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進路指導の個人面談があったせいで、櫂斗が教室に戻ったのはあとちょっとで校内最終下校時刻という時間で。
それなら、部活に勤しむ穂高と莉沙を待って一緒に帰るのもアリかなと思い。
暇つぶしに、久しぶりに図書室になんて入ってみた。
元々本なんて読む人間ではないし、図書室なんて年に数回くらいしか行くことがない。
でも。
朋樹がやっている勉強のこと、少し知りたいと思ったから。
進路指導でも自分の進みたい方向はなんとなく話せたけど、もっと具体的なことを知りたい。
この時間に図書室にいるのは大抵勉強している三年生で。自分も来年になったらこんな感じで勉強するのかな、なんて考えると怖くなるけれど。
ぺらぺらと紙の捲れる音と、筆記用具が机にコツコツと当たる音。そんな、まるで授業中にしか聞こえない音だけに包まれている空間は、かなり独特。
床もリノリウムではなくカーペットが敷きこまれているから靴音すら聞こえない。
静かなその空間で書架をぼんやりと眺めて歩く。
滅多に来ないから、どの辺りにどんな本があるのかもわからない。
が、書架を探っている人もいないから邪魔にはならないだろうと、とりあえずゆっくりと見て回って。
と、ポケットの中のスマホが震えた。
さっき「一緒に帰ろう」と穂高たちにラインしていたから、その返事。
“今終わったー。どこいんの?”
莉沙だ。
“図書室”
“場違い!”
“一回教室戻る”
“クラブハウス”
“りょ”
返事をしたものの、ふと目に入る“橋梁設計”の本。
気になったから、借りることにする。だって、図書室の本なら無料だし。
慣れない手続きにもたついていると、結構時間が経っていて。
図書室のある校舎からだと教室へ行くよりもクラブハウスの方が近いから、とりあえず寄ることにした。
「あれ? 莉沙、最後?」
クラブハウス棟の女子バレー部は一階の最奥。少しめんどくさいけど、一番広い部屋なのが、校内の部活でも結構重要視されているのがわかるわけで。
「ま、部長だしな。責任者として施錠しないといけないから」
「かっけーな、何から何まで」
「だろ?」
莉沙がドヤるから鼻で笑う。
「てか櫂斗、おまえカバンは?」
「ちょい、コイツ借りるのに手間取っちゃって。図書室で本借りるの、初めてだったから」
「あーわかる。あたし、まだ一回も借りたことないわー」
「だろーな」
「く……似たよなモンだろが」
お互い、図書室とは縁遠い生活をしているのはわかりきっている。
「俺ちょいカバン取ってくるから、穂高終わるまで待ってて」
「櫂斗、野球部だろ? 部室見たい」
「なんで? 何もないぞ?」
男子の部室なんて女子にはめったにお目に掛かれないから、なんて莉沙が目をキラキラさせて。
「なんかエロ本とか置いてそう」ニヤニヤ嗤う。
こーゆートコが小学生なんだよなーと櫂斗は苦笑する。
「んなもん、あるか、ばーか。ま、どーせ誰もいねーから、入っててもいいし」
クラブハウス棟入口すぐの一番小さい部屋。はい、まさに最弱部にふさわしい待遇。
てことで、櫂斗も一応部長――部活に顔を出す頻度が一番高いというだけ――だから、鍵を持っているから開けてやる。
「うっわ。綺麗だな」
バッティング練習用のティースタンドと、グローブが数個。練習用穴あきボール一袋と、硬球がカゴ一杯。以上。
見事に何もない。
「おまえら、ほんとに活動してんのかよ?」
「してんじゃん。たまーに。ほら、俺りょーちんとキャッチボールしてっし」
「一年は?」
「んー。何人か、たまーに見かける。あー……だめだ、名前も覚えてねーわ」
「存在してる意味あんのかね、全く」
「でも内申には書けるよね、一応“野球部所属”って」
それなら、部活に勤しむ穂高と莉沙を待って一緒に帰るのもアリかなと思い。
暇つぶしに、久しぶりに図書室になんて入ってみた。
元々本なんて読む人間ではないし、図書室なんて年に数回くらいしか行くことがない。
でも。
朋樹がやっている勉強のこと、少し知りたいと思ったから。
進路指導でも自分の進みたい方向はなんとなく話せたけど、もっと具体的なことを知りたい。
この時間に図書室にいるのは大抵勉強している三年生で。自分も来年になったらこんな感じで勉強するのかな、なんて考えると怖くなるけれど。
ぺらぺらと紙の捲れる音と、筆記用具が机にコツコツと当たる音。そんな、まるで授業中にしか聞こえない音だけに包まれている空間は、かなり独特。
床もリノリウムではなくカーペットが敷きこまれているから靴音すら聞こえない。
静かなその空間で書架をぼんやりと眺めて歩く。
滅多に来ないから、どの辺りにどんな本があるのかもわからない。
が、書架を探っている人もいないから邪魔にはならないだろうと、とりあえずゆっくりと見て回って。
と、ポケットの中のスマホが震えた。
さっき「一緒に帰ろう」と穂高たちにラインしていたから、その返事。
“今終わったー。どこいんの?”
莉沙だ。
“図書室”
“場違い!”
“一回教室戻る”
“クラブハウス”
“りょ”
返事をしたものの、ふと目に入る“橋梁設計”の本。
気になったから、借りることにする。だって、図書室の本なら無料だし。
慣れない手続きにもたついていると、結構時間が経っていて。
図書室のある校舎からだと教室へ行くよりもクラブハウスの方が近いから、とりあえず寄ることにした。
「あれ? 莉沙、最後?」
クラブハウス棟の女子バレー部は一階の最奥。少しめんどくさいけど、一番広い部屋なのが、校内の部活でも結構重要視されているのがわかるわけで。
「ま、部長だしな。責任者として施錠しないといけないから」
「かっけーな、何から何まで」
「だろ?」
莉沙がドヤるから鼻で笑う。
「てか櫂斗、おまえカバンは?」
「ちょい、コイツ借りるのに手間取っちゃって。図書室で本借りるの、初めてだったから」
「あーわかる。あたし、まだ一回も借りたことないわー」
「だろーな」
「く……似たよなモンだろが」
お互い、図書室とは縁遠い生活をしているのはわかりきっている。
「俺ちょいカバン取ってくるから、穂高終わるまで待ってて」
「櫂斗、野球部だろ? 部室見たい」
「なんで? 何もないぞ?」
男子の部室なんて女子にはめったにお目に掛かれないから、なんて莉沙が目をキラキラさせて。
「なんかエロ本とか置いてそう」ニヤニヤ嗤う。
こーゆートコが小学生なんだよなーと櫂斗は苦笑する。
「んなもん、あるか、ばーか。ま、どーせ誰もいねーから、入っててもいいし」
クラブハウス棟入口すぐの一番小さい部屋。はい、まさに最弱部にふさわしい待遇。
てことで、櫂斗も一応部長――部活に顔を出す頻度が一番高いというだけ――だから、鍵を持っているから開けてやる。
「うっわ。綺麗だな」
バッティング練習用のティースタンドと、グローブが数個。練習用穴あきボール一袋と、硬球がカゴ一杯。以上。
見事に何もない。
「おまえら、ほんとに活動してんのかよ?」
「してんじゃん。たまーに。ほら、俺りょーちんとキャッチボールしてっし」
「一年は?」
「んー。何人か、たまーに見かける。あー……だめだ、名前も覚えてねーわ」
「存在してる意味あんのかね、全く」
「でも内申には書けるよね、一応“野球部所属”って」
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