居酒屋“おがた”はムテキのお城

月那

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☆☆☆

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「あ。お皿だけじゃなくてさ、カトラリーも揃えたい」
「……何それ?」
「スプーンとかフォークとか」
「…………」
 思わず櫂斗を見つめる。
「何?」
「そーゆー知識は、どこで?」
「知識って、常識でしょ? トモさんホントに“オトナ”?」

 ああ、こういうことか、と朋樹が苦笑する。
 多分櫂斗は無意識に料理や台所周りについての興味があって、しかも両親の英才教育(?)も相俟ってそういう方向には敏感なんだろう。
 一方自分は一切そこには興味がないから。
 常識だと言われても、自分には関わりのない世界。
 
「櫂斗、料理人とか目指さないんだ?」
「えー、なんで? 俺そっち全然だよ? とーちゃんたちも継げなんて一回も言ったことないし」
「あれ? そう言えば大将って誰かの店を継いだとかってことはないんだ?」
 自宅兼、な店舗だから元々そこにあったのでは、と朋樹が訊くと。
「あー、なんかとーちゃんが店やる前はじーちゃんがたこ焼き屋さんやってたって聞いたことある」
「たこ焼き? あー、なんか駅の近くにそゆの、よくあるよね」
「うん。で、とーちゃんが修行終えるかどうかくらいの時に、じーちゃん交通事故で死んじゃって」

 どうも、櫂斗の口からは軽く“生死”のネタが飛び出すから、朋樹は戸惑ってしまう。

「そん頃にはばーちゃんももう、作家になってたからそっちで収入あったみたいだし。昔からの古い家だったからついでに建て直ししてとーちゃんが店始めたんだって」
 思わぬところで“おがた”の歴史を耳にして、朋樹は感心して聴き入っていた。
「んで、かーちゃんはとーちゃんが引っ掛けたの」
「は?」
「一人で店仕切るのは大変だし、かと言って従業員まともに雇うにはまだ厳しいって時に、バイトとしてかーちゃん雇って口説いたんだってー」
 そんな話を息子にするのか、と朋樹が言うと。
「かーちゃん、自慢げに話すもん。とーちゃんが自分にメロメロになって結婚してくれなきゃ死んじゃうとかゆってたって。どこまでホントか知らねーけど」
「てか、それ俺聞いていい話?」
「いんじゃね? 俺も似たよーなモンだしさ」

 言われてみれば。
 口説かれていた朋樹としては
「だから大将の前では堂々と、か」と呟いてしまうわけで。
「そりゃーそーだよ。協力して欲しいじゃん。も、いざとなったらとーちゃんの権力でトモさん俺のモンにしよーと思ってたし」
「どーゆー権力だよ」
「俺と付き合わないとクビにするとか」
「そんなこと言いそうな人には見えないけど」
「でも、息子の恋路応援しない男親なんていなくない?」
「そーゆーもん?」
 おかしな論理に首を捻ると、櫂斗がくふくふ笑った。

 結局、親の協力なしにちゃんと自力で朋樹をモノにできたから、櫂斗は内心ドヤっていて。
 俺の魅力にトモさんがオちたんだもんね、と繋いだ手に力を込める。

「トモさん、割っちゃうからキッズ用のプラ製にしとく?」
 目についたキッズコーナーの食器を櫂斗が指差す。
「失礼なヤツだな」
「でもほら、カラフルで可愛いし」
「ちゃんとしたヤツ、買うよ!」
「数多めにして、割れてもいいようにしとこうね」
「……そんな?」

 結局食器を数点とカトラリーのセット、櫂斗が“俺、マイ包丁置いとく”とまな板と包丁のセットを購入。
 包丁や鍋などは少しだけ朋樹の部屋にもあって、櫂斗としては“元カノの陰”だと思ってしまうから、この辺だけは追々自分のものにしなければ、と息巻いているのだ。
 このまま朋樹の部屋を自分の色に染めたい、とは思うけれど。
 そこは稼がないと厳しいから、一歩ずつ。

 そして、稼ぐためには当然この日もバイトがあるわけで。
 駅から近い緒方家だから、そのまま店の二階にある櫂斗の部屋へ。
 さすがに歩き疲れていたから少しだけそこで寛いで――イチャついて――から仕事に入ったのだった。
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