52 / 94
52話・仲間の定義と奇跡の光
しおりを挟むルオムを無力化してから山道を駆け降りる。道中の地面に点々と血痕があり、誰かが怪我を負っているとわかった。
ふもとに着くと、ちょうど保護した住民たちを馬車に乗せている最中だった。一番近くにいたフィッツの護衛の一人に声をかける。
「おーい、大丈夫か?」
「レイ。おまえ無事だったのか」
「ああ、魔族を足止めしてきた」
安否を確認したつもりがこちらの心配をされてしまい、俺は両手を広げて無傷を証明してやった。ホッと安堵の息をつく護衛の顔にわずかに笑顔が戻ったが、まだ表情が硬い。なにかあったのだと察して再度尋ねる。
「なあ、誰か怪我してないか?」
「フィッツ様やギルバート様はご無事だ。住民たちも転んだ際の擦り傷程度で済んでいる。だが……」
重苦しい口調から、只事ではない雰囲気を感じ取る。慌てて周囲を見回すと、馬車が停められている場所から少し離れた木陰でフィッツたちが何かを覗き込むように膝をついていた。
「ルシオ、ルシオ! しっかりしろ!」
「フィッツ様、駄目です血が止まりません!」
「手の施しようがない。設備があっても、もう」
木の根元に横たえられた護衛は腹部からおびただしい量の血を流していて、囲むように膝をついているフィッツたちの服を赤く染めている。悲痛な声でフィッツが護衛の名前を呼び、デオガルドから連れてきていた医者が止血を試みているがうまくいっていない。
「彼は住民をかばい、魔族の攻撃魔法をもろに喰らってしまったのです。彼が避けたら十数人の住民たちが犠牲になるところでした」
茫然と立ち尽くす俺に気付き、ギルが状況を説明してくれた。ギルの声は平坦で、なんの感情もないように思えたが、違う。近くにいたのに守りきれなかった自分に対して憤っているようだった。
「アイツは……」
倒れている護衛は血を失い過ぎて顔が土気色になりかけていた。見慣れた顔だ。いつも俺に突っかかってきて、憎まれ口ばかり叩く嫌な奴。手合わせで勝って初めて名前で呼ばれた時にようやく対等の間柄になれたと思ったばかりなのに。
「ルシオ!」
見ている間にも血は流れ続け、内臓も傷ついているのか苦しそうに咳き込みながら血を吐いている。死は避けられないと誰もが理解した。
「しっかりしてくれルシオ。……嗚呼、神の末裔など無力なものだ。支えてくれる仲間ひとり救えないのだから」
ルシオの手を握りながら嘆くフィッツ。
グレフ神の末裔は万能ではない。血に魔物や魔族を忌避する力が宿っているだけで、その辺にいる人間となんら変わらない。
諦めと絶望の空気の中、俺はフィッツの隣に膝をついた。不規則な呼吸を繰り返しているルシオの顔を覗き込む。まぶたはわずかに開いているが、見えているのかいないのかはわからない。口の端から垂れる血を指先で拭ってやりながら、俺は声をかけた。
「おい、いつまで寝てんだ。デオガルドに戻るぞ」
その場にいた全員が顔を上げ、すごい目で俺を見てくる。なにを的外れなことを言っているんだこの半魔族は、と言いたいのだろう。だが、無視してルシオに話しかけ続けた。
「半魔族に負けっぱなしで悔しくねえのか? オマエの矜持はそんなモンだったのか?」
煽るようなセリフをぶつけると、他の護衛の三人が唇を噛み締めて視線を伏せた。本人の代わりに反論してくれても構わないのに喋る気力すらないらしい。これじゃ俺だけがコイツの現状を受け入れられずに我が儘を言ってるみたいじゃないか。
「フザけんなよ、ばかやろう」
俺は自分の指先についたルシオの血を拳の中に握り込み、俯きながら悪態をついた。
付き合いは浅いが、本音でぶつかってきた相手だ。俺とコイツの間に嘘はなかったし、同じグレフ神の末裔を護衛する者としての仲間意識みたいなものも芽生え始めていた矢先だ。なにも覚えていないバアルたちより、交流した記憶のあるコイツらのほうが今の俺には大事だ。
「え、あれ、なんだ?」
「これは一体……」
ふと、戸惑いの呟きが聞こえてきた。こんな時になんだよ、と思いながら顔を上げると、辺り一帯に真っ白な光の粒が舞っている光景が目にはいった。光の粒が一箇所に集まってゆく。ルシオの腹部にある傷に集まり、チカチカと点滅している。
「なんだ、なにが起こっている?」
隣にいたフィッツが困惑した顔で俺を見るが、まったく意味がわからないと示すために首を横に振った。
「これは、魔力でしょうか。でも……」
後方にいたギルからも戸惑いの声が上がる。馬車に乗り込んでいた住民や周りにいた兵士たちも不思議そうにこちらの様子を眺めていた。
「あ、消える」
光の粒は十数秒ほど経つと徐々に減っていき、最後にはなんの痕跡も残さずに消えてしまった。後に残されたのは、相変わらず倒れたままのルシオと、ポカンとした顔の俺たちだけ。
「ちょ、ちょっと見てください皆さま!」
真っ先に異変に気が付いたのは医者だった。医者はルシオの腹部を覆っていた止血用の布を外し、患部に付着していた血を軽く拭う。すると、先ほどまで開いていたはずの腹部の傷がほとんど塞がっていた。土気色だった顔色もわずかにマシになっている。
「バカな。まだ縫合もしていなかったというのに」
驚愕する医者と、まさかの事態に顔を見合わせるフィッツと護衛たち。まだ喜ぶのは早い。傷が塞がっても流した血は戻らないのだ。
「すぐに馬車に乗せよ! デオガルドに戻るぞ!」
「はっ!」
気を取り直したフィッツが指示を出し、護衛たちが空いている馬車にルシオを運び入れてゆく。それを離れた場所から見守っていると、ギルに肩を叩かれた。
「お疲れ様でした、レイ」
「ああ。なんか知らねえけどめちゃくちゃ疲れた」
「でしょうね」
バアルとルオムを足止めした件に対する労いだと思って適当に返事をすると、ギルは意味ありげに微笑んだ。そして、俺の手を引いて馬車へと向かう。
「全員乗ったなー? 出発するぞぃ!」
先頭で号令を出している年寄りはイムノスだ。ギルから「デオガルドで待て」と言われていたにも関わらずついてきていたらしい。カダロードから連れてきた兵士の取りまとめ役をするぶんには構わないが、分家の当主が危険な現場に来たら迷惑じゃないか?
26
あなたにおすすめの小説
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
記憶喪失から始まる、勘違いLove story
たっこ
BL
事故に遭い目が覚めると、自分が誰かもわからなくなっていた陽樹。同居していたという同僚の月森との生活を始める。
職場でも家でも一緒、さらに休日までも一緒に過ごしているうちに、陽樹は月森を意識し始める。
そんなとき、月森に振られた記憶を不意に思い出して……。
●年齢制限ありの回は ※
軽い表現の回は * を表示します。
描写は物語の終盤になる予定です。
《今作品は完全に不定期の更新となります。ご了承くださいませ》
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる