コレは誰の姫ですか?

月那

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 その日練習を終え、涼と恵那がいつものように音楽室を出て自転車小屋へと向かっていると、音楽室のある校舎を出た瞬間、川島に待ち伏せされていた。
 正確には川島と、涼のファンクラブ会員であるところの横山の二人に。

 涼の姿を見た瞬間駆け寄ってきて縋るような目で見て来た川島だったが、
「あー。あの制服は、幻ってことで」恵那が頭を掻きながら言った。
 申し訳ないというよりは、自分だって残念だと思っているから、がっくりと膝をついた二人には。

「ごめんねー。だから無かったことにしてねー」
 という涼のセリフには「いやいや、涼。それはこいつらが可哀想だろ」と恵那が突っ込んだ。

「いいじゃん、制服が使えないんだから、ナシにしても」
「違うだろ。制服なら他にもあるだろーがよ。俺は涼のJK姿を全世界に発信したい!」
 涼の隣で恵那こそがそんな発言をするから、川島と横山が「そうなんです! 佐竹先輩の美しさを世に知らしめたいんです!」と跪いて両掌を組んで祈るように涼を見つめる。

「ええー」
 何だって言い出しっぺの写真部じゃなくてえなが盛り上がってんだよお、と涼が眉を顰めた。
「おまえら、目の付け所はナイスだ。涼が可愛いのはもう、この学校中が認めてるからな」
 なんたって今年のクイーンだからな、と恵那がドヤる。

「だからこそ! 俺は涼のJK姿はこの学校だけに留めておくのは勿体ないと常々思ってた」
 わざとらしく眉根を摘まんで腕を組んで、まるで壮大な悩み事のように声を低くして。
「どうやって全世界に発信するべきか。なるほど、写真部の写真展、おおいにアリじゃねーか」
「ちなみに今回の作品で好評であればコンクールに出品するつもりです!」
 恵那のセリフに川島が手を挙げた。
「いいねえ。是非とも涼の写真をデカいコンクールに出品して貰いたいねえ」

「えな、あんましふざけてないで。制服、門外不出でしょ」
「そう! あの制服は世に出すわけにはいかない。あ、おまえあの画像持ってんだっけ? 絶対ヨソに漏らすなよ! 悠平の連れがおまえと繋がってんだろうけど、とにかく外部には出すな。いいな?」
 横山を睨む。これだけはケジメだから。
 と、「すみませんでした! 他には誰にも渡してません! こんな大事な写真、そうそう簡単に他人に渡せませんから!」横山が土下座した。

 何もかもが大袈裟過ぎて。恵那がおもしろがっているのがわかるから、涼は鼻で笑う。

「だからさー。俺、知り合いにM女のコがいんだわ。どうよ、M女のあの白セーラー、涼に着せたくね?」
 奏の発言から、我が意を得たり、と嬉しそうに恵那が嗤う。が、次の瞬間、
「あーのーねー! えな、簡単に言わないでよ。M女の制服だって、そんなの絶対許可が必要になるでしょ! 簡単に言ってきーちゃんに迷惑かかったらどーすんのさ!」
 涼が諫めるように言うと「あ」と恵那が、ヤバイという顔をした。
「ごめん、もう俺キリに頼んじゃった」
 どうやらM女の制服案が出た後、勝手にラインでキリエに“制服貸して”って話をしていたらしい。

 キリエも部活中だったらしく、その時すぐに既読は付かなかったから放置していて。
 慌ててスマホを見てみると「いいよーん。涼ちゃん、多分似合うと思うし、面白そうだからキリも見たーい」とハートマークやら可愛らしいクマさんの絵が飛んでいるラインが入っていて。

「うっわ。キリもノリノリ」
「もおー。えなはそーやって、後先考えないで行動するからー」
「あー……でも、どうかな、キリからガッコに許可貰って貰うとか」
「貰えると思う? どーやって説明すんのさ? きーちゃんが怒られるだけでしょ!」
 珍しく涼が声を荒らげた。正論だから恵那も口を尖らせて。

「JKな涼っつーのは、無理かー」と一瞬全員が諦めかける。
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