57 / 86
第57話 いいにおいにつられて
しおりを挟む
「うーん、どっこにいこうっかなぁぁ」
なんとなく足も軽くなるし、うっかりスキップとかしちゃいそうになる。
「今日のご気分は、チョコレートですか? それともケーキ?」
「うっふふふ……まぁだ、ひみつっ!」
侍女さんに、しーっとしてみせると、となりで騎士さんがちょっと笑ってるのが見えた。
ここにきてはや……えっと何ヶ月だっけ? とにかく、ぼくは侍女さんと騎士さんが一緒なら、王宮内を自由に歩き回れる身分になった。出世!
いつもは毎日毎日、図書館とお庭の往復してないのを知ったファランさまが、「それはちょっと」となって、どこかの許可を取ってくれたのだ。超やさしい。シゴデキ。
12才なのに将来楽しみな気のまわりようと仕事の出来っぷり。おかげでぼくは毎日、好きなとこにお出かけできる。
ファランさまは、ほんとはもっとあちこち案内して上がられたらいいのだが、といってくれたけど。そんな恐れ多いのはダメダメ。ファランさま、お勉強とか陛下のお手伝いとか、いろいろ忙しいしね、ぼくに付き合ってる時間はそんなにぃ、ない。しょうがない。ぼくは、わきまえる子どもだから大丈夫。
「昨日はぁ、キャンディの工房にいったからぁ、うーん、今日はぁ」
毎日、お散歩の途中で、どこかのお菓子の工房を見に行くのがお決まりだ。お菓子は食べるのも好きだし、作ってるのを見るのも好き。工房はいいにおいするし。
「どおぉしよっかなぁぁ!」
侍女さんと騎士さんだけでも、楽しいから平気。
「んん? んんんん? なんか、いいーにおいがするっ!?」
あんまりかいだことのない、いい匂い。
ウキウキの足がぴた、と立ち止まって、こそそっと侍女さんと騎士さんをチラ。
ふふふ、どうぞ。と笑うのをみて、わーーーっと駆け出したいのをおさえて、早歩き。
すたたた、と工房の入口にたどり着いて、そーっと中を見る。職人さんたちが忙しそうだったら、ここで見るだけ。
でも、今日は――
「あれれ? 誰もいないぃ?」
休憩時間なのか、作業時間外なのか、がらーんだ。
「ざんねん」
誰もいないときも、入っちゃダメだ。なにかあったら困るからね。
「あれれ? でも、誰もいないときはカギがかかってるはず? あれれ? かけ忘れ?」
だったら大変! 誰かにお知らせしないと!
「はぁぁ……どうしよう……」
「わっ……!?」
びっくりしたぁぁ! なぁにぃ? 誰かいるのぉぉ?
「…………?」
ちょーっとだけ中に入って、キョロキョロ。
「あ!」
すみーっこのほうに、誰かいるぅぅ!?
「あああ、失敗だぁ! こんなに材料ムダにして……」
奥の作業台に、料理人さんがひとり、しょんぼりしてる。
「ねええ、どーしたのおぉぉ? だいじょーぶぅ?」
「わぁっ!!」
「えっ」
そろーっと近づいて、ねぇねぇ、したら、ビクーされて、こっちもびっくりぃ!
「あ、あ……ああ」
「……あ?」
「あ、あの、すみません。サファさま!」
「あ、いえいえ!」
ぺこーとされたから、こっちも慌ててぺこーだ。
「ね、どうかしたのぉ? だいじょうぶぅ?」
「あ、はい。あの……実は――」
見習いのエプロンの料理人さんが、作業台の上を見ながら、しょんぼり。
「クッキーを焼いてたんですが、焦がしてしまって……」
「あわわ、コゲコゲだね」
お皿の上には、こげこげ茶色のクッキーがこんもり。
「しょうがないよねぇ。おかし、むずかしいもんねぇ」
「はい……」
「だいじょうぶ? 料理長さんに怒られる?」
「いえ……あの、たぶん、ちょっとだけ」
「あれぇ……そっかぁ。じゃあ、ぼくも、一緒にごめんなさい、しようか?」
「えっ! サファさまが!? ど、どうしてそんな……」
なぁにぃ。なんでそんなギョッとした顔するのぉ?
「うーん、ふたりのほうが、怒られるのはんぶんこならないかなって」
「えっ!」
「え、もしかして、ふたりだと、怒られるの2倍になる!?」
それならダメだね? え、どうしよう。
「そそそ、そんな、サファさまに謝っていただくなんてっ!」
「だ、ダメかな?」
「サファさまはなにも悪くないんですから」
はっ! これはもしかして、冤罪をしんぱいしてくれてるやつ?
でもだいじょうぶよぉ。さすがに、お菓子のコゲコゲで処刑は……多分ないからね。
……ないよね?
「じゃあじゃあ! これ、ぼくがほしいっていって、ぜんぶもらったら、怒られないかな?」
今日と明日のお菓子をコゲコゲクッキーにすれば……いや、ちょっと多いかな。
「いえそんな! こんな焦げたクッキーを食べていただくわけにはっ!」
「うーん、食べられないかな? ちょっと見てみていい?」
「え? は、はい……ですが」
「だってぇ、これ、工房の外までいいにおいしたんだよぉ? だからぼく、きちゃったんだもん」
「ええっ? そ、そうなんですか?」
顔を近づけて、くんくん。見習い料理人さんも一緒に、ふたりでくんくん。
「あ、あれ?」
なんとなく足も軽くなるし、うっかりスキップとかしちゃいそうになる。
「今日のご気分は、チョコレートですか? それともケーキ?」
「うっふふふ……まぁだ、ひみつっ!」
侍女さんに、しーっとしてみせると、となりで騎士さんがちょっと笑ってるのが見えた。
ここにきてはや……えっと何ヶ月だっけ? とにかく、ぼくは侍女さんと騎士さんが一緒なら、王宮内を自由に歩き回れる身分になった。出世!
いつもは毎日毎日、図書館とお庭の往復してないのを知ったファランさまが、「それはちょっと」となって、どこかの許可を取ってくれたのだ。超やさしい。シゴデキ。
12才なのに将来楽しみな気のまわりようと仕事の出来っぷり。おかげでぼくは毎日、好きなとこにお出かけできる。
ファランさまは、ほんとはもっとあちこち案内して上がられたらいいのだが、といってくれたけど。そんな恐れ多いのはダメダメ。ファランさま、お勉強とか陛下のお手伝いとか、いろいろ忙しいしね、ぼくに付き合ってる時間はそんなにぃ、ない。しょうがない。ぼくは、わきまえる子どもだから大丈夫。
「昨日はぁ、キャンディの工房にいったからぁ、うーん、今日はぁ」
毎日、お散歩の途中で、どこかのお菓子の工房を見に行くのがお決まりだ。お菓子は食べるのも好きだし、作ってるのを見るのも好き。工房はいいにおいするし。
「どおぉしよっかなぁぁ!」
侍女さんと騎士さんだけでも、楽しいから平気。
「んん? んんんん? なんか、いいーにおいがするっ!?」
あんまりかいだことのない、いい匂い。
ウキウキの足がぴた、と立ち止まって、こそそっと侍女さんと騎士さんをチラ。
ふふふ、どうぞ。と笑うのをみて、わーーーっと駆け出したいのをおさえて、早歩き。
すたたた、と工房の入口にたどり着いて、そーっと中を見る。職人さんたちが忙しそうだったら、ここで見るだけ。
でも、今日は――
「あれれ? 誰もいないぃ?」
休憩時間なのか、作業時間外なのか、がらーんだ。
「ざんねん」
誰もいないときも、入っちゃダメだ。なにかあったら困るからね。
「あれれ? でも、誰もいないときはカギがかかってるはず? あれれ? かけ忘れ?」
だったら大変! 誰かにお知らせしないと!
「はぁぁ……どうしよう……」
「わっ……!?」
びっくりしたぁぁ! なぁにぃ? 誰かいるのぉぉ?
「…………?」
ちょーっとだけ中に入って、キョロキョロ。
「あ!」
すみーっこのほうに、誰かいるぅぅ!?
「あああ、失敗だぁ! こんなに材料ムダにして……」
奥の作業台に、料理人さんがひとり、しょんぼりしてる。
「ねええ、どーしたのおぉぉ? だいじょーぶぅ?」
「わぁっ!!」
「えっ」
そろーっと近づいて、ねぇねぇ、したら、ビクーされて、こっちもびっくりぃ!
「あ、あ……ああ」
「……あ?」
「あ、あの、すみません。サファさま!」
「あ、いえいえ!」
ぺこーとされたから、こっちも慌ててぺこーだ。
「ね、どうかしたのぉ? だいじょうぶぅ?」
「あ、はい。あの……実は――」
見習いのエプロンの料理人さんが、作業台の上を見ながら、しょんぼり。
「クッキーを焼いてたんですが、焦がしてしまって……」
「あわわ、コゲコゲだね」
お皿の上には、こげこげ茶色のクッキーがこんもり。
「しょうがないよねぇ。おかし、むずかしいもんねぇ」
「はい……」
「だいじょうぶ? 料理長さんに怒られる?」
「いえ……あの、たぶん、ちょっとだけ」
「あれぇ……そっかぁ。じゃあ、ぼくも、一緒にごめんなさい、しようか?」
「えっ! サファさまが!? ど、どうしてそんな……」
なぁにぃ。なんでそんなギョッとした顔するのぉ?
「うーん、ふたりのほうが、怒られるのはんぶんこならないかなって」
「えっ!」
「え、もしかして、ふたりだと、怒られるの2倍になる!?」
それならダメだね? え、どうしよう。
「そそそ、そんな、サファさまに謝っていただくなんてっ!」
「だ、ダメかな?」
「サファさまはなにも悪くないんですから」
はっ! これはもしかして、冤罪をしんぱいしてくれてるやつ?
でもだいじょうぶよぉ。さすがに、お菓子のコゲコゲで処刑は……多分ないからね。
……ないよね?
「じゃあじゃあ! これ、ぼくがほしいっていって、ぜんぶもらったら、怒られないかな?」
今日と明日のお菓子をコゲコゲクッキーにすれば……いや、ちょっと多いかな。
「いえそんな! こんな焦げたクッキーを食べていただくわけにはっ!」
「うーん、食べられないかな? ちょっと見てみていい?」
「え? は、はい……ですが」
「だってぇ、これ、工房の外までいいにおいしたんだよぉ? だからぼく、きちゃったんだもん」
「ええっ? そ、そうなんですか?」
顔を近づけて、くんくん。見習い料理人さんも一緒に、ふたりでくんくん。
「あ、あれ?」
206
あなたにおすすめの小説
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
スキルなし、聖女でもない。ただの「聞き上手」な私が異世界で幸せを探して旅に出ます~気づけば氷雪の騎士様に溺愛されています~
咲月ねむと
恋愛
ブラック企業で心身ともに疲弊していた元OL・神童エマ(26)は、ある日突然、異世界の草原で目覚めた。
神様からのチート能力もなければ、聖女のような魔法の才能もない。
あるのは「人の話をじっくり聞く忍耐力」と「美味しいものを美味しく食べる才能」、そして「ちょっとした気遣い」だけ。
「私の武器は、ハンカチと笑顔と、一杯の温かい紅茶です」
途方に暮れる彼女が出会ったのは、寂れたパン屋の頑固なお婆さんと、国一番の強さを誇るが故に人々から恐れられる『氷の騎士』ジークフリート。
特別な力はないけれど、現代日本の感性で人々の悩みを聞き、心を解きほぐしていくエマ。そんな彼女に救われた不器用な騎士様は、あろうことか地位も名誉も投げ打って、彼女の旅の「荷物持ち」になることを宣言し――!?
「エマ、お前が笑うと、俺の呪いが溶けていく気がするんだ」
「あの……距離が近くないですか、騎士様?」
無自覚な聞き上手ヒロイン×強面だけど超一途な溺愛騎士。美味しいパンと、温かいスープ、そして時々トラブル。
幸せを探して旅する二人の心温まる異世界スローライフ。
これはスキルがない一般人が贈る、涙と笑顔と溺愛の旅。
ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる
mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。
どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。
金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。
ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。
気弱令嬢の悪役令嬢化計画
みおな
ファンタジー
事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?
しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?
いやいやいや。
そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!
せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。
屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?
新緑の光と約束~精霊の愛し子と守護者~
依羽
ファンタジー
「……うちに来るかい?」
森で拾われた赤ん坊は、ルカと名付けられ、家族に愛されて育った。
だが8歳のある日、重傷の兄を救うため、ルカから緑の光が――
「ルカは精霊の愛し子。お前は守護者だ」
それは、偶然の出会い、のはずだった。
だけど、結ばれていた"運命"。
精霊の愛し子である愛くるしい弟と、守護者であり弟を溺愛する兄の、温かな家族の物語。
他の投稿サイト様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる