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69話・聖都の現状と対魔族の計画の規模は
しおりを挟む数時間おきに休憩を取りつつ聖都へと向かう。
俺一人に食事の支度をさせてばかりで申し訳ないと思ったのか、ルシオたちが手伝ってくれるようになった。慣れていないだけで、コイツらは教えたことはキチンとやってくれる。
「レイ、芋の皮むき終わったぞ~」
「ありがとー、オルミ」
「肉ぜんぶ串に刺しといたぞ、レイ」
「作業早いな、助かるぜサンク!」
「コレどうやって焼くんだ?」
「焚き火で……確か荷馬車に網あったよな? ルシオ」
「わかった、すぐに持ってくる」
「んじゃ、マリクは焚き火の周りに石を積んでおいて」
「よし、任せとけ!」
人手があると作業も捗る。最初の頃は支度に時間がかかっていたが、回を重ねるごとに食事の提供が早くなっていった。
「ギルバート、私もレイを手伝いたいのだが」
「フィッツは魔物の骨磨きをしてください」
「うう……この私がなぜ魔物の骨など……」
ちなみに、ギルとフィッツの料理音痴コンビは邪魔になるので隅っこで待機させている。本人たちにやる気はあるが、食材を無駄にしたくないので触らせない。後片付けは兵士や馭者たちに任せることにしたので、俺の負担はかなり軽くなった。
こんな感じで楽しく街道を進んでいたのだが、聖都が近付くにつれて徐々に雰囲気が暗くなってきた。全員の顔から笑顔が消えている。実際に空気が重くなったような気がした。
暗い雰囲気とは裏腹に、街道は綺麗になっていく。でこぼこの多い砂利道から石畳が敷かれた広い道になり、街道周辺には木や花が植えられていて見栄えが良い。ただ、現在は封鎖され、一般住民の通行が規制されている。平時ならたくさんの人々が行き交うであろう街道には今俺たちしか通っていない。
「そろそろ聖都かな」
「……ええ」
俺が話しかけても、ギルは小さく頷くだけ。馬車の進行方向……聖都がある方角を見据えていた。
戦うべき相手は後方から来るであろう魔族のはずなのに、守るべき聖都を睨みつけている理由がわからない。ギルにとって良い思い出のない場所だからだろうか。
「なあ、ギル。ぜんぶ終わったらまた旅がしたいな」
「ええ。色々な場所をゆっくり巡りたいですね」
デオガルドを出発してすぐ馬車の中で交わした会話を思い出しながら話しかける。今度はギルもちゃんと返事をしてくれた。
「楽しいだろうな、みんなでワイワイしながらさ」
「ちょっと、そこは『私と二人で』でしょう? レイ」
「そうだなぁ。ギルが料理できるようになればなあ」
「人には向き不向きがあるんですからね!」
俺の言葉にギルがムキになって言い返してくる。こんなやり取りをずっと続けていたいと願っても、馬車はどんどん進んでゆく。
しばらくして馬車が止まった。窓から外を覗くと、見上げるほどの立派な城壁と固く閉ざされた大きな門がある。大陸中央にある聖都の正門だ。
「ギルバート・アーネスト様。ならびにフィッツ・ラウール様が聖都に戻られた。開門せよ!」
俺たちと一緒にやってきた兵士が警備兵に命じ、正門を開けさせている。普段昼間は開いているはずの正門が閉められていた理由は、聖都に至るまでの街道を封鎖し、点在する休憩施設の結界装置をすべて撤去しているからだ。
とはいえ、聖都内部の各施設の結界装置はそのまま設置されている。魔族を迎え撃つ場所はあくまで聖都の手前。つまり、この正門の前にある広場なのだから。
俺たちが中に入ってから、正門は再び閉じられた。そのまま馬車で聖都内を走る。不思議なことに、たくさん並ぶ店はすべて休業しており、大通りには兵士以外誰もいなかった。
中心部にある大きな教会の前で降りると、二人の老人が待ち構えていた。
「おお、来たか! 待っておったぞ!」
「イムノス様。それにトーレス様も」
「馬車旅お疲れ様でした。ご無事でなによりです」
出迎えてくれたのは、イムノスとトーレスだった。俺たちより先に聖都に着いたはずなのに、なぜか疲れた顔をしている。
「着いて早々悪いが、教会本部に顔を出してはくれんか。今回の街道封鎖や聖都の住民を退避させた件について、ジーレン様に知られてしまってのぉ」
「……ええ、わかりました。すぐ参ります」
申し訳なさそうにイムノスが頼むと、ギルはすぐに了承した。
「伯父上、私も行きます」
「いや、おまえは皆と共に屋敷で待て。行ってはならん」
「しかし」
フィッツがギルに同行しようと申し出るが、なぜかイムノスは許さなかった。
「じいさん、俺は?」
「半魔族は問題外じゃ。ジーレン様に殺されたくないじゃろ。ワシらと一緒に待機するぞぃ」
どうやらジーレンって奴は相当な差別主義者らしい。最初の頃のフィッツたちもそうだったなと思い出す。
「レイ。ラウール家の屋敷で待っていてください。話が終わったらすぐに行きますから」
「わかった」
教会本部の入り口前でギルと別れ、俺はイムノスたちと一緒に分家の屋敷がある区域へと移動した。
一年前、怪我の治療のためにアーネスト家の屋敷でしばらく世話になっていたことがある。ギルが付きっきりで世話をしてくれて何不自由なく過ごせた。かなり広い庭があり、リハビリと魔法の練習をした記憶がある。アーネスト家の屋敷以外の場所には行った記憶がない。旅に出る際に初めて大通りを通り、正門をくぐっただけ。
他の分家の屋敷に入るのは今回が初めてだ。教会本部の裏手にあり、四つの区画が高い壁で仕切られている。昔は複数の分家があったが、現在は二家のみ。
「アーネスト家とそっくりだな」
「屋敷の造りは同じだ。庭の植栽もな」
「ふうん」
ラウール家の屋敷に入ると年老いた使用人が出迎えてくれた。応接間に通され、お茶と菓子が振る舞われる。昔から仕えている使用人なのか、フィッツたちとも親しげに会話している。
「なんか若い人間がいなくねえ?」
お茶を飲みながら尋ねると、イムノスは顎ひげを撫でながら頷いた。
「ギルバートの指示でな。万が一のことを考えて聖都の住民や教会の聖職者、仕えている者たちを近くの都市に避難させておるのだ。いま残っておるのは、ワシらのために働いてくれる有志ばかりじゃ」
「だから人間が少なかったのか」
大陸で一番大きな都市の住民をほとんど避難させるなんて、ギルはなにを考えているんだろう。
「ん?」
そこで俺は気が付いた。
「保護施設の半魔族はどうなってるんだ?」
「半魔族は魔族を誘き寄せるために必要じゃからのぉ。避難させてはおらんよ」
平然と答えられ、愕然としてしまった。
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