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毛布の間から、半泣き状態の涼が顔を出してきた。恵那が何を言おうとしているのかがわからなくて、涙が止まる。
不思議そうな表情の涼に、恵那が完全に諦念の色を込めた声で、
「大丈夫、泣かなくていいし。もう、いいから」と涼の頭を撫でながら呟いた。
そして。
ふう、と大きくため息を吐いて。
恵那は。
服を、着た。
「えな?」
「俺が悪かった。も、これは絶対だから。だから涼、絶対泣くなよ?」
泣かせたく、ない。泣かせたくないのは、本心で。
けれど。
自分でも、もうさすがに諦めが付いた気がしたから。
恵那は小さく笑った。
「そんで。俺が悪いのが大前提として。で、言うけどさ」
そのまま、涼にも服を着せる。だって、こんなの目にしていたらまた暴走してしまう。
「おまえ、俺じゃ、ねーんだよ」
小さい声。
でも、その言葉が意味する内容が。
恵那には勿論だけれど、涼にも、重くて。
「涼が、本気で惚れてるのは、俺じゃ、ない」
ゆっくりと噛み締めるように告げる。
「えな?」
「もう、おまえだってわかってるだろ?」
言いたくなかった言葉。
きちんと、言語化したくなかった、涼の感情。
このままボかしたまんま、誤魔化して傍にいたかった。
けれど。
もう、限界。
このままだと、自分は暴走してしまう。
好きなヤツが無防備にいるのに、何も手出ししないでいられる程、自分は聖人君子じゃない。
好きだと言ってキスをくれるなら、そのまま最後までシたくなる。
そんな自分を、もう止められない。
でも。
肝心の涼の“好き”は、違うのだ。
涼が“えな、大好き”と言ってくれるのは総て、“友人”の延長線。ただの“親友”。
自分の中に込み上げてくるこの、“抱きたい”という衝動に駆られる“恋愛感情”とは全くの別物。
愛しくて、切なくて、護りたいのに、壊したくて。
思うままに抱いて壊してしまいたい衝動を、これ以上抑えるなんてできない。
「涼が、俺を好きだってのは俺だってわかってる。でもそれは、ただのインプリンティングだ。初めての場所、初めての世界で俺が傍にいて、安心して甘えることができたから、だから涼は俺のことが好きなんだよ」
「えな……」
「俺も、おまえのことは大好きだ。最初は当然、ただの友人として好きだって思ってた。でも、おまえと一緒にいる間にもう、俺は完全におまえに惚れてしまったから。今、おまえの想いとはもう別物になっちまってる」
目をうるうるさせて涼が見つめて来る。
可愛くて仕方なくて、泣かせたくないからほんとはこんなこと言いたくないけれど。
でも、このまま黙って一緒にいれば確実に自分はこの存在を傷つけてしまう。
そっと髪を撫でる。
このままずっと、自分の限界まで我慢して傍にいたい。それはもう、切実な願い。
でも、それじゃ、ダメだと。
やっと諦めがついた。
このまま我慢し続けて何になる?
片想いは片想いでいい。
でも。
涼が本気で惚れてる相手は、きっと本当に涼のことを想っているのだ。
このまま自分の傍に涼がいれば、涼の想いも……そして土岐の気持ちも何も浮かばれない。
そんなん、誰得だよ?
もう。ダメなんだ。
詰まっちまったんだ。完全なる手詰まり。
これ以上、先には進めない。
だから、自分が引くしかない。
この、苦しいくらい好きな気持ちはもう、終わりにしないといけない。
「えな……」
涙が、こぼれ落ちていく。涼の頬を伝うそれを、指でそっと拭った。
「ちゃんと、認めな」
「えな」
「俺じゃ、ないだろ?」
拭っても、拭っても溢れてくる涙。
涼が、自分の代わりに泣いているのだと思う。
「えな」
「じゃない。ちゃんと、自分と向き合いな」
「えな」
「だから。俺じゃない」
「えな」
「涼。大好きだよ」
「えな」
「大丈夫。別れるんじゃないから。ちゃんと、友達に戻るだけだから」
くふ、と嗤う。いつもの自信満々な表情を見せてやる。
今の涼に必要なのはそれだと、思ったから。
「俺がおまえ、手放すと思うか? おまえは俺のモンだよ。でも、関係が変わるだけ。ちゃんと、俺は俺の分をわきまえる。俺は、おまえの親友だ。おまえがイヤがっても、ずっと傍にいてやる」
意識して、今までのどこにも負けないドヤ顔を見せる。
「えな、えな……」
「大丈夫だって。変わんないよ、今までと。後はおまえが自分に正直になればそれでいい」
俺様はずっと、おまえの傍にいてやるよ。
恵那の一番恵那らしい表情で、一度ぎゅっと涼を抱きしめる。
この感情を抱いたままするハグは、これが最後。
涼の為にもこの感情はとっととケリを付ける。
そしてここから先、涼とするハグは“友情”だけ。
キスも、しない。
ケジメを付けて。
でも、涼が不安にならないように、ずっと傍にいる。
それだけは絶対。
「でも、まじでごめんだけど、今日は俺、帰るわ」
「あ……え? 今から?」
バスなんて、ない。
「ま、一時間も走れば着くだろ。俺、このままココで寝たら確実におまえのこと食っちまうから」
「え……でも」
「おまえはもーちょっと、危機感持ちなさい。お姫様が簡単に体赦しちゃダメだよ」
ぐりぐり、と涼の頭を撫でて。
「明日から、ちゃんと普通に笑えるように、好きなだけ泣いとけ」
それは涼に対して言ったけれど、自分に対しての言葉でもあって。
じゃあな、と言って恵那は涼の部屋を出て行った。
不思議そうな表情の涼に、恵那が完全に諦念の色を込めた声で、
「大丈夫、泣かなくていいし。もう、いいから」と涼の頭を撫でながら呟いた。
そして。
ふう、と大きくため息を吐いて。
恵那は。
服を、着た。
「えな?」
「俺が悪かった。も、これは絶対だから。だから涼、絶対泣くなよ?」
泣かせたく、ない。泣かせたくないのは、本心で。
けれど。
自分でも、もうさすがに諦めが付いた気がしたから。
恵那は小さく笑った。
「そんで。俺が悪いのが大前提として。で、言うけどさ」
そのまま、涼にも服を着せる。だって、こんなの目にしていたらまた暴走してしまう。
「おまえ、俺じゃ、ねーんだよ」
小さい声。
でも、その言葉が意味する内容が。
恵那には勿論だけれど、涼にも、重くて。
「涼が、本気で惚れてるのは、俺じゃ、ない」
ゆっくりと噛み締めるように告げる。
「えな?」
「もう、おまえだってわかってるだろ?」
言いたくなかった言葉。
きちんと、言語化したくなかった、涼の感情。
このままボかしたまんま、誤魔化して傍にいたかった。
けれど。
もう、限界。
このままだと、自分は暴走してしまう。
好きなヤツが無防備にいるのに、何も手出ししないでいられる程、自分は聖人君子じゃない。
好きだと言ってキスをくれるなら、そのまま最後までシたくなる。
そんな自分を、もう止められない。
でも。
肝心の涼の“好き”は、違うのだ。
涼が“えな、大好き”と言ってくれるのは総て、“友人”の延長線。ただの“親友”。
自分の中に込み上げてくるこの、“抱きたい”という衝動に駆られる“恋愛感情”とは全くの別物。
愛しくて、切なくて、護りたいのに、壊したくて。
思うままに抱いて壊してしまいたい衝動を、これ以上抑えるなんてできない。
「涼が、俺を好きだってのは俺だってわかってる。でもそれは、ただのインプリンティングだ。初めての場所、初めての世界で俺が傍にいて、安心して甘えることができたから、だから涼は俺のことが好きなんだよ」
「えな……」
「俺も、おまえのことは大好きだ。最初は当然、ただの友人として好きだって思ってた。でも、おまえと一緒にいる間にもう、俺は完全におまえに惚れてしまったから。今、おまえの想いとはもう別物になっちまってる」
目をうるうるさせて涼が見つめて来る。
可愛くて仕方なくて、泣かせたくないからほんとはこんなこと言いたくないけれど。
でも、このまま黙って一緒にいれば確実に自分はこの存在を傷つけてしまう。
そっと髪を撫でる。
このままずっと、自分の限界まで我慢して傍にいたい。それはもう、切実な願い。
でも、それじゃ、ダメだと。
やっと諦めがついた。
このまま我慢し続けて何になる?
片想いは片想いでいい。
でも。
涼が本気で惚れてる相手は、きっと本当に涼のことを想っているのだ。
このまま自分の傍に涼がいれば、涼の想いも……そして土岐の気持ちも何も浮かばれない。
そんなん、誰得だよ?
もう。ダメなんだ。
詰まっちまったんだ。完全なる手詰まり。
これ以上、先には進めない。
だから、自分が引くしかない。
この、苦しいくらい好きな気持ちはもう、終わりにしないといけない。
「えな……」
涙が、こぼれ落ちていく。涼の頬を伝うそれを、指でそっと拭った。
「ちゃんと、認めな」
「えな」
「俺じゃ、ないだろ?」
拭っても、拭っても溢れてくる涙。
涼が、自分の代わりに泣いているのだと思う。
「えな」
「じゃない。ちゃんと、自分と向き合いな」
「えな」
「だから。俺じゃない」
「えな」
「涼。大好きだよ」
「えな」
「大丈夫。別れるんじゃないから。ちゃんと、友達に戻るだけだから」
くふ、と嗤う。いつもの自信満々な表情を見せてやる。
今の涼に必要なのはそれだと、思ったから。
「俺がおまえ、手放すと思うか? おまえは俺のモンだよ。でも、関係が変わるだけ。ちゃんと、俺は俺の分をわきまえる。俺は、おまえの親友だ。おまえがイヤがっても、ずっと傍にいてやる」
意識して、今までのどこにも負けないドヤ顔を見せる。
「えな、えな……」
「大丈夫だって。変わんないよ、今までと。後はおまえが自分に正直になればそれでいい」
俺様はずっと、おまえの傍にいてやるよ。
恵那の一番恵那らしい表情で、一度ぎゅっと涼を抱きしめる。
この感情を抱いたままするハグは、これが最後。
涼の為にもこの感情はとっととケリを付ける。
そしてここから先、涼とするハグは“友情”だけ。
キスも、しない。
ケジメを付けて。
でも、涼が不安にならないように、ずっと傍にいる。
それだけは絶対。
「でも、まじでごめんだけど、今日は俺、帰るわ」
「あ……え? 今から?」
バスなんて、ない。
「ま、一時間も走れば着くだろ。俺、このままココで寝たら確実におまえのこと食っちまうから」
「え……でも」
「おまえはもーちょっと、危機感持ちなさい。お姫様が簡単に体赦しちゃダメだよ」
ぐりぐり、と涼の頭を撫でて。
「明日から、ちゃんと普通に笑えるように、好きなだけ泣いとけ」
それは涼に対して言ったけれど、自分に対しての言葉でもあって。
じゃあな、と言って恵那は涼の部屋を出て行った。
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