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66話・火花を散らす男たちの間に挟まる
しおりを挟む庭での鍛錬が一段落した頃、使用人から呼び出された。魔物の解体を頼んだ業者が骨を届けにきたという。すぐに屋敷の玄関まで受け取りにいくと、大きな木箱が二つ置かれていた。なかなかの重さがあり、一度には運べそうにない。二階の客室まで往復するかと考えていた時、背後から声がかけられた。
「なんだこりゃ。なにか買ったのか?」
「ルシオ」
フィッツたちと庭にいたはずのルシオがなぜか玄関に来ている。まさか俺の後を追ってきたのか?
「昨日マリクたちと倒した魔物の骨だよ。簡易結界装置の材料に使うんだ」
今までのルシオなら魔物の骨を前にすれば嫌な顔をしていた。しかし。
「オレも運ぶの手伝うよ」
「えっ? あ、ああ。助かる」
なんと、ルシオは躊躇いもなく木箱を持ち上げた。
「ギルバート様の部屋に運べばいいのか?」
「う、うん」
慌てて残りの木箱を抱え、ルシオの後ろについて歩く。
朝の食堂ではややフラついていたが、病み上がりの割に元気だ。さっきの手合わせの時は得意武器を扱っていたとはいえ俺を負かしている。明らかに異常な回復速度だ。
でも、死ぬよりずっといい。土気色の顔で横たわっていた姿を思い出すと恐ろしくなる。誰が起こした奇跡だろうと構わない。知ってる奴が死ななくて良かったと心から思う。
「レイ。ギルバート様の部屋はどこだ?」
「二階の廊下の突き当たり」
「わかった」
階段を上がる足運びも安定している。魔物の骨入りの木箱は地味に大きくて重いが、軽々持ち運んでいる。もう日常生活において不便はなさそうだ。
部屋の前に着くが、俺たちの両手は塞がっている。扉を開けるためには一旦木箱を下ろさねばならない。
「ちょっと待ってろよ、ルシオ」
そう言って木箱を廊下の床に置こうとした瞬間、扉が開いた。部屋にいたギルが内側から開けたのだ。
「おや。魔物の骨が届いたんですね」
俺たちが抱える木箱を見てすぐに察したらしい。ギルはすぐさま扉を大きく開け、中へと招き入れてくれた。
「ありがとうございます。窓際にある机の横に……ええ、その辺りに置いていただけますか」
「こちらですね、わかりました」
ギルに指定された場所に木箱を置くルシオ。俺に対する時とは違い、礼儀正しく敬語で受け答えしている。
「病み上がりのかたに無理をさせてすみません」
「いえ。少しは動かないと鈍ってしまいますので、お気になさらないでください」
運んでもらったことに感謝を述べるギルに、恐縮するルシオ。にこやかで差し障りのない会話だったのだが、途中から雲行きが怪しくなってきた。
「では、私はこれで失礼いたします。……レイ、また庭に来てくれるか? もう少し体を動かしておきたいんだが」
「え、別に構わねえけど」
部屋を辞する挨拶のついでに、ルシオから再度鍛錬の誘いを受けた。断る理由もないので了承しようとしたら、ギルが間に割り込んできた。
「申し訳ありません。レイはこれから私の作業の手伝いをしてもらう予定なので」
「へっ?」
予想外の言葉に思わず声を上げる俺。今までギルの作業を手伝ったことなんかないし、約束もしていない。なぜ急にそんなことを。
「……そうですか。ギルバート様のご用事のほうが優先ですよね。では、私も及ばずながら手伝いを」
「いいえ、結構です。レイがいれば事足りますから」
ルシオからの手伝いの申し出を、ギルはやんわりと断った。室内の空気が張り詰めたような感覚を覚えた。妙な緊張感に襲われ、二人の顔を交互に窺う。どちらも笑顔なのに笑っていない。
「る、ルシオ、荷物運んでくれてありがとな! めちゃくちゃ助かったぜ!」
気まずい空気をブチ壊すべく、俺は極めて明るい声と笑顔でルシオに礼を言った。無理やり背中を押して出入り口まで連れていく。さすがにギルの同意なく長居はできないと理解したようで、ルシオは素直に廊下へと出た。
「レイ、またな」
「お、おう」
半ば追い出すような形になってしまったというのに、ルシオは俺に笑顔を向けている。愛想の良い奴じゃなかったはずなのに。
ルシオを見送るために廊下に出ていた俺の肩にギルが手を置いた。そのままするりと首に手のひらを這わせる。ルシオがいる前で、わざと見せつけるようにギルが触れてきた。
「ルシオさん、そろそろ失礼」
茫然と立ち尽くすルシオに挨拶の言葉を投げてから、ギルは俺を室内へと引っ張り込んで扉を閉めた。しばらくしてから、扉越しにルシオの足音が聞こえた。徐々に小さくなってゆく足音が完全に聞こえなくなった辺りで俺は正気を取り戻した。
「おい、ギル。なんだよ今のやり取りは!」
いきなり緊張感あふれる場に置かれたことに対する抗議をしたが、ギルはフンと鼻を鳴らした。
「それは私のセリフですよ、レイ」
「は?」
「鍛錬したらすぐに戻ると言いながら全然戻ってこないし、来たら来たで別の男と一緒ですし、しかもあのルシオとかいう男、レイにずっと色目を使っているじゃないですか」
「はあぁ???」
矢継ぎ早に不満を挙げるギルに、俺は困惑した。
「アイツは荷物運ぶの手伝ってくれただけだろ。色目ってなんだよ、意味わかんねえ」
確かに態度は軟化しているし、笑顔が増えている。理由はわからないが、以前より俺に対する好感度が上がっているのは間違いない。だが、色目という表現は違う気がした。ルシオは半魔族に強い差別意識を持っているのだから有り得ない。
「あなたが隙だらけだから付け込まれるんです。もう私のものだという自覚を持ってください」
頬を膨らませているギルの顔を下から覗き込むと、ぎゅうと抱きしめられた。つまり、嫉妬したということだ。
「安心しろよギル。ルシオにそんなつもりはねえって。大体、アイツは半魔族なんか大嫌いなんだからさ」
「人の心なんてわかりませんよ。なにかのきっかけで簡単に変わるものですから」
「ったく、めんどくせえなオマエは」
嫉妬と独占欲も行き過ぎると対応が面倒で仕方ない。でも、俺が好きだからだと思えば悪くはない。
「俺が好きなのはオマエだけだよ、ギル」
「レイ……」
こうして機嫌を取ってやるのも恋人の義務なのだ。
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