33 / 231
<1>
☆☆☆
しおりを挟む
それは普段の恵那の音とは違う、端的に言い表すならば“エロい”とでも言うべき甘い音色で。
曲の中盤、ベースでリズムを支える重要な部分で、ともすれば掠れてしまう程の低音をその掠れ具合さえも計算に入れた耳心地の良い響きを利かせて。
他のメンバーも思わず音を止めていて、それには南だけでなく重松も瞠目した。
「ね? こんな感じ。どお?」
長いフレーズではなかったから、次の瞬間にはいつものドヤ顔をした恵那が笑っていて。
「もおねー。まず先輩の色っぽい目が重要なのね。で、そっからこう、あったかい息を楽器にふかーく通して、で、優しく音にしてやんの。ね、正解?」
あっけに取られていたその場の人間に、そんな風にさらっと言ってみせるから。
「南先輩に併せて俺がコレやって、曲の邪魔にならねーならいんだけどさ」
「……ジャマ、っちゃー邪魔」
なんとか気を取り直した徹がぽつりと言った。
「ええー」
「南先輩が出してる雰囲気はさー、色っぽいってヤツだけど。恵那がやると無駄にエロい」
「わかる! わーかーるー! 何、今の! まじエロス! どっかで美女食ってきたんかい! って感じだったし」
辰巳も、自分がその無駄なエロさにヤられたのがムカつくから、そう言って茶化した。
「先輩の色気、マネただけだしー。ほら、やっぱ彼女の存在っつーのはデカいってことだよな、うん」
俺もそろそろ彼女必要だなあ、なんて呟くと、
「おまえにはまだ早い」と突っ込まれた。
「色気云々は抜きにしても、とりあえずその、他人の演奏サラっと真似できる恵那には感心するよ」
重松がため息と共に言った。
「え、俺今褒められた?」
いえーい、と辰巳にドヤると再び「ウザい!」と睨まれる。
「恵那も辰巳も、うるさい! いいから練習するよ!」
結果、重松の怒鳴り声が再び小会議室に響いた。
☆☆☆
――びっくりした。びっくりした。びっくりした。
涼は小会議室の扉を閉めた瞬間、既に走り出していた。
すぐ近くのトイレに駆け込む。
ホルンがパート練習をしていたのは小さな和室で。
優しいパートリーダーの真中が「ちょっと休憩入れよっか」と言ってくれたから、気分転換に恵那の練習しているところへ向かった涼は、扉を少し開けて中の様子を伺おうとした。
休憩中なら少しはお邪魔もできるけれど、それこそパート合奏中ならばそのまま扉を閉めようと思って。
したら。
目と耳に飛び込んできたのが。
少し伏し目にした恵那の綺麗な横顔と、その大きなキラキラ光る楽器から紡がれる甘い低音で。
スラっとした恵那が細長い金色の綺麗なバリトンサックスを斜めに掻き抱き、その細長い指が器用に動いて美しい音色が響く。
いつもふざけている恵那の、見たことのない色っぽいその表情が堪らなく淫靡で。
下腹を擽るような低音が甘く心地よくて。
涼は凍り付いた。
こんな音、聴いたこと、ない。
こんな恵那、見たこと、ない。
涼にしてみれば、恵那はいつだって俺様でドヤ顔をしてへらへら笑っていて。
優しいけれど、どこかイタズラっぽくて子供っぽくて。
最近聞いた土岐を殴り倒していたという物騒な話だって全然信じられないくらい、いつだって柔らかな空気を纏っている恵那は。
でも、こんなに色っぽい表情なんてしたこと、ないから。
もうただただ驚いてしまって。
そっと小会議室の扉を閉めると、その場を逃げ出すしかできなかった。
実際、セクション自体が別だから恵那の演奏している姿を目にすることは合奏の時だけで。
だからと言って合奏中に、指揮や演奏以外に意識なんてすることもないし。
ホルンパートからバリトンサックスは、間にユーフォニアムやバスクラリネットなどがいるから視界に入ることも少ない。
だから、本当に恵那がこんな風に色っぽい演奏をしているのなんて、涼は全然知らなかったのだ。
まるでいつもの友達な恵那じゃなくて。
綺麗な男性の色気、というのを表現するとこうなるのか、という見本みたいな恵那だったから。
ドキドキ、した。
これが、憧れ、というものなのかと思うと、なんだか悔しいけれど、納得できる。
同じ男として、あんな風に素敵な色気を醸し出せるようになりたいと、そう思って。
涼は大きく深呼吸すると、ふるふると首を振り。
とりあえず顔を洗って再び和室へと戻って行った。
曲の中盤、ベースでリズムを支える重要な部分で、ともすれば掠れてしまう程の低音をその掠れ具合さえも計算に入れた耳心地の良い響きを利かせて。
他のメンバーも思わず音を止めていて、それには南だけでなく重松も瞠目した。
「ね? こんな感じ。どお?」
長いフレーズではなかったから、次の瞬間にはいつものドヤ顔をした恵那が笑っていて。
「もおねー。まず先輩の色っぽい目が重要なのね。で、そっからこう、あったかい息を楽器にふかーく通して、で、優しく音にしてやんの。ね、正解?」
あっけに取られていたその場の人間に、そんな風にさらっと言ってみせるから。
「南先輩に併せて俺がコレやって、曲の邪魔にならねーならいんだけどさ」
「……ジャマ、っちゃー邪魔」
なんとか気を取り直した徹がぽつりと言った。
「ええー」
「南先輩が出してる雰囲気はさー、色っぽいってヤツだけど。恵那がやると無駄にエロい」
「わかる! わーかーるー! 何、今の! まじエロス! どっかで美女食ってきたんかい! って感じだったし」
辰巳も、自分がその無駄なエロさにヤられたのがムカつくから、そう言って茶化した。
「先輩の色気、マネただけだしー。ほら、やっぱ彼女の存在っつーのはデカいってことだよな、うん」
俺もそろそろ彼女必要だなあ、なんて呟くと、
「おまえにはまだ早い」と突っ込まれた。
「色気云々は抜きにしても、とりあえずその、他人の演奏サラっと真似できる恵那には感心するよ」
重松がため息と共に言った。
「え、俺今褒められた?」
いえーい、と辰巳にドヤると再び「ウザい!」と睨まれる。
「恵那も辰巳も、うるさい! いいから練習するよ!」
結果、重松の怒鳴り声が再び小会議室に響いた。
☆☆☆
――びっくりした。びっくりした。びっくりした。
涼は小会議室の扉を閉めた瞬間、既に走り出していた。
すぐ近くのトイレに駆け込む。
ホルンがパート練習をしていたのは小さな和室で。
優しいパートリーダーの真中が「ちょっと休憩入れよっか」と言ってくれたから、気分転換に恵那の練習しているところへ向かった涼は、扉を少し開けて中の様子を伺おうとした。
休憩中なら少しはお邪魔もできるけれど、それこそパート合奏中ならばそのまま扉を閉めようと思って。
したら。
目と耳に飛び込んできたのが。
少し伏し目にした恵那の綺麗な横顔と、その大きなキラキラ光る楽器から紡がれる甘い低音で。
スラっとした恵那が細長い金色の綺麗なバリトンサックスを斜めに掻き抱き、その細長い指が器用に動いて美しい音色が響く。
いつもふざけている恵那の、見たことのない色っぽいその表情が堪らなく淫靡で。
下腹を擽るような低音が甘く心地よくて。
涼は凍り付いた。
こんな音、聴いたこと、ない。
こんな恵那、見たこと、ない。
涼にしてみれば、恵那はいつだって俺様でドヤ顔をしてへらへら笑っていて。
優しいけれど、どこかイタズラっぽくて子供っぽくて。
最近聞いた土岐を殴り倒していたという物騒な話だって全然信じられないくらい、いつだって柔らかな空気を纏っている恵那は。
でも、こんなに色っぽい表情なんてしたこと、ないから。
もうただただ驚いてしまって。
そっと小会議室の扉を閉めると、その場を逃げ出すしかできなかった。
実際、セクション自体が別だから恵那の演奏している姿を目にすることは合奏の時だけで。
だからと言って合奏中に、指揮や演奏以外に意識なんてすることもないし。
ホルンパートからバリトンサックスは、間にユーフォニアムやバスクラリネットなどがいるから視界に入ることも少ない。
だから、本当に恵那がこんな風に色っぽい演奏をしているのなんて、涼は全然知らなかったのだ。
まるでいつもの友達な恵那じゃなくて。
綺麗な男性の色気、というのを表現するとこうなるのか、という見本みたいな恵那だったから。
ドキドキ、した。
これが、憧れ、というものなのかと思うと、なんだか悔しいけれど、納得できる。
同じ男として、あんな風に素敵な色気を醸し出せるようになりたいと、そう思って。
涼は大きく深呼吸すると、ふるふると首を振り。
とりあえず顔を洗って再び和室へと戻って行った。
0
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる