1 / 2
石合戦
しおりを挟む
「なあ、お前んち、東京に出てしまうんだべ?」
渡辺悠一が寂しそうに声をかける。
「そうさ。炭鉱が閉山だ」
加藤健三も寂しそうだ。
ここは今の福島県いわき市。当時はまだ平市《たいらし》と言われていた時代の頃だ。
「じゃ、今年でこの石合戦も終わりだっぺ?」
この辺の子供は小正月に石合戦が行われる。石合戦では鳥小屋と呼ばれる海の家で使われる小屋もこの時に活躍する。「石がぶつかってもケガしない」なんて言うがあれは嘘だ。本当は怪我をする。だから大人がわざわざ小石を拾ってくるのだ。それでも目に石が入ったらたまんない。どうもこの風習も炭鉱と共に消えそうだ。なおこの石に当たった者は今年の運勢が吉になる。何が吉なものか。
――東京もんの犠牲になった挙句に要らなくなったらポイ捨てかよ
いくら東北地方にしては珍しく雪がほとんど降らない地方とはいえ、この時期は寒い。いや寒いのは気温のせいだけではなかった。別名「公害炭」とも呼ばれた常磐の石炭は質も悪く結局お湯を出すために掘ってるのか石炭を出すために掘ってるのかもはや分からない状況であった。ストライキも頻発していた。そんな石炭から出る炎が二人を温める。パチパチと音がする。
「大丈夫だよ。今度出来る『いわき市』は新産業都市指定になるんだべ?大きな企業が進出してきてるから大丈夫さ」
そう、誰もが知る食品ラップ用のメーカーやいわき発祥の厨房機器メーカーなどがこの地で頑張ることとなる。それでも炭鉱で失った職の受け皿として機能するかどうか。
「黒ダイヤなんて笑っちゃう」
渡辺は嗤っていた。
「……でもこの黒ダイヤが発する熱でお偉いさんはハワイを作るなんて抜かしてる。かあちゃん、今ここにハワイを作ろうとしてる」
東京や茨城県に行かなかった炭住の母たちは夫の稼ぎが減少た分……必死に働いていた。新しいプロジェクトに参加しているのだ。中にはダンサーになろうとして父から鉄拳制裁を食らった炭住の母も居た。裸踊りで生活するなんてはしたないと。ここを復活するために必死な大人も居るのだ。
「何がハワイだ~!」
石を遠くに投げる渡辺。海に投げたつもりだが届かない。
「「お前らもう鳥小屋作ったっぺ?」」
みんな集まって来た。
「じゃあ、やろうか。みんなバラバラになるけどな」
こうして石合戦が始まった。
女の子は石合戦には参加せず鳥追いの歌を歌う。参拝にくる人々に神酒《おみき》を配るのも女の子の仕事だ。各家に訪問し踊りながらお小遣いをもらう。このお小遣いは参加者全員に平等に分ける。生活苦の炭鉱労働者からお金を頂戴とというのは心苦しかった。
親が拾ってきた石以外のものを投げてはいけない。目に石を当ててはいけない。この二点を守るのは至難であった。どうもこの行事は消えそうだ。
石合戦が終わって子供たちが去っていく。お小遣いももらった。
「加藤!!」
渡辺は泣いていた。
「元気でな―!!」
その声に「お前もだぞー!」の声が帰って来た。
渡辺には鳥小屋を元の海の家に戻す作業が待っていた。
――痛い
渡辺は炉の灰を付けた。何が「傷が治る」だ。結局……赤チンを付けることになるのに。
この数年後……石合戦の伝統は途絶えてしまった。
子どもたちは大人になっていく。
この変わった伝承を封印して。
その後いわきの地は奇跡的に復興していく。
石合戦を封印して。いろんな意味でこの地は石と戦ってきた。ある時は文明開化のために。ある時は戦争遂行のために。敗戦後の復興のために。みんな石合戦に敗北していった。
いいや違う。石じゃない方法で戦うんだ、これからは。
渡辺悠一が寂しそうに声をかける。
「そうさ。炭鉱が閉山だ」
加藤健三も寂しそうだ。
ここは今の福島県いわき市。当時はまだ平市《たいらし》と言われていた時代の頃だ。
「じゃ、今年でこの石合戦も終わりだっぺ?」
この辺の子供は小正月に石合戦が行われる。石合戦では鳥小屋と呼ばれる海の家で使われる小屋もこの時に活躍する。「石がぶつかってもケガしない」なんて言うがあれは嘘だ。本当は怪我をする。だから大人がわざわざ小石を拾ってくるのだ。それでも目に石が入ったらたまんない。どうもこの風習も炭鉱と共に消えそうだ。なおこの石に当たった者は今年の運勢が吉になる。何が吉なものか。
――東京もんの犠牲になった挙句に要らなくなったらポイ捨てかよ
いくら東北地方にしては珍しく雪がほとんど降らない地方とはいえ、この時期は寒い。いや寒いのは気温のせいだけではなかった。別名「公害炭」とも呼ばれた常磐の石炭は質も悪く結局お湯を出すために掘ってるのか石炭を出すために掘ってるのかもはや分からない状況であった。ストライキも頻発していた。そんな石炭から出る炎が二人を温める。パチパチと音がする。
「大丈夫だよ。今度出来る『いわき市』は新産業都市指定になるんだべ?大きな企業が進出してきてるから大丈夫さ」
そう、誰もが知る食品ラップ用のメーカーやいわき発祥の厨房機器メーカーなどがこの地で頑張ることとなる。それでも炭鉱で失った職の受け皿として機能するかどうか。
「黒ダイヤなんて笑っちゃう」
渡辺は嗤っていた。
「……でもこの黒ダイヤが発する熱でお偉いさんはハワイを作るなんて抜かしてる。かあちゃん、今ここにハワイを作ろうとしてる」
東京や茨城県に行かなかった炭住の母たちは夫の稼ぎが減少た分……必死に働いていた。新しいプロジェクトに参加しているのだ。中にはダンサーになろうとして父から鉄拳制裁を食らった炭住の母も居た。裸踊りで生活するなんてはしたないと。ここを復活するために必死な大人も居るのだ。
「何がハワイだ~!」
石を遠くに投げる渡辺。海に投げたつもりだが届かない。
「「お前らもう鳥小屋作ったっぺ?」」
みんな集まって来た。
「じゃあ、やろうか。みんなバラバラになるけどな」
こうして石合戦が始まった。
女の子は石合戦には参加せず鳥追いの歌を歌う。参拝にくる人々に神酒《おみき》を配るのも女の子の仕事だ。各家に訪問し踊りながらお小遣いをもらう。このお小遣いは参加者全員に平等に分ける。生活苦の炭鉱労働者からお金を頂戴とというのは心苦しかった。
親が拾ってきた石以外のものを投げてはいけない。目に石を当ててはいけない。この二点を守るのは至難であった。どうもこの行事は消えそうだ。
石合戦が終わって子供たちが去っていく。お小遣いももらった。
「加藤!!」
渡辺は泣いていた。
「元気でな―!!」
その声に「お前もだぞー!」の声が帰って来た。
渡辺には鳥小屋を元の海の家に戻す作業が待っていた。
――痛い
渡辺は炉の灰を付けた。何が「傷が治る」だ。結局……赤チンを付けることになるのに。
この数年後……石合戦の伝統は途絶えてしまった。
子どもたちは大人になっていく。
この変わった伝承を封印して。
その後いわきの地は奇跡的に復興していく。
石合戦を封印して。いろんな意味でこの地は石と戦ってきた。ある時は文明開化のために。ある時は戦争遂行のために。敗戦後の復興のために。みんな石合戦に敗北していった。
いいや違う。石じゃない方法で戦うんだ、これからは。
0
あなたにおすすめの小説
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
野良犬ぽちの冒険
KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる?
ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。
だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、
気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。
やさしい人もいれば、こわい人もいる。
あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。
それでも、ぽちは 思っている。
──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。
すこし さみしくて、すこし あたたかい、
のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
まぼろしのミッドナイトスクール
木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる