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アタオカ令嬢の父親が殴り込みに来ました
しおりを挟むそれから数日は何事もなく過ぎていった。いつものようにローガン様に付き従い、細々とした業務をこなしていく。
ただ、あの夜のような触れ合いはない。ローガン様からやんわりと拒絶されてしまえば私は素直に引き下がるしかなかった。ローガン様の私室に入ることもなくなり、仕事が終われば長居せずに屋敷へ帰る。そんな日々が続いた。
酒に酔った末の愚行を後悔しているのかもしれない。
このまま「なかったこと」にしたいのかもしれない。
ディアナ嬢との最悪の再会で弱り切ったローガン様に付け込み、自分の欲を満たすためだけに抱いてしまった。護衛兼側近としての立場を悪用し、断れない状況を利用してしまった。
反省はしているが、同じような場面になればまた手を出すだろう。それほどまでに私はローガン様との触れ合いを求めているらしい。
鬱々とした日々を過ごしている時に事件は起きた。
大臣を始めとした重臣たちが一堂に会し、国王陛下の前で国の行く末を話し合う御前会議。国王、宰相、内務大臣、軍務大臣、財務大臣、外務大臣、王太子、その他役人が会議室に集められた。私は側近としてローガン様の座る席の後ろに立って控えている。本来ならば単なる側近は参加できないが、父である内務大臣の後継者として場に慣れさせるために特別に参加を許可されたのだろう。
その御前会議での議題はまず郊外の治水工事における男爵の予算横領事件の報告から始まった。
関係者の証言と証拠を集めて追及した結果、男爵は爵位剥奪の上にすべての財産が没収された。過去に男爵に買収され、罪を知りながら見逃していた役人や貴族も全員捕まった。作業員たちの待遇はかなり改善され、工事は滞りなく進むようになったという。
続けて、国境の砦の老朽化による建て替え工事の是否を問う。実際に視察に行ったローガン様が発言し、現場の兵士の意見も交えて建て替えに一票入れた。軍務大臣であるイリスティーン卿は渋ったが、先ほどの男爵から没収した財産で予算は潤沢だと財務大臣に言われて悩んでいる。
話題が次の議題へと移る時だった。厳粛な御前会議の場に相応しくない人物が乱入してきたのである。
「お久しゅうございます陛下」
「アヴェリシア侯爵、なぜここに……」
高位貴族とはいえ役職のない者、招かれていない者は参加が許されていない。前内務大臣ならば知っているはずなのになぜ、と全員が首を傾げている。
出入り口を固めていた警備兵たちも、まさか侯爵を追い返すなどできるはずもない。無理やり押し通られてしまったのだろう。
「わたしがこの場に参りました理由はただ一つ、王太子殿下に大事なお話があるからでございます」
恭しく頭を下げてはいるが、慇懃無礼な口の利き方に宰相や大臣たちが眉をひそめた。名指しされたローガン様は先日の嫌な記憶が蘇ったのか、体をこわばらせている。
「実はうちの一人娘ディアナが怪我をしましてね。可哀想に、嫁入り前だというのに手足に傷痕が残りそうなのです」
「はあ、気の毒だとは思いますが」
「それが殿下となんの関係が?」
財務大臣が侯爵に問うと、アヴェリシア侯爵は大袈裟に身振り手振りを加えて言い放った。
「先日、王太子殿下が国境の砦に視察に行った帰りの話です。我が領内にある町に立ち寄り、娘のディアナと運命的な再会を果たしました。しかし、なにがあったのか、娘は怪我を負った状態で泣きながら帰ってきたのです!」
それはディアナ嬢が自分の不注意で勝手に負った怪我だ。その場にローガン様はおらず、私が対応している。もちろん全て父には報告済み、他の大臣たちにも情報を共有済みのため「なに言ってんだコイツ」といった空気が流れているが、アヴェリシア侯爵は気付いていない。更にヒートアップして芝居掛かったセリフを吐いている。
「さあぁ、娘を傷モノにした責任を取っていただきましょうか、王太子殿下……♡」
やはり。アヴェリシア侯爵の狙いは最初から『娘を未来の王妃にする』こと。大臣職を追われてもまだ諦めていなかったのだ。
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