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第一章
~序~
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「アトゥール=エスリーン公爵令嬢! 貴様の変人っぷりには愛想が尽きた! お前と私の婚約は破棄する!」
学院の夜会。そんな場で、ザクル=ピピンの声が会場に響き渡った。
「当たり前だ! こんなヒキコモリ令嬢をピピン家に迎え入れられるとか思ってるのか!」
アトゥール=エスリーンは三女であった。長男、長女、次女に比べて学力も魔力も圧倒的に劣る。こういった貴族の子は家庭教師ではなくキーウ魔導学院へ放り込まれるのだ。うまく魔法を習得できるものは小貴族として生き延びることが出来る。逆に平民も入学でき、平民は卒業すると一代限りの貴族になれるのだ。
エスリーンは食堂では汚物を入れられて、模擬戦では魔法の餌食となっていた。エスリーンは弓使いだが全く持って戦力にならなかった。初歩的な魔法すら碌に使えなかった。
そんなエスリーンをなぜピピン家に迎え入れるのか。そうだ。政略結婚だ。しかしアトゥール家も没落していたので用済みだったのだろう。ザクル=ピピンも生き残るのに必死だ。相手を選ぶのには慎重にならねばならぬ。
エスリーンはいつも寮や図書館に引きこもっていた。閉架図書エリアだけがエスリーンの居場所だった。厳密には閉架図書のさらに1階下層になる謎エリアだが。何も物が置かれていないのである。部屋だけある謎の空室の階。そこが彼女の居場所だ。
そもそもエスリーンは睡眠薬を飲まされ袋に詰められてザーク魔法学院に放り込まれたのである。しかもこの魔法学校で落ちこぼれたら貴族籍剥奪、つまり自動的に追放処分になるのだ。
「私は……要らない子なのね」
爆笑の渦から逃れるべくエスリーンは夜会を抜ける。
エスリーンはいつもの閉架図書にたどり着いた。
(よかった、ここならだれも傷つける人は居ない)
そしてこっそり閉架図書で見つけた本があった。
古代魔導書。『カドラの小さな鍵』と書いてある。
『カドラの小さな鍵』八七ページによると「上下に銅線を撒いて水蒸気とプロペラの力で磁石を回しとなんと魔法が扱えなくても雷魔法を発動できる」という。本当かな?
こっそり拝借して来た銅線と磁石と黒鉛。黒鉛に至っては消し炭を貯めたものだ。本のページが敗れ得ている個所も多いので残りは想像で作ったのだ。
ガラスの中に黒鉛を入れた。鉄と鉄の間に黒鉛を挟んだのだ。鉄に銅線を付ける。そして魔導書の指示の通り小さなプロペラを回してみた。プロペラは軸を回す。この軸が磁石を回す。すると……。
「すごい……」
まさにそれは魔法の奥義であった。ランタンと同じように光るのだ。
「君は凄いね」
闇から声が発した。
「誰!?」
エスリーンは闇に向かって問う。
「いつも僕の居眠りを妨げて魔法研究に明け暮れていたんだからね。ようやく研究成果が出たね」
それはまるで悪魔のような声だった。
「僕は君、君は僕さ」
現れたのはいつも図書館の机で寝てるエリック……に見えない。
「で、で、で、で、出た~~~!」
悪魔祓いの呪文を唱えるエスリーン。
「落ち着け」
手を大きく前へ出すエリック。
「幽霊じゃない。悪魔でもない」
本当にエリックだった。黒のフードかぶってるから本人に見えなかったわ。
「そうだよ。君は凄いことをやったんだ」
発明品に指を出すエリック。
「僕も貴族らしくないとか変わり者とか言われてこの学校に放逐された身なんだ」
(へえ)
「君は、本当は天才だよ」
冗談や冷笑の類での発言ではなさそうだ。
「そんななことないい……です」
声が震えていた。
「一回、君は身元を隠してみたら?」
懐から取り出したのは面頬だった。仮面の一種だ。
「こんな風にね。ここって実は闇教室の場だから身バレは危険なんだ」
エリックが面頬を付けるとなんと声まで変わった。その声はもはや悪魔の誘惑、いや……悪魔そのものの声だった。
床に置いたランタンの火が激しく燃える。
「ここに有志も居る」
現れたのは面頬を付け黒フードをかぶった者が二人!! いつのまに!
面頬を取ると剣士ザック、辺境伯の娘マリアンヌだった。
「見たんだぜ?」
ザックが嬉しそうに言う。
「貴方凄いですわ」
マリアンヌが光るガラスを見てうなずく。
「俺たち落ちこぼれ貴族の逆襲と行こうや」
「えっ」
ザックから渡されたのは面頬。
「性格も変わるぜ?」
エスリーンは恐る恐る面頬を付けて見た。
「本当だな?」
声が変わった。
「ああ、十分変わってるよ。それとこの闇のフードを着てごらん」
エスリーンはマリアンヌから渡された新品の闇のフードを着こんでみた。たしかに今までの自分じゃないみたい。
「やるだけやってみるぞ」
かっこつけたツケなのか……言った後に思わず滑ってしまったエスリーン。壁に頭をぶつけてしまった。
「おい、大丈夫か!」
エリックがあわてて駆け寄る。
その時エスリーンに記憶がよみがえった。
(あれ、私……。ちょっと前までゲームしてたんだよね。そして寝落ちして。……ってことはここはゲームの世界!? ここって『マジックラブ』の世界じゃん! ということは……自分はこのまま落ちこぼれ令嬢として国外追放。戦乱に巻き込まれて死ぬという「ナレ死」の運命のキャラに転生したことになる。……って事は前世も今も最悪って事じゃん!! そんな人生嫌!!)
「なってたまるか!」
「おい、どうした急に!」
学院の夜会。そんな場で、ザクル=ピピンの声が会場に響き渡った。
「当たり前だ! こんなヒキコモリ令嬢をピピン家に迎え入れられるとか思ってるのか!」
アトゥール=エスリーンは三女であった。長男、長女、次女に比べて学力も魔力も圧倒的に劣る。こういった貴族の子は家庭教師ではなくキーウ魔導学院へ放り込まれるのだ。うまく魔法を習得できるものは小貴族として生き延びることが出来る。逆に平民も入学でき、平民は卒業すると一代限りの貴族になれるのだ。
エスリーンは食堂では汚物を入れられて、模擬戦では魔法の餌食となっていた。エスリーンは弓使いだが全く持って戦力にならなかった。初歩的な魔法すら碌に使えなかった。
そんなエスリーンをなぜピピン家に迎え入れるのか。そうだ。政略結婚だ。しかしアトゥール家も没落していたので用済みだったのだろう。ザクル=ピピンも生き残るのに必死だ。相手を選ぶのには慎重にならねばならぬ。
エスリーンはいつも寮や図書館に引きこもっていた。閉架図書エリアだけがエスリーンの居場所だった。厳密には閉架図書のさらに1階下層になる謎エリアだが。何も物が置かれていないのである。部屋だけある謎の空室の階。そこが彼女の居場所だ。
そもそもエスリーンは睡眠薬を飲まされ袋に詰められてザーク魔法学院に放り込まれたのである。しかもこの魔法学校で落ちこぼれたら貴族籍剥奪、つまり自動的に追放処分になるのだ。
「私は……要らない子なのね」
爆笑の渦から逃れるべくエスリーンは夜会を抜ける。
エスリーンはいつもの閉架図書にたどり着いた。
(よかった、ここならだれも傷つける人は居ない)
そしてこっそり閉架図書で見つけた本があった。
古代魔導書。『カドラの小さな鍵』と書いてある。
『カドラの小さな鍵』八七ページによると「上下に銅線を撒いて水蒸気とプロペラの力で磁石を回しとなんと魔法が扱えなくても雷魔法を発動できる」という。本当かな?
こっそり拝借して来た銅線と磁石と黒鉛。黒鉛に至っては消し炭を貯めたものだ。本のページが敗れ得ている個所も多いので残りは想像で作ったのだ。
ガラスの中に黒鉛を入れた。鉄と鉄の間に黒鉛を挟んだのだ。鉄に銅線を付ける。そして魔導書の指示の通り小さなプロペラを回してみた。プロペラは軸を回す。この軸が磁石を回す。すると……。
「すごい……」
まさにそれは魔法の奥義であった。ランタンと同じように光るのだ。
「君は凄いね」
闇から声が発した。
「誰!?」
エスリーンは闇に向かって問う。
「いつも僕の居眠りを妨げて魔法研究に明け暮れていたんだからね。ようやく研究成果が出たね」
それはまるで悪魔のような声だった。
「僕は君、君は僕さ」
現れたのはいつも図書館の机で寝てるエリック……に見えない。
「で、で、で、で、出た~~~!」
悪魔祓いの呪文を唱えるエスリーン。
「落ち着け」
手を大きく前へ出すエリック。
「幽霊じゃない。悪魔でもない」
本当にエリックだった。黒のフードかぶってるから本人に見えなかったわ。
「そうだよ。君は凄いことをやったんだ」
発明品に指を出すエリック。
「僕も貴族らしくないとか変わり者とか言われてこの学校に放逐された身なんだ」
(へえ)
「君は、本当は天才だよ」
冗談や冷笑の類での発言ではなさそうだ。
「そんななことないい……です」
声が震えていた。
「一回、君は身元を隠してみたら?」
懐から取り出したのは面頬だった。仮面の一種だ。
「こんな風にね。ここって実は闇教室の場だから身バレは危険なんだ」
エリックが面頬を付けるとなんと声まで変わった。その声はもはや悪魔の誘惑、いや……悪魔そのものの声だった。
床に置いたランタンの火が激しく燃える。
「ここに有志も居る」
現れたのは面頬を付け黒フードをかぶった者が二人!! いつのまに!
面頬を取ると剣士ザック、辺境伯の娘マリアンヌだった。
「見たんだぜ?」
ザックが嬉しそうに言う。
「貴方凄いですわ」
マリアンヌが光るガラスを見てうなずく。
「俺たち落ちこぼれ貴族の逆襲と行こうや」
「えっ」
ザックから渡されたのは面頬。
「性格も変わるぜ?」
エスリーンは恐る恐る面頬を付けて見た。
「本当だな?」
声が変わった。
「ああ、十分変わってるよ。それとこの闇のフードを着てごらん」
エスリーンはマリアンヌから渡された新品の闇のフードを着こんでみた。たしかに今までの自分じゃないみたい。
「やるだけやってみるぞ」
かっこつけたツケなのか……言った後に思わず滑ってしまったエスリーン。壁に頭をぶつけてしまった。
「おい、大丈夫か!」
エリックがあわてて駆け寄る。
その時エスリーンに記憶がよみがえった。
(あれ、私……。ちょっと前までゲームしてたんだよね。そして寝落ちして。……ってことはここはゲームの世界!? ここって『マジックラブ』の世界じゃん! ということは……自分はこのまま落ちこぼれ令嬢として国外追放。戦乱に巻き込まれて死ぬという「ナレ死」の運命のキャラに転生したことになる。……って事は前世も今も最悪って事じゃん!! そんな人生嫌!!)
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「おい、どうした急に!」
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