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その日の家庭科授業は、担当教諭の粋な計らいで自習時間となっていた。
来週から中間考査が始まるため、五教科以外の授業をまともに受ける生徒があまりいないことは、その担当教諭もしっかりわかっているわけで、ならばいっそのこと自習にしてやろうというわけである。
「一応家庭科の授業中なんじゃけ、この部屋からは出んとってね。それと、あたしは本読むけえうるさくしたら怒るけんねー」
授業が始まる前に自習になるから必要な教科書などを持ち込むように指示してあったので、家庭科教諭はそれだけ注意すると自分は教卓でとっとと読書を始めてしまった。
もともと豪快な性格の彼女らしいやり方である。
「……祐斗、英語教えて」
こそこそと祐斗の隣に教科書を抱えて来たのは和巳だった。
自分がやっている仕事が仕事なだけに国語は得意である。
数学も転校してすぐはその学校の進み具合になじむまでは多少もたつくものの、勘がいいのかすぐに追いつく。そして転校生らしからぬ成績を修めたりするのだ。
社会科や理科に関しても、祐斗に豪語しただけあってわりとすんなり授業に付いてきたのだが、どうにも英語だけは苦手なのである。
適当に喋ることはできる。外国人の客に愛想を振り撒くこともあるので。
けれど、文法が全くわからない。
「おまえ自分で考えた?」
和巳が広げた教科書には難しい文など全く載っておらず、祐斗は冷たい目で問い返した。
「にゃ。英文見るのもイヤだ」
「何バカなこと言っとんじゃ。こんなもん新しい単語が出てきただけで、何も難しいことないそ。ほら、辞書引け、辞書」
「ないもん」
「……」
完全に他力本願な和巳に祐斗は教科書を閉じて頭を一発叩いた。
「痛い」
「当然。叩いたんじゃけ」
「何で叩くんだよ?」
「英語自習しよう思うんじゃったら辞書くらい持って来とけ、アホ」
「だーって今日英語ないじゃん、持ってきてないよー辞書なんか」
「教科書は持って来とんのに?」
「ううん、ガッコに置きっぱだから」
和巳が平然と言った途端、祐斗はもう一発教科書で叩く。
「やる気のないヤツに教えてなんかやらん!」
「けちー」
「やかましい! 俺の机ん中に入っとるけん取って来い!」
「え? ってことは祐斗は辞書置きっぱなしなんだ?」
揚げ足を取る和巳を祐斗は睨みつけた。
「家では英英辞典使っとるそ。学校では授業で使うけん英和じゃけどな」
実は祐斗、英語はかなり得意である。
他の教科に関しても基本的にトップクラスの成績を誇るのだが、英語は特に好きで、いずれ向こうに留学しようとまで考えているため、中学レベルの英語はカンペキだったりする。
和巳はがっくりとうなだれ、家庭科教諭に「忘れ物取ってきます」と言って教室へと向かったのだった。
家庭科室と教室は同じ校舎にあり、フロアが違うだけなのでそんなに離れていない。
ちなみにこの学校、校舎は学年ごとに三つある。四階建てのそれぞれの校舎には音楽室などの科目別教室などが各フロアの端にあり、それぞれが二階部分で繋がっているのである。
「英和辞典、英和辞典、と」
誰もいない教室に入り、自分の隣にある祐斗の机を物色して英和辞典を手に入れた。
頭の中にゲームの“お宝ゲット”な効果音が流れる。いや、あまりゲームをする方ではないけれど。
と。
「あれ?」
辞典を引き出したとき、ひらひらと一枚のレポート用紙が落ちた。
来週から中間考査が始まるため、五教科以外の授業をまともに受ける生徒があまりいないことは、その担当教諭もしっかりわかっているわけで、ならばいっそのこと自習にしてやろうというわけである。
「一応家庭科の授業中なんじゃけ、この部屋からは出んとってね。それと、あたしは本読むけえうるさくしたら怒るけんねー」
授業が始まる前に自習になるから必要な教科書などを持ち込むように指示してあったので、家庭科教諭はそれだけ注意すると自分は教卓でとっとと読書を始めてしまった。
もともと豪快な性格の彼女らしいやり方である。
「……祐斗、英語教えて」
こそこそと祐斗の隣に教科書を抱えて来たのは和巳だった。
自分がやっている仕事が仕事なだけに国語は得意である。
数学も転校してすぐはその学校の進み具合になじむまでは多少もたつくものの、勘がいいのかすぐに追いつく。そして転校生らしからぬ成績を修めたりするのだ。
社会科や理科に関しても、祐斗に豪語しただけあってわりとすんなり授業に付いてきたのだが、どうにも英語だけは苦手なのである。
適当に喋ることはできる。外国人の客に愛想を振り撒くこともあるので。
けれど、文法が全くわからない。
「おまえ自分で考えた?」
和巳が広げた教科書には難しい文など全く載っておらず、祐斗は冷たい目で問い返した。
「にゃ。英文見るのもイヤだ」
「何バカなこと言っとんじゃ。こんなもん新しい単語が出てきただけで、何も難しいことないそ。ほら、辞書引け、辞書」
「ないもん」
「……」
完全に他力本願な和巳に祐斗は教科書を閉じて頭を一発叩いた。
「痛い」
「当然。叩いたんじゃけ」
「何で叩くんだよ?」
「英語自習しよう思うんじゃったら辞書くらい持って来とけ、アホ」
「だーって今日英語ないじゃん、持ってきてないよー辞書なんか」
「教科書は持って来とんのに?」
「ううん、ガッコに置きっぱだから」
和巳が平然と言った途端、祐斗はもう一発教科書で叩く。
「やる気のないヤツに教えてなんかやらん!」
「けちー」
「やかましい! 俺の机ん中に入っとるけん取って来い!」
「え? ってことは祐斗は辞書置きっぱなしなんだ?」
揚げ足を取る和巳を祐斗は睨みつけた。
「家では英英辞典使っとるそ。学校では授業で使うけん英和じゃけどな」
実は祐斗、英語はかなり得意である。
他の教科に関しても基本的にトップクラスの成績を誇るのだが、英語は特に好きで、いずれ向こうに留学しようとまで考えているため、中学レベルの英語はカンペキだったりする。
和巳はがっくりとうなだれ、家庭科教諭に「忘れ物取ってきます」と言って教室へと向かったのだった。
家庭科室と教室は同じ校舎にあり、フロアが違うだけなのでそんなに離れていない。
ちなみにこの学校、校舎は学年ごとに三つある。四階建てのそれぞれの校舎には音楽室などの科目別教室などが各フロアの端にあり、それぞれが二階部分で繋がっているのである。
「英和辞典、英和辞典、と」
誰もいない教室に入り、自分の隣にある祐斗の机を物色して英和辞典を手に入れた。
頭の中にゲームの“お宝ゲット”な効果音が流れる。いや、あまりゲームをする方ではないけれど。
と。
「あれ?」
辞典を引き出したとき、ひらひらと一枚のレポート用紙が落ちた。
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