居酒屋“おがた”はムテキのお城

月那

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「トモさん、ピアス、開けてるよね?」
 日曜日の朝、当たり前のように押しかけてきた櫂斗をとりあえず抱いて。
 ベッドでまったり射精後の気怠い体を二人で持て余していると、櫂斗が問う。
 寝起きというか、半分寝ぼけていたから、もう一回寝たいなーなんて櫂斗の素肌を弄りながらぼんやりしていた朋樹は、
「あー……うん」
 生返事。

「でも、ピアス、しないんだ?」
 穴はあるけれど、ピアスをしている姿を見たことがなかったから、櫂斗が問う。
「……ん」
「なんで?」
 それはただの傷跡です、と言おうとして、悩む。

「トモさん、訊かれたくないこと?」
「……もう、ピアスは、持ってないし」辛うじてひねり出した答え。
「捨てた?」
「ん」

 聡い櫂斗だから、その一連の返答で察する。
「じゃ、代わりにトモさん、俺の、開けてよ」
「え?」
「で、俺とおソロの、したら良くね?」

 口にしたくない“傷”の跡なら、上書きしてしまえばいい。
 櫂斗がそう言うと、起き上がった。
「安ピン?」
「いやいや! そんなのないし、そんなので開けないし!」
「でも、トモさん裁縫なんてしないでしょ? 針、ないじゃん」
「だから! 開けない!」

 慌てて櫂斗を羽交い締めにする。
「……絶対、ダメ」
 これ以上、傷つけるわけにはいかない。
 女の子じゃないけど、処女、奪ったわけだし。

「トモさん?」
「俺は、これ、塞がるまで放置してるだけだから。もう、開けないし。櫂斗もわざわざ傷なんか、付ける必要ないだろ」
「でも、トモさんの耳にはずっと、元カノの跡が残るんでしょ? 俺、それはちょっとヤだ」
 一言も口にしていないのに、はっきりその“理由”を口にする。

「まだ塞がってないんだろ? なら、俺が新しいピアスで“開けて”あげる。だから、トモさんも俺に、開けてくれたらいいじゃん」
「……だから、傷付けたくない、つってんじゃん」
「ピアスの穴なんか傷なんて言う程のもんじゃないと思うけど」
 おしゃれなんて個人の趣味嗜好の世界だから、と制服着用以外に関してはそれほどガチガチな学校じゃないから、学校にしてさえ来なければ開けている生徒も結構いる。

「だって、痛いじゃん」
「ん」
 まあ、それはそうだろうと、穴を開けるからには多少は痛みを伴うだろうことは想像が付く。

「櫂斗が痛いの、見たくない」
 朋樹が、その痛みを想像したのか眉を顰めて痛がる。
「へ?」
「痛がること、したくない」

「……あーねえ。トモさん、初めてえっちする時もめっちゃごめんってゆってたよねー、そいえば」
「いや、だから、そゆことゆーな、っつの」
 朋樹が恥ずかしがる姿、なんて櫂斗の大好物。つくづく鬼である。

「とーにーかーく! 櫂斗の耳に穴は開けません」
「耳に穴は開いてまーす」
「揚げ足取んな」
 さすがに、軽く睨まれた。ので、肩をすくめる。

「おしゃれしたいからどうしても開けたいってゆーなら、ごめんけどそれは女将さんかほのかにやって貰って。俺、あの感覚はもう、絶対ヤダ」
「あの感覚って?」
「皮膚に針突き通す感覚」
 朋樹が言った瞬間、全身に鳥肌が立った。櫂斗にもわかるくらい伝わってくるその様子に、
「あ……マジ?」
 さすがに、怖くなる。

「だから。しなくていんだよ、櫂斗は。この綺麗なまんまでいれば」
 朋樹が、言って櫂斗の耳たぶを甘噛みする。
「ん……くすぐったい」
「ね、感覚あるだろ? だから、痛いんだっつの」
 口には出さないけれど、元カノが“開けあいっこしよ”と言って二人で穴を開け合った時の感覚は、恐らく絶対に消えない。自分が痛かったことよりも、相手に穴を“開けた”感覚の方が、鮮明。

「……わかった。見なかったことにする」
 櫂斗も朋樹の耳たぶを噛む。
 しかも、エロさをプラスして水っぽい音を立てるから。
「そゆことすると、もっかいシたくなるから」
 下半身にその熱が伝わる。

「いいじゃん、すれば」
 ちゃんと、欲情した目で見つめている。それはもう、スタートの合図にしかならない。
 ならば、応えるしかないわけで。
 朋樹は唇に軽くキスをして。

「痛いことはヤだけど、気持ちイイのはトモさんも好きでしょ?」
 啄むようなキスを繰り返しながら、そんなことを言ってくる。
「……っとにもお、櫂斗は……」
 どうしようもなくエロいなーと、今度はえっちなキスに切り替えて。
 ぴちゅぴちゅと舌を絡ませて、唾液の交換。
 もう、止まらない。止められない。
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