【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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65話・怪我から生還した男の様子がおかしい

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 翌朝、階下の食堂に朝食を食べに行ったらフィッツたちがいた。隣のテーブルに着くと、向こうから声をかけられる。

「ギルバート、レイ、おはよう」
「おはようございます、フィッツ」
「おっす」

 フィッツのテーブルにはマリク、オルミ、サンクだけでなくルシオの姿もあった。もう動けるくらい回復したようだ。流石に数日飲まず食わずだったので、皆とは違う軽めの食事を用意してもらっている。

「レイ!」

 そのルシオが、俺を見つけてパッと顔を輝かせた。食事を中断し、椅子から立ってこちらへと歩み寄ってくる。多少おぼつかない足取りではあるが、しっかり自分の足で歩いている様子に驚く。

「オマエ、もう歩いて大丈夫なのか?」
「この通りだ。ずいぶん鈍ってしまったが、すぐに元通り動けるようになるって医者に言われた」
「そっかあ、良かったじゃねえか!」

 バシッと肩を叩く。これまでのルシオなら憎まれ口で返しそうなものだが、今日は違った。

「ああ。オマエのおかげだ、レイ」
「……うん?」
「オレが倒れてる間にマリクたちと手合わせしたんだって? 後でオレのリハビリに付き合ってくれよ」
「お、おう。いいけど」
「約束だからな! じゃあ」

 そう言って、ルシオは自分の席へと戻っていった。話している間、終始にこやかな笑顔だった。あのルシオが、だ。首を傾げつつ隣のテーブルに視線を向けると、フィッツたちも微妙な表情で俺を見ていた。やはりいつものルシオと違うようだ。

 食堂の給仕係が俺とギルに朝食のトレイを運んできてくれた頃、先に食べ終えたフィッツたちが退室していった。去り際にルシオが「後で庭に来いよ!」と俺に念を押してきたので、苦笑いで手を振りかえしておく。

 さあ食べよう、としたところで、向かいの席に座るギルが不機嫌さを隠さずに頬を膨らませていることに気が付いた。

「どした、ギル。好きなもんなかったか?」

 てっきり朝食のメニューに不満があるのかと思ったが、そうではないらしい。

「あの男、妙にあなたに馴れ馴れしくありませんか。昨日まで意識がなかったというのに。いつの間に親しくなったんです?」
「はぁあ?」

 要は、俺に対する態度にムカついたってことか。ルシオと親しくしたつもりはない。むしろ、アイツが昏睡状態の間に魔物を狩りに行った他の三人とのほうが仲良くなったくらい。ルシオだけを特別扱いしたことはない。

「もしかして、怪我を治したあなたに恩義を感じているのかもしれませんね」
「治したの、ぜってえ俺じゃねえって」

 周りに聞こえないように小声で呟くギル。

 俺が瀕死の重傷を負ったルシオを癒したと主張しているのはギルだけだ。俺自身には実感がないし、フィッツも半信半疑状態。フィッツの性格なら不確定情報を周りに吹聴しないはず。となると、ルシオの態度の変化には明確な理由がない。

「ま、元気になったんならなんでもいいや。俺、朝メシ食べたら庭に行ってくる」
「私を置いていくつもりですか? 酷いです」
「ギルは簡易結界装置作りするんだろが」
「そうですけど」

 ボヤきながら、ギルはテーブル越しに俺の手を掴んだ。指先を軽く握られ、指の腹を撫でられる。その触りかたが昨夜の行為を思い出させた。

「あなたが私以外の人に関心を向けるのは、あまり良い気分ではありません」
「……ッ、早めに切り上げる。それでいいよな?」
「はい、わかりました♡」

 俺の反応にギルはすぐさま機嫌を直した。コイツは本当にタチが悪い。嫉妬深くて心が狭い。でも、そういう部分も引っくるめて好きなんだから仕方がない。俺の趣味が悪いだけだ。

 食後、二階の客室へ戻るギルを見送ってから、俺は庭に向かった。先に鍛錬を始めていたフィッツたちに声をかける。既に走り込みを終えてひと休みしているところだった。

「レイも一緒に手合わせするか」
「おう!」

 腹ごなしの運動に丁度いい。二つ返事で了承すると、フィッツが相手を選び始めた。

「おまえは剣の扱いに不慣れなのだろう。サンクと剣で手合わせしてみるといい」

 フィッツから提案され、了承しようとしたら待ったをかけられた。

「お待ちくださいフィッツ様。私がレイの相手を務めます」

 割り込んできたのはルシオだった。

「まだ万全ではない私なら剣に不慣れなレイと釣り合いが取れましょう」
「ふむ、一理ある。いいだろう」

 ルシオの要望が認められ、俺の手合わせの相手が決定した。昨日まで意識不明だった奴に後れを取るつもりはないが、ルシオはかなりの剣の使い手だと聞いた気がする。

「そうまでして俺と遊びたかったのか? ルシオ」
「鈍り切った体だが、剣での勝負なら負けんぞレイ」

 借りた剣を構え、距離を開けて対峙する。フィッツとオルミ、サンクは四阿の椅子に腰掛けて観戦する気満々だ。マリクは俺とルシオの間に立ち、審判役を買って出てくれた。

「準備はいいな? ……始めッ!」

 マリクの手が振り下ろされた瞬間、俺は間合いを取るために後ろに飛び退いた。ルシオは剣を構えて動かない。目だけで俺の動きを追ってくる。

 昨日魔物を狩りに行った時にも持たせてもらったが、金属製の長剣はかなりの重量がある。上向きに構えたまま微動だにしないルシオを見て、病み上がりのくせに筋力が衰えていないのかと驚愕した。本人曰く「鈍っている」らしいので万全の状態ではないのだろう。

 素手よりは攻撃範囲が広いが、それは相手も同じ。下手に近寄ることもできずに攻めあぐねていると、不意にルシオが足を進めた。真っ直ぐ突っ込んでくるわけではない。俺の間合いの外を円を描くように移動している。もちろん剣は構えたままだ。

 睨み合っていても埒が明かない。意を決して踏み込むと、ルシオがにやりと笑った。打ち込んだ剣はあっさりと軌道を逸らされ、返す刃が俺の横っ腹に当たる手前でピタリと止められた。

「……俺の負けだな」
「いや、なかなか良い手合わせだった」

 潔く負けを認めると、ルシオが笑いながら肩を組んできた。やはりおかしい。コイツはこんなに気安い性格だっただろうか。もっと嫌味で憎たらしい男だった気がする。

「普通に動いてるけど、腹の傷は痛まないのか?」
「少しダルいが痛みはないよ」
「そっか、そりゃ良かった」

 素直に回復を喜ぶと、ルシオも嬉しそうに笑った。意地悪な笑みではなく邪気のない笑顔だ。

「心配してくれたのか? レイ。ありがとよ」

 そんな表情は初めてで、俺は面食らってしまった。

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