではない、嘲笑と表すべき表情だった。

「結界こそが人々を縛る枷なのかもしれませんよ」

 一年間ずっと一緒にいたけれど、ギルはいつも俺より先のことを考えていて、同じものを見ても導き出す答えは違っていた。この件もそうなのだろう。俺に教えてくれた理由は、ギルの中で真実だと確信したからだ。

 そんな馬鹿な、と笑い飛ばすなんてできなかった。


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