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「もー、いい加減諦めなって」
悠平が呆れながら言う。
「やだ。絶対、やだ」と恵那が完全に目を座らせて首を振る。
「だってもう、無理じゃん。あんただってわかってんじゃん」
往生際の悪いヤツだな、と眉を寄せると恵那は「うっせー、ばーか」なんていつものように毒づいて。
「俺はオトコだ。中途半端に諦めるなんてのは、男じゃねえ」
「でも実際、半分折れてるだろーがよ」
「はあ? 何ゆってくれちゃってんの? 折れてるわけねーじゃん、俺全然バリバリだし!」
「腰、引けてんじゃん」
悠平が半笑いで近寄るから「寄るな、あほ」と睨みつける。
「もういいから。これ以上は時間のムダじゃん」
「無駄じゃ、ねえ! 来んな、ばか」
必死の目力で悠平をその場に留めさせると、恵那は「ふう」と深呼吸した。
「まだだ。俺は、諦めない」と視線を正面へと向ける。
と、ごん、と大きな音がして。
「……やっぱあんた、バスケは向いてないって」
スリーポイントのラインから投げたボールはボードにぶち当たって転がり落ちた。
がっくりと膝をついて項垂れた恵那に、腕組みした悠平が言って大きくため息を吐く。
「ううううう!」
「何呻ってんのさ?」
「まだ、やる!」
「もう、いいって」
転がっていたボールを追いかけようとした恵那の腕を、悠平が掴んだ。
「さ、デートだデートだ」
「…………」
「約束、だからな」
にやにやしている悠平を睨む。
けれど、そんなもの何も気にしないで悠平はボールを体育館倉庫に片付けると、
「お邪魔しましたー」と練習をしていたハンドボール部に軽く会釈して第二体育館を後にした。
仕方がないからそんな悠平の後を、不貞腐れた表情のままついて行くけれど。
ムカついてしょうがない。
まさか、あんなにシュートが決まらないとは思ってもいなかった。
だいたい、授業でやっているバスケに関しては全然得意だったし、フリースローにしろレイアップにしろ、何やったってバスケ部が眉を寄せるくらいうまくこなしていた恵那である。
スリーポイントシュートだって、全く決まったことがないなんてわけでもなく。
なのに。
今日、どれだけ打っても一本も入らなかったのは、なんでだろうか。
焦れば焦るほど、自分の意志とはかけ離れた弧を描いてボールはあらぬ方向へしか飛んでいかないし、どれだけ集中しても全然うまく入らなくて。
スポーツでこんなにも不調だったのは生まれて初めての経験。
自分にとってあまりにも有り得ない状況に、もう茫然自失な恵那で。
ブスくれた表情のまま悠平の後ろにいると。
「球技大会でバスケ勝負してたらあっさり俺が勝ってたし、そしたら恵那はもっと早く佐竹先輩と別れてたんだろうな」と振り返って言われた。
「え?」
「そしたらあんた、泣くこともなかったのに」
「うっせーな。俺は涼が掛かった勝負には絶対負けねーんだよ」
「……まだ言ってんの?」
「一生言い続けるよ。俺にとっては、涼はそういう存在だ」
完全に、拗ねている。
という、自覚はある。
だってまた悠平に負けた。
ソフトで負けた時は、それでも言い訳ができたけれど。
今回の勝負なんてもう、何も言えない。
悔しいにも程がある。
もう誰もいない自転車置き場で、ポケットに手を入れたまま立ちすくんでいると。
「俺もチャリ、取って来るから。ここで待ってて」
「へ?」
「だから、これからデートだ、つったろ?」
「ええー、まじで?」
「あんたが言ったんだからな。俺が勝ったら好きなだけ付き合ってくれるって」
嬉しそうに言ってくるから、ムっとして睨む。
「約束、したんだから逃げるなよ?」
「……わかったよ。でも、おまえの奢りだからな」
「あんたねえ。後輩に奢らすって、どうなん?」
「てめえが誘って来たんだから、当たり前だろーが」
「ったくもー、ああ言えばこう言う。ほんっと、可愛くねえ」
「俺が可愛いわけがない!」
顔をわざと歪めて言ってやると、「はいはい」と指で鼻筋を撫でられた。
「まあいいや。それならそれで」
「は?」
「あんたにとって、佐竹先輩が“そういう存在”なんだってのは、俺だって全然わかってるし」
動き出そうとしない恵那の様子を見て、「あーもう、めんどくさいな」と恵那の手から自転車の鍵を奪い取り、悠平がそれを使って自転車のロックを解除する。
恵那の自転車を押して歩きながら、今度は一年生の自転車小屋へと向かう。
「それを無理に変えさせるつもりはないよ」真剣な声で言った。
とん、と恵那の腰に触れて前に進ませる。
負けた悔しさと、悠平が何を言っているのか理解できないのと。
いろんなことが頭を混乱させている恵那は、まるで人形のように悠平に押し出されないと動かなくて。
「そんなトコ全部ひっくるめて、俺があんたのことを“そういう存在”として扱ってやるから」
言った瞬間、また恵那が立ち止まる。
「もう。ちゃんと歩けよ。いつまで経っても着かねーだろが」
「わけわかんねーこと言ってんなよ」
「わかんねーことなんか全然言ってねーじゃん。ほら、歩いて。俺二台もチャリ押せねーから、俺のチャリんトコ行ったらあんたちゃんと乗ってくれよ」
世話焼かせるなよ、なんてぶちぶち言いながら、恵那を促す。
「あんたが佐竹先輩にしてやりたいって思ったこと、俺が全部あんたに対してやってやんだよ」
「はあ?」
「やり残してること、全部言ってみな? 全部叶えてやるから」
「ふざけてろっつの。俺が涼にしたいと思ったことは、全部相手が涼だからだ。なんだっておまえなんか護ってやんねーといけねんだ。俺の庇護欲は涼にしか向いてない」
「だから言ってんじゃん。それ、俺が全部やってやるから。あんたは俺に護られてりゃいいんだってば」
「まじめんどくせーな。おまえ、日本語通じねーのかよ?」
この平行線を辿るだけのいつもの口喧嘩が。
でももう、回を重ねるごとにガードが緩んでいるのも確かで。
「ま、なんだかんだ言ったってさ。あんたはもう俺に惚れてんだから。素直じゃないトコも全部、俺が愛してやるよ」
「うっせー、ばーか」
「あんたは俺の最愛のお姫様だからな」
「んなわけねーだろ。いいか、俺は“姫”じゃねえし、そういう扱いするってことは確実に喧嘩売ってるってことだからな!」
「はいはい」
「聞いてんのか、人の話をよ!」
激おこモードで喚き始めた恵那を。
悠平はキスで黙らせた。
「もー、いい加減諦めなって」
悠平が呆れながら言う。
「やだ。絶対、やだ」と恵那が完全に目を座らせて首を振る。
「だってもう、無理じゃん。あんただってわかってんじゃん」
往生際の悪いヤツだな、と眉を寄せると恵那は「うっせー、ばーか」なんていつものように毒づいて。
「俺はオトコだ。中途半端に諦めるなんてのは、男じゃねえ」
「でも実際、半分折れてるだろーがよ」
「はあ? 何ゆってくれちゃってんの? 折れてるわけねーじゃん、俺全然バリバリだし!」
「腰、引けてんじゃん」
悠平が半笑いで近寄るから「寄るな、あほ」と睨みつける。
「もういいから。これ以上は時間のムダじゃん」
「無駄じゃ、ねえ! 来んな、ばか」
必死の目力で悠平をその場に留めさせると、恵那は「ふう」と深呼吸した。
「まだだ。俺は、諦めない」と視線を正面へと向ける。
と、ごん、と大きな音がして。
「……やっぱあんた、バスケは向いてないって」
スリーポイントのラインから投げたボールはボードにぶち当たって転がり落ちた。
がっくりと膝をついて項垂れた恵那に、腕組みした悠平が言って大きくため息を吐く。
「ううううう!」
「何呻ってんのさ?」
「まだ、やる!」
「もう、いいって」
転がっていたボールを追いかけようとした恵那の腕を、悠平が掴んだ。
「さ、デートだデートだ」
「…………」
「約束、だからな」
にやにやしている悠平を睨む。
けれど、そんなもの何も気にしないで悠平はボールを体育館倉庫に片付けると、
「お邪魔しましたー」と練習をしていたハンドボール部に軽く会釈して第二体育館を後にした。
仕方がないからそんな悠平の後を、不貞腐れた表情のままついて行くけれど。
ムカついてしょうがない。
まさか、あんなにシュートが決まらないとは思ってもいなかった。
だいたい、授業でやっているバスケに関しては全然得意だったし、フリースローにしろレイアップにしろ、何やったってバスケ部が眉を寄せるくらいうまくこなしていた恵那である。
スリーポイントシュートだって、全く決まったことがないなんてわけでもなく。
なのに。
今日、どれだけ打っても一本も入らなかったのは、なんでだろうか。
焦れば焦るほど、自分の意志とはかけ離れた弧を描いてボールはあらぬ方向へしか飛んでいかないし、どれだけ集中しても全然うまく入らなくて。
スポーツでこんなにも不調だったのは生まれて初めての経験。
自分にとってあまりにも有り得ない状況に、もう茫然自失な恵那で。
ブスくれた表情のまま悠平の後ろにいると。
「球技大会でバスケ勝負してたらあっさり俺が勝ってたし、そしたら恵那はもっと早く佐竹先輩と別れてたんだろうな」と振り返って言われた。
「え?」
「そしたらあんた、泣くこともなかったのに」
「うっせーな。俺は涼が掛かった勝負には絶対負けねーんだよ」
「……まだ言ってんの?」
「一生言い続けるよ。俺にとっては、涼はそういう存在だ」
完全に、拗ねている。
という、自覚はある。
だってまた悠平に負けた。
ソフトで負けた時は、それでも言い訳ができたけれど。
今回の勝負なんてもう、何も言えない。
悔しいにも程がある。
もう誰もいない自転車置き場で、ポケットに手を入れたまま立ちすくんでいると。
「俺もチャリ、取って来るから。ここで待ってて」
「へ?」
「だから、これからデートだ、つったろ?」
「ええー、まじで?」
「あんたが言ったんだからな。俺が勝ったら好きなだけ付き合ってくれるって」
嬉しそうに言ってくるから、ムっとして睨む。
「約束、したんだから逃げるなよ?」
「……わかったよ。でも、おまえの奢りだからな」
「あんたねえ。後輩に奢らすって、どうなん?」
「てめえが誘って来たんだから、当たり前だろーが」
「ったくもー、ああ言えばこう言う。ほんっと、可愛くねえ」
「俺が可愛いわけがない!」
顔をわざと歪めて言ってやると、「はいはい」と指で鼻筋を撫でられた。
「まあいいや。それならそれで」
「は?」
「あんたにとって、佐竹先輩が“そういう存在”なんだってのは、俺だって全然わかってるし」
動き出そうとしない恵那の様子を見て、「あーもう、めんどくさいな」と恵那の手から自転車の鍵を奪い取り、悠平がそれを使って自転車のロックを解除する。
恵那の自転車を押して歩きながら、今度は一年生の自転車小屋へと向かう。
「それを無理に変えさせるつもりはないよ」真剣な声で言った。
とん、と恵那の腰に触れて前に進ませる。
負けた悔しさと、悠平が何を言っているのか理解できないのと。
いろんなことが頭を混乱させている恵那は、まるで人形のように悠平に押し出されないと動かなくて。
「そんなトコ全部ひっくるめて、俺があんたのことを“そういう存在”として扱ってやるから」
言った瞬間、また恵那が立ち止まる。
「もう。ちゃんと歩けよ。いつまで経っても着かねーだろが」
「わけわかんねーこと言ってんなよ」
「わかんねーことなんか全然言ってねーじゃん。ほら、歩いて。俺二台もチャリ押せねーから、俺のチャリんトコ行ったらあんたちゃんと乗ってくれよ」
世話焼かせるなよ、なんてぶちぶち言いながら、恵那を促す。
「あんたが佐竹先輩にしてやりたいって思ったこと、俺が全部あんたに対してやってやんだよ」
「はあ?」
「やり残してること、全部言ってみな? 全部叶えてやるから」
「ふざけてろっつの。俺が涼にしたいと思ったことは、全部相手が涼だからだ。なんだっておまえなんか護ってやんねーといけねんだ。俺の庇護欲は涼にしか向いてない」
「だから言ってんじゃん。それ、俺が全部やってやるから。あんたは俺に護られてりゃいいんだってば」
「まじめんどくせーな。おまえ、日本語通じねーのかよ?」
この平行線を辿るだけのいつもの口喧嘩が。
でももう、回を重ねるごとにガードが緩んでいるのも確かで。
「ま、なんだかんだ言ったってさ。あんたはもう俺に惚れてんだから。素直じゃないトコも全部、俺が愛してやるよ」
「うっせー、ばーか」
「あんたは俺の最愛のお姫様だからな」
「んなわけねーだろ。いいか、俺は“姫”じゃねえし、そういう扱いするってことは確実に喧嘩売ってるってことだからな!」
「はいはい」
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