コレは誰の姫ですか?

月那

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 提供する和菓子については御園が中心となって話し合いが行われ、涼はお茶の準備を依頼された。
 衣装については去年同様すぐに手配できたが、お茶については中学時代に指導を受けていた師匠に相談し、一般受けしやすい種類のお茶をいくつか選んで発注。
 抹茶だけでなく煎茶とほうじ茶も準備して、お茶は好きなものを選べるようにした。抹茶の苦手なお客様だっているだろうから。
 道具は、必要な物を何セットかお師匠が貸して下さるということで、そちらの手配も無事に完了。

「あとは、お茶の点て方を教えるって……」
 涼がぶつぶつ言いながら図書室の書架を物色する。

 恵那も「点てる方がかっけーから、俺にも教えろ」と言っていたし、御園と三人では心許ないからあと数人に教えることになっていて。
 さすがに師匠に指導までお願いするわけにはいかないから、作法がどうとかって難しいことは考えないで簡単に美味しくできるよう、ちょっとした入門書を見てみることにしたのだ。

 ネットでググったりしたけれど、なんとなくピンと来なくて。
 本で詳しく調べたいと思ったけれど。
「うわ……なんだって、あんな高いトコにあるかなあ」
 そんなに広くない図書室。基本的に三年生が勉強しているから大きく場所を取っているのは勉強用の机の方で、本はどれも高い書架に纏められている。

「涼。こんなトコで何やってるんだ?」
 目当ての本を見上げていた涼に、声を掛けてきたのは。
「土岐? ……びっくりした。土岐こそ、なんでこんなトコにいんの?」
「俺、今週は図書委員だから」
 昼休憩中の図書室の監視員は持ち回りで図書委員が担当する。クラスでいくつかの委員会が決められていて全員が何かしらの担当をしているのだが、ちなみに涼は保健委員である。

「あ、そーなんだ。丁度良かった、土岐、あの“茶道入門”って本、取ってくれる?」
 身長差があるだけでなく、リーチの長い土岐ならば簡単に取れるだろうと、涼が甘えると。

「ん? 何冊かあるけど、どれ?」
「えっとねえ」涼が説明しようとした瞬間、土岐が涼を抱え上げた。
「え!」
「自分で取った方が早いだろ」
 実際土岐にしてみれば涼なんて軽いものだろう。ひょい、とまるで子供を抱え上げるかのように持ち上げると、涼が慌てて目当ての本を手に取った。

「あ……いや、ごめん。なんか、子供扱いだよな、今の。悪い」
 恵那ならどうするだろうか、と一瞬だけ考えてそのまま抱き上げた土岐だったが、よく考えてみたらそれはまるきり涼を子供とみなしている行動でしかなくて。

「いや……全然、ダイジョブ。びっくり、しただけ」
 まだちょっと茫然としているけれど、涼が言うと「お茶、習うのか?」と土岐が訊いてきた。

「コレ? んーん。僕は中学の時にちょっとだけ習わされてたんだ。けど、今度文化祭で、えなたちにお茶の点て方教えることになったから」
「クラス展示でやるのか? なかなか渋いことやるんだな」
「うん。僕らでお茶点てて、和菓子と一緒に売るんだよ」
 へえ、と返事をしながらも、想像してしまうのはなんとなく浴衣姿の涼で。しかも女の子モノだったから、慌ててその妄想を消し去った。

「土岐は? F組は何すんの?」
「あー、サバゲー?」
「さばげ……? 何、それ?」
「サバイバルゲーム。多目的ルーム、使用許可下りたから、そこに障害物作ってVRでサバゲーできるようにしてる。結構みんな頑張って作ってるから、涼も遊びに来いよ」
 土岐に言われたけれど、涼の頭の中にはハテナマークばかりが飛び交う。

「サバイバルゲームがまずわかんない。VRって、バーチャルのゴーグル使うってこと?」
「うん、そう。銃とかレンタルして、VRゴーグルして撃ち合いするゲームやるらしい。クラスにハマってるヤツがいて、結構流行ってるらしいから」
 えなが食いつきそうだなー、と涼は想像して笑う。

「文化祭、吹部の演奏もあるんだろ? そっちの練習も大変そうだな」
「大変っちゃー大変だけどねー。なんたって、えながはしゃぎまくってるから」
「なんだ、それ?」
「徹先輩たちがさ、やっぱラストステージだからって張り切ってんのね。で、えなって三年とめっちゃ仲イイでしょ? 一緒に盛り上がってんの」
 だから昼だって三年の校舎行ってるもん、と涼がぼやく。

「今年も踊るのか?」
「踊る、踊る。BTSとかNiziUだとか。もお、ノリノリ」
 恵那がはしゃいでいる姿が簡単に想像できるから、土岐もくすくす笑った。
「あの人多分楽器の練習じゃなくてダンスの練習時間の方が断然長いからね、今」
「まったく、一体何部だよ?」
「ほんと、それ。ずっとダンス部に教えて貰いに行ってるから、もはやダンス部に入部してるようなモノだもん」

 吹部で楽器練習して、合間にダンス練習して、おまけに涼には「お茶の点て方教えて」と言ってくるから。
 頭がイイだけじゃなくて運動神経もいいから、頭と体がリンクしているせいで何でもできるらしい。

「毎年吹部の演奏は人気だからな。涼も頑張れ」
 いつもの温かい眼差しで土岐が言ってくれて。
 涼は本を借りる手続きをして、またねと手を振って図書室を出た。
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