【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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93話・人間と魔族の架け橋は半魔族の役割

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 ギルの傷がほぼ治った頃、俺たちはラウール家の屋敷からアーネスト家の屋敷に移った。いつまでもイムノスたちの世話になっていては申し訳ないから……という理由もあるが、実際は違う。

「レイ。返事を聞かせてくれないか」
「なんの?」
「好きだと伝えただろうが」
「……うん? あれ、芝居じゃなかったのか」

 てっきりギルを目覚めさせるためにひと芝居打ったと思い込んでいたのだが、告白自体は本気だったらしい。再びルシオに迫られ、俺はラウール家に居づらくなってしまった。ギルもルシオを敵視しており、いつまた暴れ出すかわからない。

「あの男、やはりレイに色目を使っていましたね。あなたもあなたです。ハッキリ拒絶しないからしつこく迫られるんですよ!」
「いちおう毎回断ってるけど」

 告白されるたび、『俺にはギルがいるから』と伝えている。だが、ルシオは諦めてくれない。

「断りかたが生ぬるいと言っているんです。『おまえなんか大嫌いだ』とか『二度と顔を見せるな』くらい言わないと」
「思ってもないこと言えるかよ」
「ほら~~~! もぉおお~~~!!」

 そういうわけで、二人が顔を合わさなくて済むように生活空間を分けたのである。古くから勤めている使用人が屋敷の維持管理をしてくれていたので、俺たちはすぐに移り住むことができた。

 移動の理由はルシオに対する嫉妬だけではない。

「約束しましたよね? 全部片付いたら気が済むまで付き合ってくれるって」
「うっ」

 確かに約束した。
 もちろん覚えている。

「……わーった。俺も男だ。約束は守る」
「やった!」

 ギルとの約束を守るため、二人きりになれる場所に移ったのだ。

 ラウール家にはイムノスやフィッツだけでなく護衛四人組もいる。特にルシオと同じ屋根の下でギルに抱かれるなんて罪悪感しかない。一応ちゃんと断っているのだが、ルシオは諦めてくれなかった。顔を合わせるたびに笑顔を向けてくる。フィッツはどちらの肩も持たないが、オルミたちは当然のようにルシオの味方をする。ギルとの時間をさりげなく妨害したり、ルシオと二人きりにさせようとしたり。悪いヤツらではないんだが、こればっかりは許容できなかった。

「で、ギルは俺となにがしたいんだ。一緒に風呂に入る? それとも朝まで交わるか?」

 希望を聞くと、ギルは悩み始めた。

「もちろん全部やりたいんですが、私まだ本調子じゃないんですよね」
「この前まで死にかけてたもんな」

 最終決戦から半月ほど経ち、あらかた傷は塞がったとはいえ全快とは言えない状態だ。日常生活は送れるが、激しい運動は医者から止められている。

「あなたと同じ寝台で抱き合って眠りたいです。できれば、これから先も毎晩」
「そんなんでいいのか」
「ええ。約束してくれますか?」
「構わねえけど」

 思いのほか可愛らしい希望だったので、俺は二つ返事で了承した。

 後にこの時に交わした約束が俺の行動を縛ることになるのだが、ギルは最初から狙っていたに違いない。






 ──数年後。

 大陸の外周に位置する辺境は、今や魔族との共存区域へと変貌していた。結界装置の破損が原因で廃墟と化していた集落跡地を利用し、魔族や半魔族が暮らし始めたのである。

 半魔族は保護施設で学んだ知識や技術を活かして働き、魔族は魔物退治に勤しんだ。始めのうちは警戒していた辺境の住民たちも、魔族側に敵意がないとわかると少しずつ交流するようになった。

 教会を通じ、イムノスが魔族との共存を説いたことも大きな影響を与えている。過去魔族に襲われた女には補償をした。法の整備も進み、今後は同意なく人間を襲った魔族は罪に問われる。地道に信頼を積み重ねて悪い印象を払拭すれば、いずれ自ら望んで魔族に嫁ぐ人間の女性が現れるかもしれない。

「よぉ、ルオム。久しぶり」
「……ラース。なんの用?」

 バルガードの西にある集落には現在、魔法が苦手または体力がない半魔族が生活している。そのため必ず魔族が交替で見張っている。今日の当番であるルオムの人嫌いは相変わらずで、迷惑そうな顔で出迎えられた。

「今日は仕事だ。オッサンはいるか?」
「……叔父貴なら教会にいる」

 訪問理由を告げると、ルオムは俺たちを集落の中へと入れてくれた。終始めんどくさそうな態度だが、これでも以前よりはマシになっている。

 集落の中は綺麗に整備が行き届き、中心部に建つ教会までの道の両端には花が植えられている。サフールが町作りを手伝ったおかげだろう。

「おーい。オッサンいる~?」
「ラースか。よく来た」

 中心部に建つ教会は人間と魔族が交流する際の窓口として存在している。魔族側の代表としてオッサンが住み込んでおり、人間側からの使者に応対する。元は礼拝堂だった空間は改修され、広々とした応接室となっていた。

「魔族首長デイル様宛にイムノスから手紙」
「イムノス殿から? わかった」

 ちなみに、デイルはオッサンの名前だ。普段は名前で呼ぶことはないが、仕事の時だけ公私をわけるために敢えて呼んでいる。

「まだ教会内で魔族に対する忌避感が強いんで、一度話し合いの場を設けてみないかってさ」
「ふむ。オレは構わんが、逆効果にならんかな」

 イムノスからの手紙を眺めながら、オッサンは溜め息をついた。

 グレフ教は現在イムノスを最高責任者とし、各都市の聖職者たちをまとめている。魔族の排除から一転、融和を目指す方針へと教義を切り替えたことで反発を招いたが、時間をかけて説得している最中である。

「オッサン顔怖いもんなあ。マルヴは人当たりは良いけどエマリエに似過ぎだし、バアルは口と態度が悪いし、ルオムは人間嫌いだし」
「顔が怖いのは仕方ねえだろ。……魔族こっち側に外交向きの人材がいないのは痛いな」

 オッサンと話していると、奥からパタパタと足音が聞こえてきた。扉が開くと同時に室内に飛び込んでくる。

「レイ~!」
「テオ」

 現れた人物はテオだった。迷わず抱きついてきたので、俺も抱きしめ返す。

「また背が伸びた?」
「うんっ! もうすぐレイより大きくなれそう」
「育ちざかりだもんなぁ」

 出会った頃は俺の腰くらいの身長だったテオは、今や俺を追い越しそうな成長っぷりを見せていた。すっかり大人の顔になっているが、元の可愛らしさも残っている。

「今日ギルは一緒じゃないの?」
「ギルはバルガードに顔を出してから来るってさ」
「やったぁ! 久しぶりに一緒にごはん食べたい」

 大きくなってもまだまだ子どもだ。べったりくっついてくるテオをわしわし撫でていると、向かいに座るオッサンが凹んでいた。

「……オレにはそんな風に甘えたことないよな、テオ」
「だって、お父さんこわいもん」

 かわいそうだが、つい笑ってしまった。人懐こい性格で血の繋がりがあるテオからも『怖い』と評されるくらいの強面なのだ。オッサンはやはり外交には向かない。

「人当たりの良さとか見た目の親しみやすさを考えたら、外交担当はテオがやるべきじゃねえか?」
「え、ぼく?」
「そう。イムノスとも顔見知りだし、魔法もそこそこ使えるから自分の身を守れるし。魔族首長の息子だから立場的にも問題ない。適任だと思うんだが」
「ふむ、一理あるな」

 俺の提案に、オッサンは考え込んだ。テオの実年齢は十歳前後と若いが、十代後半の青年に見えないこともない。半魔族のテオは人間と魔族の架け橋となるだろう。

「テオならできる!」
「レイがそう言うなら、がんばってみようかな」

 テオが前向きな姿勢を見せた時、出入り口の扉がノックされた。

「こんにちは、デイルさん」
「おお、ギルバート殿か」

 新たな来客はギルだった。オッサンに挨拶をした後、当たり前のように俺とテオの隣に腰掛ける。そして、懐から封筒を取り出した。

「バルガード代表サフールさんからお手紙です。お見合いの件のお返事だそうで」
「見合いすんの? オッサン」
「オレじゃねえよ! 若い連中の話だ」

 封筒を受け取り、いそいそと開封しながらオッサンが説明を始めた。

 この数年は辺境に拠点を構えることを優先していたため、人間と魔族の婚姻については全く話が進んでいなかった。グレフ教の教義のせいで魔族に対する印象は悪い。更に、女を襲って子を産ませたという過去の罪もある。

 魔族に嫁ぎたいと考える人間の女はまず存在しない。……と思われていたのだが。

「サフールさんから聞いた話だと、西の集落に住んでいた女性たちは割と魔族に好印象を抱いているそうですよ。まあ、亡くなった元代表が最悪過ぎたせいなんですけど」

 西の集落の代表は自分本位な男だった。住民を見捨て、自分だけ助かろうとした。その結果、バアルに殺されたわけだが。アレに比べれば、まだ魔族の男のほうがマシだと思われたのかもしれない。

「今の魔族は魔物退治や力仕事を率先してやってますし、特に女性を大事にしてますよね。そういった姿勢はとても評判が良いんですよ」
「ふうん、そういうもんか」
「偉そうで無能な人間の男より、強くて頼れる魔族の男のほうが結婚相手としては望ましいと思います」

 特に魔族は種族の存続がかかっている。人間とは意気込みが違うのだ。

「俺とギルの用事はこれで終わりだな」
「ええ。では失礼しますね、デイルさん」
「じゃあね、お父さん」
「待て待て待て待て待て」

 伝えるべきことは伝えたので立ち去ろうとしたら、オッサンに止められた。

「どうしてテオまで出て行こうとするんだ!」
「え。だって、ギルとレイと一緒にいたいもん」

 一緒に過ごした時間は短くても、どんなに成長しても、テオは今でも俺たちの可愛い子どもなのだ。

 オッサンは泣きながら俺たちを見送った。

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