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アフター
Side T 18
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番になって生活は変わった。
…たぶん、そう言ったときに想像する方向とは別方向に。
さすがに休みすぎたおれは休日出勤して埋め合わせをしたり珍しい事例であるとして調書をとられたりと忙しく、いつきはいつきでパートナーがΩであるための休講措置を認可してもらったものの大量のレポートの提出を義務付けられてそこからしばらくは顔を合わせられなかった。
「おれ大学の課題ってよくわかんないけど
1つ休むのにそんなやんなきゃいけないの?」
と電話口で尋ねたところ、下半期のヒート期間を2週間分想定して申請したから結構かさばるんだよねぇと返って来た。
「え、1週間も休まなくていいって。
1日くらいは終日いてくれたほうが助かるけど、
あとは昼はこっちでしのぐから夜だけでも…」
「俺が一緒にいたいの。あなたが苦しいときに授業受けてられない。
レポートでいいって言ってくれてるんだから休む」
普通、一番キツい1日めないし2日めを休みにして、あとはまあ土日などの定休を上手くあてつつやり過ごすのがパートナーのいるαの一般的なヒート期間のやり過ごし方だ。
だってαが1週間しっかり休んだら「あいつ今ヤッてんだろうな」と暗に思われること間違いなしで体裁が悪いし普通に恥ずかしい。
だけどいつきは至極まじめに「なんで俺が透さん以外を優先しなきゃいけないの」と言ってきて、嬉しいを通り越して少し呆れた。
…まあ、そりゃ、いれくれたら、嬉しいけど。いいのかそれで。
噛み跡を見せて過ごすか見せずに過ごすかはそれぞれの好みによる。
センシティブだなんだとSNSでは議論の対象になるのだと保護されたΩの子から聞いたことがあったので保護チョーカーを上からして仕事に行ったら、いつきの噛み跡がでかすぎてはみ出していたらしく、番ができたのかと職員からも利用者からも質問攻めにあって散々だった。
セルフィ―で撮ってどんなものか見てはいたのだけれど、サイズ感は盲点だ。
確かに飯食うときの一口でかいもんな…体もでかいし…と意識を逸らしつつ、全くそんなそぶりを見せなかったのに透くんにパートナーができるなんてねぇとほうぼうからしみじみされて気恥ずかしい思いをした。
なんならちょっとお祝いもしてもらった。
もらっためおと茶碗は赤と青ではなく青と緑。別に赤でもいいのだろうけど、女性のイメージが強いからという配慮がある多様性の時代だ。
で。そんなこんなでせっかく番になったというのに次に会えたのはたっぷり10日ぶりだった。
「わー!透さん久しぶり!会えて嬉しい!!」
「バカおまえ、玄関、先、でッ…!!」
うちに来たいつきにドアを開けて早々大型犬よろしく飛びつかれて支えきれずに崩れそうになる。
体格差を考えてほしいと思いつつ、顔を合わせられるのはおれだって嬉しい。
電気もつけていない暗い玄関口でしばらくぎゅーっと抱き着かれて、満足するまでたっぷり1分経ってからいつきは顔を上げた。
「身体の具合どう?大丈夫?」
「すっごい安定してる。
そりゃ医者も番になったほうがいいってしきりに勧めるわけだな…」
「そっか、よかった!
はーもーずっと会いたかったから嬉しいー。すぐ夕飯作るね」
そう言ってまっすぐシンクに向かういつきがいつも通りで、それがなんだかおれをそわそわとさせた。
番になってからはあの変なヒートは来ていない。
それどころか人混みに入ってもこれまで感じていたような嫌な不安感や焦燥感を覚えることもなく、これまでの生活はなんだったんだと引いてしまうほど快適だった。
とはいえ、そんなホイホイとαと契約できるほどの器がおれにはなかったから、いつきが丸め込んでくれなければきっとこんな安定感とは生涯無縁だったと思う。
悩んでいたことはしょうがないし、それを受け止めてまるっと包み込んでくれたいつきには感謝している。
フェロモンが不必要に漏れ出てしまうこともなくなった、と思う。
いつきと電話していても、今こうして顔を合わせていも、以前のような自分でも明らかに「出た」と焦って取り繕うようなこともなくなった。
必然的に薬の量も減った。あまりにも健康的だ。
…だからこそ、この生活が失われたときに反動でΩは狂うのだと理解できる。
一度得た安寧を失うのは想像以上にきついはずだ。
そういう未来への不安はまだぬぐえないでいるが、番になってしまった手前考えても無駄なところまで足を踏み入れているとは思っていた。
調理するいつきの後姿を見てそわそわする原因は、そうしてフェロモンが落ち着いた状態で、できるのか、ということだった。
たぶん、今日はこのまま泊っていく。
だとしたら、きっとあの日以来身体を重ねる可能性がある。
番になってから初めてするけど、ヒート期間ではないのでおれのからだもいつきのからだも普通だ。
性欲増進剤になるフェロモンなしでいつきがおれに欲情しなかったらどうしようかと、それは不安だった。
だって男の身体だし。
会話の節々でいつきが前に付き合ったことがあるのは女性であると察していた。
本来はノーマルで、たまたま彼の運命の番なるものがおれだっただけだ。
自分では濡れないし、準備に手間もかかるし、身体は骨や筋ばっかで柔らかくないしでかなり不安だ。
Ωは見た目とセックスだけとはよく言ったものだが、見た目が悪くないとは自覚しているけれど、セックスが上手くできなかったらと思うと気が気でない。
いつきは優しいから、笑って許してくれるだろうし、ヒートのときにパートナーでありさえすれば、普段はしなくても別にいいのだけれど。
(でも、おれは好きだし、したい)
いつきが手早く野菜を切る音がする。
とにかく手際がよくて気が利くし、こんなやつ引く手あまただ。
ヒート期間以外で満足させられなければ、ホルモンの魔法が切れたときに離れていってしまうのではないかと暗い気持ちが脳裏をよぎる。
だめだ、考えるな、と不安を振り払うように立ち上がった。
「…先、シャワー浴びてくる」
「うん。まだかかるからゆっくりいってらっしゃーい」
にこっと笑って送り出す顔はいつも通りで、こんなに前のめりになってるのはおれだけなのではないかとため息をつきながら、服を脱ぐ。
せめてかわいらしい反応のひとつでもできたらいいのに。
…たぶん、そう言ったときに想像する方向とは別方向に。
さすがに休みすぎたおれは休日出勤して埋め合わせをしたり珍しい事例であるとして調書をとられたりと忙しく、いつきはいつきでパートナーがΩであるための休講措置を認可してもらったものの大量のレポートの提出を義務付けられてそこからしばらくは顔を合わせられなかった。
「おれ大学の課題ってよくわかんないけど
1つ休むのにそんなやんなきゃいけないの?」
と電話口で尋ねたところ、下半期のヒート期間を2週間分想定して申請したから結構かさばるんだよねぇと返って来た。
「え、1週間も休まなくていいって。
1日くらいは終日いてくれたほうが助かるけど、
あとは昼はこっちでしのぐから夜だけでも…」
「俺が一緒にいたいの。あなたが苦しいときに授業受けてられない。
レポートでいいって言ってくれてるんだから休む」
普通、一番キツい1日めないし2日めを休みにして、あとはまあ土日などの定休を上手くあてつつやり過ごすのがパートナーのいるαの一般的なヒート期間のやり過ごし方だ。
だってαが1週間しっかり休んだら「あいつ今ヤッてんだろうな」と暗に思われること間違いなしで体裁が悪いし普通に恥ずかしい。
だけどいつきは至極まじめに「なんで俺が透さん以外を優先しなきゃいけないの」と言ってきて、嬉しいを通り越して少し呆れた。
…まあ、そりゃ、いれくれたら、嬉しいけど。いいのかそれで。
噛み跡を見せて過ごすか見せずに過ごすかはそれぞれの好みによる。
センシティブだなんだとSNSでは議論の対象になるのだと保護されたΩの子から聞いたことがあったので保護チョーカーを上からして仕事に行ったら、いつきの噛み跡がでかすぎてはみ出していたらしく、番ができたのかと職員からも利用者からも質問攻めにあって散々だった。
セルフィ―で撮ってどんなものか見てはいたのだけれど、サイズ感は盲点だ。
確かに飯食うときの一口でかいもんな…体もでかいし…と意識を逸らしつつ、全くそんなそぶりを見せなかったのに透くんにパートナーができるなんてねぇとほうぼうからしみじみされて気恥ずかしい思いをした。
なんならちょっとお祝いもしてもらった。
もらっためおと茶碗は赤と青ではなく青と緑。別に赤でもいいのだろうけど、女性のイメージが強いからという配慮がある多様性の時代だ。
で。そんなこんなでせっかく番になったというのに次に会えたのはたっぷり10日ぶりだった。
「わー!透さん久しぶり!会えて嬉しい!!」
「バカおまえ、玄関、先、でッ…!!」
うちに来たいつきにドアを開けて早々大型犬よろしく飛びつかれて支えきれずに崩れそうになる。
体格差を考えてほしいと思いつつ、顔を合わせられるのはおれだって嬉しい。
電気もつけていない暗い玄関口でしばらくぎゅーっと抱き着かれて、満足するまでたっぷり1分経ってからいつきは顔を上げた。
「身体の具合どう?大丈夫?」
「すっごい安定してる。
そりゃ医者も番になったほうがいいってしきりに勧めるわけだな…」
「そっか、よかった!
はーもーずっと会いたかったから嬉しいー。すぐ夕飯作るね」
そう言ってまっすぐシンクに向かういつきがいつも通りで、それがなんだかおれをそわそわとさせた。
番になってからはあの変なヒートは来ていない。
それどころか人混みに入ってもこれまで感じていたような嫌な不安感や焦燥感を覚えることもなく、これまでの生活はなんだったんだと引いてしまうほど快適だった。
とはいえ、そんなホイホイとαと契約できるほどの器がおれにはなかったから、いつきが丸め込んでくれなければきっとこんな安定感とは生涯無縁だったと思う。
悩んでいたことはしょうがないし、それを受け止めてまるっと包み込んでくれたいつきには感謝している。
フェロモンが不必要に漏れ出てしまうこともなくなった、と思う。
いつきと電話していても、今こうして顔を合わせていも、以前のような自分でも明らかに「出た」と焦って取り繕うようなこともなくなった。
必然的に薬の量も減った。あまりにも健康的だ。
…だからこそ、この生活が失われたときに反動でΩは狂うのだと理解できる。
一度得た安寧を失うのは想像以上にきついはずだ。
そういう未来への不安はまだぬぐえないでいるが、番になってしまった手前考えても無駄なところまで足を踏み入れているとは思っていた。
調理するいつきの後姿を見てそわそわする原因は、そうしてフェロモンが落ち着いた状態で、できるのか、ということだった。
たぶん、今日はこのまま泊っていく。
だとしたら、きっとあの日以来身体を重ねる可能性がある。
番になってから初めてするけど、ヒート期間ではないのでおれのからだもいつきのからだも普通だ。
性欲増進剤になるフェロモンなしでいつきがおれに欲情しなかったらどうしようかと、それは不安だった。
だって男の身体だし。
会話の節々でいつきが前に付き合ったことがあるのは女性であると察していた。
本来はノーマルで、たまたま彼の運命の番なるものがおれだっただけだ。
自分では濡れないし、準備に手間もかかるし、身体は骨や筋ばっかで柔らかくないしでかなり不安だ。
Ωは見た目とセックスだけとはよく言ったものだが、見た目が悪くないとは自覚しているけれど、セックスが上手くできなかったらと思うと気が気でない。
いつきは優しいから、笑って許してくれるだろうし、ヒートのときにパートナーでありさえすれば、普段はしなくても別にいいのだけれど。
(でも、おれは好きだし、したい)
いつきが手早く野菜を切る音がする。
とにかく手際がよくて気が利くし、こんなやつ引く手あまただ。
ヒート期間以外で満足させられなければ、ホルモンの魔法が切れたときに離れていってしまうのではないかと暗い気持ちが脳裏をよぎる。
だめだ、考えるな、と不安を振り払うように立ち上がった。
「…先、シャワー浴びてくる」
「うん。まだかかるからゆっくりいってらっしゃーい」
にこっと笑って送り出す顔はいつも通りで、こんなに前のめりになってるのはおれだけなのではないかとため息をつきながら、服を脱ぐ。
せめてかわいらしい反応のひとつでもできたらいいのに。
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