【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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92話・謎の答え合わせと倫理観ゼロの恋人

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「眠っている間、エマと話をしていました」

 約十日ぶりに目を覚ましたギルは、ぽつぽつと語り始めた。狂戦士バーサーカー状態から元に戻った後、病み上がりに暴れたせいで傷口が開いた。医者から再び絶対安静を言い渡され、素直に寝台で横になっていた。ちなみに、医務室はギルが半壊させたので元々使っていた客室に場所を移している。

 枕元に置かれた椅子に腰掛け、俺はギルの話に耳を傾けていた。

「大変な役目を押し付けてごめんなさい、って謝られました。レイにも謝っておいて欲しいと頼まれましたよ」
「俺にも?」
「ええ。巻き込んで申し訳なかった、と」

 最悪の未来を回避するため、エマリエはあらゆる手段を講じていた。周りを動かすために必要とあらば、自分の体すら利用して。

 そこで俺は、一年前の聖都襲撃の件について謝罪した。

「エマリエは俺の魔法で死んだ。経緯はともかく、ギルの大事な妹を死なせたのは俺だ。本当に悪かった」

 謝って済む問題じゃないが、これだけは言わずにいられなかった。ギルに隠し事なんかしたくない。後ろめたい気持ちのまま黙ってそばに居続けるなんてできなかった。嫌われ、憎まれても仕方ないと覚悟している。

 頭を下げる俺の肩に、ギルがそっと手を置いた。ねぎらうように優しく撫でられる。

「それもエマから聞きました。確実に殺してもらうため、わざとジーレン様に対する怒りを煽って魔法を使わせたのだと。あなたに嫌な役回りをさせてしまったと悔いていましたよ」

 あの時、エマリエの股下に垂れる白濁を見た瞬間に怒りが湧き、ジーレンを殺すと決めた。もしお務めをする前に会っていれば、俺はエマリエの手を引いて教会本部から逃げる道を選んでいた。俺の感情を計算した上で行動していたのか。

「他に道はなかったのかと聞いたんですが、あれが最短で最善だと言い切られてしまいました。エマが言うのならそうなんでしょうね」

 ギルは悲しげな表情で視線を伏せ、亡き妹との最後の会話を振り返っている。死の淵を漂っている間だけエマリエと話ができる。俺も少しだけ話したが、あれは不思議な体験だった。

「俺が妹を殺したってすぐわかっただろ? 思い出させる必要なんかないのに、どうして色んな場所に連れていって記憶を戻そうとしたんだ。罪を暴いて仕返しするつもりだったのか?」

 旅の途中、ギルは事あるごとに俺の記憶が戻ったか確認してきた。エマリエの死の真相を知るためだと今ならわかる。俺が一番可能性が高い容疑者だったからだ。でも、結局最近まで思い出せないままだった。

「現場を見て、あなたが放った魔法が致命傷となったとすぐにわかりました。でも、あなたが教会本部に向かったのは私が頼んだからです。エマを手にかける理由なんかないと私はよく知っています」
「じゃあ、なんで」

 更に問うと、ギルは顔を上げて俺を見た。

「普通に思い出して欲しかっただけです。グレフ神の血を引く末裔の生活に嫌気がさして逃げた先であなたに出会った。私を一人の人間として扱ってくれた。初めての大事な友だちなんです。……忘れられたままなんて耐えられなかった」

 対等に話せる相手は妹のエマリエかフィッツだけ。同じ役割を課せられた仲間で、負の感情を理解し合える存在で、友人ではない。ギルにとって、身内以外で対等な関係を築けた存在は俺が初めてだったらしい。

「でも、私はもう特別な存在ではなくなりました。回復も遅いし、グレフが倒された時に血の効果も一緒に消えたようです」

 言いながら、ギルは自分の腕に巻かれた包帯に触れた。今までならすぐに治る程度の傷がまだ残っている。血に宿る回復能力が失われた証拠だ。血を流し過ぎたからかもしれない。

「でもオマエ、さっき医務室の壁壊してたよな?」
「あれは別の方法で得た力ですので」

 以前、結界装置の研究の副産物とか言っていたような気がする。なにをどうしたら怪力を得られるのか知らないが。

「じゃあ、ルシオやバアルを治した白い光はなんだったんだ。魔法じゃないよな?」
「さあ。私にもわかりません。あの時はあなたが治したとしか考えられませんでしたが、おそらく『今』を迎えるために必要な人物が欠けないように起きた奇跡ではないかと」

 二回とも俺の目の前で起きたため、まるで俺に治癒能力が芽生えたかのように思われていた。だが、俺の意志で誰かを治したわけではない。実際、ギルが死にかけていた時は白い光は現れなかった。

 ルシオが死んでいたらフィッツたちの心は折れていた。バアルが死んでいたら最終決戦でグレフの魔力を抑えられなかった。二人が最後まで残っていなければ、ギルが嫉妬で命を繋ぐこともなかった。ギルが昏睡状態から目覚めた理由もルシオに対する嫉妬心からだ。

「あれ、エマリエの力だったのかな」
「エマはグレフを倒すために生まれた特異点のような存在だったのかもしれません。グレフの復活を阻止するために人知れず動いていたのでしょう」

 グレフが完全体にならないよう、エマリエは裏で動いていた。命を落としてからも俺たちを導いてくれていた。人間と魔族を救うために。十代半ばの少女ができることじゃない。思い上がったグレフは自身を神と称していたが、本物の神が見兼ねて力を貸してくれたのかもしれない。

「待てよ。俺が半魔族になったのもエマリエの仕業か?」

 一年前の聖都襲撃事件の時、俺は確かに魔族だった。だが、次に目覚めた時には体が半魔族になっていた。おかげで結界に弾かれることなく生活できたが、魔法の威力がかなり下がってしまった。記憶がないから特に不便を感じなかったが、今となっては疑問しかない。

「あっ、それは私のせいだと思います」
「は?」
「実はあなたの体内に結界装置を埋め込んでいるんですよ。ほら、脇腹にある傷のところに」
「はぁ?」

 とんでもない発言に、俺は思わず服をまくって脇腹を見た。数年前、ギルに出会う直前に負った傷だ。現在は完治しているが、痕は消えずに残っている。

「結界装置って魔物の骨で作ったやつ?」
「いえ。元々グレフ神の像の中に入っていたものです。小規模な集落用の像でしたので、内蔵されていた水晶玉も小さくて」
「はぁあ?」

 これくらい、と親指と人差し指で大きさを示すギル。まさか初めて出会った場所である集落が廃墟と化した原因はギルだったのか?

「結界装置の研究には見本が必要だったので、できるだけ影響が少ない場所を選んで中身を拝借していたんですよ。あっ、集落に住んでいた人たちにはちゃんと聖都近くの街に移り住んでもらいました。もちろん普通の結界装置を魔族に埋め込んだら危ないので、効果が反転するような細工を施して……」

 茫然とする俺を放置し、ギルは語り続ける。

「グレフが元々魔族だと判明して疑問が解けました。魔法を使えば水晶玉の内部に術式を刻むことも可能ですからね。もしグレフみたいな突然変異の個体が普通に子孫を残せていたら他種族をすべて滅ぼしかねません。血の毒性は桁違いの強さを得た代償なのでしょう」

 色々と吹っ切れたのか、グレフの話をしていてもギルの表情は暗くならない。代わりに俺の顔色が失せていく。

「あのさ、つまり、俺の体を使って実験してたってこと……? 下手したら死んでたかもしんないのに……?」

 放っておいたら死ぬほどの重傷だったとか、殺されても仕方ないくらいの罪を犯したとかは置いといて、意識のない俺を勝手に実験台にしたのは有りなのか?

 ダラダラと脂汗をかく俺とは真逆の、眩しいくらいの笑顔をギルは見せた。

「実験じゃなくて本番ですよ。共に生きていくためには体質の改善は避けられませんから。私が魔族になれたら良かったんですが、あいにく怪力しか手に入らなくて。でも、あなたを半魔族にすることはできました!」

 あまりにも誇らしげな態度に怒る気が失せてゆく。

「あなたが魔族のままだと聖都で療養なんてできません。それに、襲撃犯だと思われて処刑されてしまいます。疑惑の目から逸らすためには半魔族にする以外なかったんですよ」

 確かに、魔族のままだったら多重結界の影響をモロに受けて療養するどころではなかっただろう。半魔族は魔法が使えないという共通認識のおかげで誰も俺を疑わなかったというわけだ。被害者の身内がすべて承知した上で襲撃犯をかくまっていたなんておかしな話だ。

 しかし、「失敗したら後を追うつもりでした」という発言は聞き逃せなかった。

「後追いなんかしてみろ。絶対許さねえからな」

 胸ぐらを掴み、超至近距離から睨みつけたのだが、ギルは怯えるどころか満面の笑みを浮かべている。そして、俺の手に自分の手をそっと重ねた。

「ふふ、レイは本当に優しいですね」
「オマエはマジでおかしいよ」

 換気のために開けた窓からは半壊した医務室を修繕する音が聞こえてくる。空はあんなに青いのに、俺の心は晴れない。恋人がとんでもないヤツだったと判明してしまったからだ。ギルの性格を把握した上で行動していたとするならば、エマリエも相当とんでもないヤツである。

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