19 / 167
<1>
-8-
しおりを挟む
「トモさん、おはよお」
日曜日。おうちデート、という日である。
遠足が楽しみで待ちきれない小学生のごとく、櫂斗が朋樹の部屋のインターフォンを鳴らしたのは朝九時だった。
「……どおぞ」
完全に、今起きました、という声でモニタに返事をすると、エントランスを開けてやった朋樹は、
「そいえば、時間指定してなかったな……」
玄関の鍵だけ開けると、洗面所に向かった。
「トモさん、朝飯まだだろ? 一緒に食べようと思ってお弁当作ってきた」
寝起きの朋樹なんて完全想定内。
もへーっとした顔でいる朋樹に、櫂斗はにっこり笑い。
「お味噌汁もあるから。トモさん、二日酔いとかだったりする?」
「……や、そんなになる程は酒飲めねーし。昨夜はバイトの後帰って資料作成して……寝たのが三時だったから」
「そか。じゃあ、とりあえずキッチン借りて準備するから、トモさん顔洗ってきなよ」
そのまま寝かしては、くれねーよなあ。と、朋樹は身支度を軽く整える。
大学生男子の一人暮らしだから、スタンダードに一K。
ワンルームじゃないのは、引っ越した当時彼女がいたから、泊まりに来た彼女が台所に立つことを想定していたわけで。
残念ながらそんな夢は叶うことなく、キッチンは常に飲み物の処理でしか使われていない。
リビング兼寝室は八畳程の部屋で、窓際にベッドとPC用のデスクがあり、入口側にラグを敷いて食卓として小さなテーブルを置き、テレビを観ながらまったりできる空間となっている。
とにかくシンプルな部屋にして、物を置かないようにしているのは、家事なんて殆どしない自分が簡単に片づけや掃除ができるようにするためだ。
朋樹はキッチンの向かい側にあるバスルームで顔を洗い終え、既にキッチンでの作業を済ませて、リビングのテーブルに広げられた朝食に感動した。
なんてデキたお子さんだろう、櫂斗というコは。
トモさんち、行きたい。と言った櫂斗に、どおぞーと軽く返事をしたのは事実で。
そもそもカッコつけるような相手じゃないし、と何も決めないで迎えた当日となってしまったから、じゃあウチで何すんだ? なんて今頃になってぼんやり考える。
「後でさ、一緒にそこのスーパーに買い物行こうよ」
「何か、いる?」
「だって、今見たけどトモさんちの冷蔵庫って飲み物しか入ってねーもん。お昼、何か作ろうと思ってたけど、俺こんな空っぽな冷蔵庫見るの、初めて。家電屋かよって思った」
「まあ、俺料理できねーし」
「うん、炊飯器すらないし。ここまでさっぱりしてると逆に潔いよね」
オンナの影が見えないのが何より嬉しい、なんて櫂斗が呟く。
「櫂斗、料理好きなんだ?」
「特別に好きってわけじゃねーけど、とりあえずトモさんの胃袋は掴んどく方が得策かなーとは思ってる」
「……俺、そのうち櫂斗に食われそーだな」
「ん。食う気満々」
「え」
「はい、こっちが梅入りでこっちが鮭フレーク入り。お味噌汁はー、最近俺新玉ネギ入れるのがマイブームだから、新玉とわかめ。小葱も持ってきたし」
櫂斗はいつも、肝心なギモンを流すから。
朋樹は流されるままに、くるりと海苔を巻いて手渡されたおにぎりを頬張りながら、目の前でにこにこと自分を見つめる少年を見つめ返してみた。
「おいし?」
「ん」
「梅干し、目が覚めるっしょ?」
「ん」
「コレ、食ったら二人でまったりしよーね」
「ん……ん?」
「今日は、トモさんちでまったりおうちデートだから」
「……あの……櫂斗?」
「あ、出掛けたかった? こないだはお出掛けデートだったし、って思ったんだけど。どっか行きたいトコあんなら、全然付き合うよ?」
「じゃなくて」
もう、いつもいつも、不思議で仕方なかったこと。それは。
「櫂斗、俺なんかといて、楽しい?」
日曜日。おうちデート、という日である。
遠足が楽しみで待ちきれない小学生のごとく、櫂斗が朋樹の部屋のインターフォンを鳴らしたのは朝九時だった。
「……どおぞ」
完全に、今起きました、という声でモニタに返事をすると、エントランスを開けてやった朋樹は、
「そいえば、時間指定してなかったな……」
玄関の鍵だけ開けると、洗面所に向かった。
「トモさん、朝飯まだだろ? 一緒に食べようと思ってお弁当作ってきた」
寝起きの朋樹なんて完全想定内。
もへーっとした顔でいる朋樹に、櫂斗はにっこり笑い。
「お味噌汁もあるから。トモさん、二日酔いとかだったりする?」
「……や、そんなになる程は酒飲めねーし。昨夜はバイトの後帰って資料作成して……寝たのが三時だったから」
「そか。じゃあ、とりあえずキッチン借りて準備するから、トモさん顔洗ってきなよ」
そのまま寝かしては、くれねーよなあ。と、朋樹は身支度を軽く整える。
大学生男子の一人暮らしだから、スタンダードに一K。
ワンルームじゃないのは、引っ越した当時彼女がいたから、泊まりに来た彼女が台所に立つことを想定していたわけで。
残念ながらそんな夢は叶うことなく、キッチンは常に飲み物の処理でしか使われていない。
リビング兼寝室は八畳程の部屋で、窓際にベッドとPC用のデスクがあり、入口側にラグを敷いて食卓として小さなテーブルを置き、テレビを観ながらまったりできる空間となっている。
とにかくシンプルな部屋にして、物を置かないようにしているのは、家事なんて殆どしない自分が簡単に片づけや掃除ができるようにするためだ。
朋樹はキッチンの向かい側にあるバスルームで顔を洗い終え、既にキッチンでの作業を済ませて、リビングのテーブルに広げられた朝食に感動した。
なんてデキたお子さんだろう、櫂斗というコは。
トモさんち、行きたい。と言った櫂斗に、どおぞーと軽く返事をしたのは事実で。
そもそもカッコつけるような相手じゃないし、と何も決めないで迎えた当日となってしまったから、じゃあウチで何すんだ? なんて今頃になってぼんやり考える。
「後でさ、一緒にそこのスーパーに買い物行こうよ」
「何か、いる?」
「だって、今見たけどトモさんちの冷蔵庫って飲み物しか入ってねーもん。お昼、何か作ろうと思ってたけど、俺こんな空っぽな冷蔵庫見るの、初めて。家電屋かよって思った」
「まあ、俺料理できねーし」
「うん、炊飯器すらないし。ここまでさっぱりしてると逆に潔いよね」
オンナの影が見えないのが何より嬉しい、なんて櫂斗が呟く。
「櫂斗、料理好きなんだ?」
「特別に好きってわけじゃねーけど、とりあえずトモさんの胃袋は掴んどく方が得策かなーとは思ってる」
「……俺、そのうち櫂斗に食われそーだな」
「ん。食う気満々」
「え」
「はい、こっちが梅入りでこっちが鮭フレーク入り。お味噌汁はー、最近俺新玉ネギ入れるのがマイブームだから、新玉とわかめ。小葱も持ってきたし」
櫂斗はいつも、肝心なギモンを流すから。
朋樹は流されるままに、くるりと海苔を巻いて手渡されたおにぎりを頬張りながら、目の前でにこにこと自分を見つめる少年を見つめ返してみた。
「おいし?」
「ん」
「梅干し、目が覚めるっしょ?」
「ん」
「コレ、食ったら二人でまったりしよーね」
「ん……ん?」
「今日は、トモさんちでまったりおうちデートだから」
「……あの……櫂斗?」
「あ、出掛けたかった? こないだはお出掛けデートだったし、って思ったんだけど。どっか行きたいトコあんなら、全然付き合うよ?」
「じゃなくて」
もう、いつもいつも、不思議で仕方なかったこと。それは。
「櫂斗、俺なんかといて、楽しい?」
0
あなたにおすすめの小説
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる