コレは誰の姫ですか?

月那

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<3>

☆☆☆

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「藤堂さん!」
 涼が顔を上げる。

「二人共、もう傷だらけじゃないですか」
 似たり寄ったりの殴られ具合だが、基礎体力のせいで恵那の分が悪いらしく既にくったりしていて。
 でも嘉山もどうやら恵那のパンチで奥歯をやられたらしく、唾棄しながら同時に白い歯らしきものが吐き出されていた。

「お客様なので、恵那さんは私の方で預かります。が、こちらの方も、さすがにこの負傷の状況でしたらそのままお返しするわけにもいきませんので、涼様、お連れ致しますよ?」
 言って、藤堂はぐったりした恵那をひょい、と抱え上げると、嘉山の腕をぐい、と掴み、そのまますたすたと歩き始めた。

 六十手前の孫もいるおじいちゃま、な藤堂ではあるが、運転手としての業務だけでなく涼のボディガード的な役割も担っているらしく、体格は同年代のそれとはまったく違う。
 十代の細身の少年ならば簡単に抱きかかえることが可能、という筋骨隆々とした体格である。

「まったく、バス停を降りられた後から全く戻られないから心配して来てみたら」
 藤堂が歩きながら涼に話しかける。どうやら恵那のことなどただの荷物状態である。
 その太い腕に掴まれて引きずられるように付き従う嘉山も、もはや抵抗することは不可能のようだ。
「どういうことですか、これは?」
「えっと……わかんないけど、なんか……てか、なんで?」
 こんなタイミング良く藤堂が現れてくれるなんて予想外だから。
 涼が首を傾げると。
「涼様のことはGPSで監視しています。私が送迎しない以上、無事に帰宅されるまでは見護らせて頂くのが私の役目ですので」
 当然のように言われる。

 バス停から家までは大した距離でもなく、すぐに到着すると客間へ通すと、家政婦の馬場さんを呼んで二人を手早く応急手当を始めた。
 三十代前半女性の馬場だが、結構肝は据わっているらしく、傷だらけの二人に一瞬だけ目を瞠ったものの、すぐに黙って対応する。
 いつものことながら、両親はどうやら仕事でまだ帰宅していないらしく、馬場が香の食事をさせている最中だったのだが、代わりに涼が香のお世話をすることになった。
 喧嘩の傷なんてものを香の目に触れさせないためには、ダイニングで香を足止めするしかなく。
 恵那のことが気になって仕方がない涼だけれど、幼い女の子に二人のこんな状態は見せられない。

「喧嘩両成敗です。事を荒立てたくないのはお二人共、同じでしょう?」
 一通り傷の手当が完了し、藤堂が言うと、ぐったりした二人がお互いに目を合わせないままそっぽを向いて。
「仲直りしないと、今後一切涼様と接触させませんよ?」
 さすがにそれは、二人共、困る。
 特に恵那としてはもう、謝るしかなくて。

「ごめんなさい……っておい、おまえも謝れよ!」
「謝ったら佐竹と付き合えるってのかよ?」
「おま、バカじゃねーの? 涼がおまえなんか選ぶかっつの」
「じゃあ、謝らない」
「はあ? ざけんなよ?」

 傷だらけのまま、口喧嘩を始めるから「黙りなさい」と藤堂が睨む。

「恵那さんも、このまま喧嘩を続けるのでしたら涼様との付き合いを今後一切絶たせていただきますが」
「やだよ。っつーか、俺ばっかソンじゃん!」
「嘉山さんに関しては、このままでしたら学校に引き渡させて頂きます。涼様の周囲に、暴力沙汰を起こすような人間を置いておけませんから。三年生で、外部受験のようですが、この件を学校にお知らせしても構いませんか?」
 冷静な藤堂の脅しに、ぐ、と口を噤むと。

「悪かった」と小さく呟いた。

「では、お二人共、もう二度と喧嘩なんてこと、しませんね?」
 藤堂に睨まれるが、目を逸らしたままの二人は口を噤んだままで。

「……では、今後涼様は私が二十四時間監視させて頂きます」
 黙ったままの二人に、藤堂が小さくため息を吐くと冷ややかに涼の隔離を宣言する。仕方なく恵那が、
「わかったよ。もう、こいつとは喧嘩しない」不本意ながらそう言い切った。
「恵那さん。嘉山さんとだけではありません。涼様と一緒にいる以上、もう二度とこういったことがあっては困ります。どなたとの喧嘩も、あり得ません」
「じゃあ、売られたらどうしろってんだよ?」
「売られるような生活をなさらないで頂きたい。涼様はこれまでに一度もこんな状況になど陥ったことはありません」
 藤堂が、その筋骨隆々な体に“怒り”の空気を纏って恵那を見る。というより、睨む。

「一度も、です」
 今までに何度か涼の送迎をしている彼を見たことはあったが、こんなにも迫力のある様子は初めてで。
「わかりますか? 涼様はそれが当たり前の穏やかな生活をしていらっしゃるからです。それに従っていただけないのでしたら、今後一切……」
「わかった! 誰とも喧嘩、しねーよ!」
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