【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

文字の大きさ
53 / 94

53話・瀕死の怪我を癒した人物は誰か

しおりを挟む

 デオガルドに到着すると、トーレスがありったけの治療道具を準備して待ち構えていた。馬車より先に馬に乗った兵士が知らせてくれたおかげだ。

 トーレスの屋敷に用意された部屋にルシオを運び込み、医者が怪我の状態を改めて確認する。出血は止まっているが、腹部の傷は完全に塞がったわけではなかった。破れた血管や傷付いた内臓が修復されているのは確かなようで、現場で診ていた医者はしきりに首を傾げていた。結局ここでの治療は表皮の縫合と細かな裂傷などの消毒をしたくらいで済んだ。

「怪我自体はなんとかなりましたが、失った血はどうしようもありません。あとは本人の体力次第でしょう」

 医者の言葉に、フィッツたちは安堵の息をもらしていた。助かる可能性は半々。予断を許さない状況だが、先ほどまでの悲壮感はどこにもない。医者が付きっきりで様子を見てくれることになった。

「レイ。ちょっといいですか」

 寝台に寝かされたルシオを囲むフィッツたちを部屋の出入り口から眺めていると、ギルから呼ばれた。これから山の中でなにがあったのか報告しに行くという。

 応接室にはトーレスとイムノス、そして兵士取りまとめ役の隊長がいた。俺はギルが座る席の後ろで控えていようとしたんだが、イムノスから「おまえさんも疲れとるだろ」と勧められて椅子に座った。

 まずは隊長から保護した住民たちの状態が説明された。全員たいした怪我もなく、今は大浴場で入浴または食堂で食事をとらせている。住民たちからも聞き取りをしているが、数が多い上にみな興奮していて事情聴取はまったく進んでいない。

 次に、俺たちが見たものを説明した。崖下に洞窟の入り口があり、奥に開けた場所があったこと。そこに幾つかの建物があり、男たちが枷と鎖で繋がれてなにかの作業をさせられていたことを話すと、今回デオガルドで留守番をしていたトーレスが驚きの声をあげた。

「彼らは一体なにを作らされていたのでしょうか」
「私たちにもわかりません。あとで住民の皆さんに聞いてみてください」

 続けて、俺が魔族から聞き出した情報を教えた。住民の女たちだけを元の集落に戻し、別の魔族に守らせていること。魔族には女がいないから代わりに人間の女を孕ませ、生まれた半魔族同士を掛け合わせて魔族を増やそうとしていることを伝えた。

「なんと。では女性たちはまだ囚われたままだということですか。辺境の集落では助け出す難易度は今回の比ではないかもしれません」
「しかも、その集落にあったグレフ神の像は壊されていて機能していません。魔族だけでなく魔物にも警戒しなくては。並の兵士では太刀打ちできないかと」

 人間側の拠点であるデオガルドからそこまで遠くない山の中ではなく、辺境での救出作戦となれば話は変わってくる。いざという時の連絡手段がなく援軍は望めない。怪我人の治療も難しい。魔物だけなら兵士が束になってかかれば倒せるが、魔族が現れれば対抗する手立てがない。

 今回なんとかなった理由は、バアルが俺を仲間だと認識していたからだ。初めて顔を合わせた時と洞窟で二度裏切るような真似をした以上、次に遭遇したらそうはいかない。油断していない魔族相手に勝ち目はない。

「ギルバートの簡易結界装置が役に立ったらしいじゃないか。量産して皆に持たせればどうかのぉ」
「難しいと思います。今回も幾つか前線の兵士に持たせてみたのですが、至近距離まで魔族を引きつけねばなりませんので、起動させる前に退避してしまい……アーネスト様からお預かりした貴重な品を無駄にしてしまいました」

 イムノスの提案に、隊長が申し訳なさそうに意見する。せっかくの道具も適切に使わねば意味がない。タイミングを誤れば命の保証はないのだから、逃げてしまった兵士を責めることは酷だろう。

「簡易結界装置は替えがききますからお気になさらずに。結果的に命を落とさずに済めばそれで良いのですから」

 ギルも特に咎めることはなかった。

「今後は魔族側も警戒してくることでしょう。これまでより対応が難しくなると思います。別の策を考えたほうが良いかもしれません」

 同じ轍を踏むほどバアルたちは甘くない。もう油断して罠に引っ掛かってはくれないと俺も思う。

「とりあえず、今夜はゆっくり休むように。住民たちへの聞き取り調査も明日以降やっていくとしよう」

 イムノスのひと言で報告会が終わり、解散となる。客室に戻る途中、廊下の真ん中でフィッツが待ち構えていた。

「フィッツ。護衛のかたの容体は?」
「安定しているが、まだ意識が戻っていない」
「そうですか。早く目覚めると良いですね」

 怪我で昏睡状態のルシオの話をする二人を眺めていると、フィッツが俺に向き直った。随分と真剣な眼差しで見つめられ、思わず一歩下がってしまう。

「な、なんだよ」

 ギルの背に隠れるようにして尋ねると、フィッツは眉間にシワを寄せて唸り始めた。顎に手を当て、首を傾げている。

「うーむ……そんなわけないか……」
「なにブツブツ言ってんだ気持ちわりぃな」
「やっぱり違うか……いや、しかし……」

 俺を見ながら独り言を繰り返すフィッツ。仲間が死にかけたショックでおかしくなったのかもしれない。

「行きますよ、レイ」
「お、おう」

 ブツブツ呟くフィッツを廊下に置き去りにして、俺たちは自分たちの客室へと戻った。

「なんだったんだ? アイツ大丈夫かな」
「フィッツも色々思うところがあったんでしょう。勘は鋭いけど固定観念を捨てられないから答えに辿り着かないみたいですよ」
「はあ? どういう意味だよ」

 知っているなら答えを教えてくれたらいいのに、ギルの説明は回りくどくてわかりにくい。

 意味がわからず抗議すると、ギルは俺の正面に立って真っ直ぐ視線を合わせてきた。さっきのフィッツみたいに真剣な目をしている。ドキリとして後ろに下がろうとしたが、手首を掴まれて逃げられなくなった。

「フィッツの護衛の怪我を癒やし、命を繋いだのはあなたじゃないんですか? レイ」
「へぁっ?」

 予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出た。


しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

記憶喪失から始まる、勘違いLove story

たっこ
BL
事故に遭い目が覚めると、自分が誰かもわからなくなっていた陽樹。同居していたという同僚の月森との生活を始める。 職場でも家でも一緒、さらに休日までも一緒に過ごしているうちに、陽樹は月森を意識し始める。 そんなとき、月森に振られた記憶を不意に思い出して……。 ●年齢制限ありの回は ※ 軽い表現の回は * を表示します。 描写は物語の終盤になる予定です。 《今作品は完全に不定期の更新となります。ご了承くださいませ》

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...