居酒屋“おがた”はムテキのお城

月那

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「結局アレだろ? ヤツはあん時に来てた変な未成年客だろ?」
 文化祭最終日の日曜日。仕事終わりの賄いで、ほのかが言った。
 土曜日は疲れ果てていた櫂斗はバイトを休み――それはもう全員納得していた――、今日も打ち上げがあったから仕事には出ていないけれど、とりあえず賄いにだけ顔を出していて。
 朋樹に会いたいし、という理由ではあるが。

「あ、そっか。言われてみればそうかも。で、ほのかと俺が付き合ってるって誤解してたのか」
「ほらみろ。コクる相手は自分じゃなかっただろ?」
「そーゆー問題じゃないと思うけど」
 殴りつけた時、体格と雰囲気にどこか見覚えがあることを思い出し、その日のバイトでちょっと前に来ていたノンアルで小鉢だけ頼んでほのかのことを目で追っていた――櫂斗曰く――客だと思い当たったのだ。

「でもさ。俺がほのかと付き合ってるって思ったのに、俺襲うってどゆこと?」
「知らん。まあだからこそ自分に対して土下座してきたんだろーよ。ほんと、サイテーヤロウだったな。やっぱもう一発殴っとくべきだった」
 ほのかが右手を見る。
 細い指がまだ少し赤く腫れていて。
 負傷したのはほのかだけで。きっと、相手には何の傷にもなっていないのだろうと思うと、自分の非力さが悔しい。
 
「もう、無駄にケガするし。俺が殺してたのに」ほのかの手を見ながら朋樹が呟く。
「だから芳賀が手、出したらヤバいっつーの。おまえ、あいつよか多分力あるだろ?」
 背は朋樹より少し高いくらいだったが、恐らく鍛えているのは朋樹の方で。
 櫂斗だから力で負けたと悔しがっていたが、朋樹が手を出せばただで済むとは思えない。
 ただ、そんなことしそうにないキャラだし、何と言っても“コロス”って単語があまりにも似合わないから。

「でもマジ、殺してやりたいって思ったよ。櫂斗にしたこと、考えたら」
「いや、だから未遂だっつの。マジでヤられてたら、そりゃ何が何でも表沙汰にしてるって」
「でも怖い思いしたのは確かじゃん。やっぱ、俺も一発殴ってやるべきだった」
「もお。ほのかのせいで、また激おこトモさんになっちゃうじゃん。ふわふわトモさんじゃなくなるー」
「何、櫂斗。おまえにとって芳賀って“ふわふわ”ってイメージなわけ?」
「ん。もお、ふわっふわ。かっわいいから箱にしまっときたい」
 櫂斗のその印象だけは、はっきり言って誰からも支持されない。敢えて言うならば、朔だけが納得するのだろうが。

「櫂斗、ちょいちょいそれ言うけど、どゆこと? 俺、何なん?」
「可愛いっつーのは、猫娘やってたおまえの方だろが。いやマジ、あれはなかなかのクオリティだったよ。ミスコンやってたけど、あれ、おまえ出てたら優勝してただろ?」
 ほのかが言うと、
「去年、エントリーさせられた」
 櫂斗がムクレる。

「なんで今年は出なかった?」
「出るわけねーじゃん! アレは一年男子だけがやる“女子に紛れさせる”ってイタズラなだけで、大体最終選考まで行く前に普通はすぐバレんだよ。なんか知らんけど、俺だけ最後まで残ったから実行委員がびびってバラしたらしいけど」
「え、待って。じゃあ、バレなかったらやっぱ優勝してたってことじゃん。まじすげーな」
「いんだよ、そんなんしなくても。櫂斗が可愛いのは俺だけ知ってれば。女の子じゃないんだから、女の子のカッコなんてしなくても、櫂斗は十分可愛いんだし」
「……最強ゲロ甘発言だな。自分、先帰っていいスか?」
 櫂斗は櫂斗で朋樹に抱きついているし、朋樹は自分が何言ったか自覚なんてないからきょとんとしているし。

 ほのかはもう呆れ返る以外何もできないわけだが。
「そう言や、莉沙からライン来たよ。穂高とラブラブのツーショット。櫂斗には見せんなってゆってたけど」
 当たり前にそれを櫂斗に見せるほのかに、
「見せんなって言われてて、ふっつーに見せるってどおなん?」朋樹が驚く。
 
「そりゃおまえ、莉沙の言葉の行間ってヤツを読んでやってるんだよ。あいつ、ほんとは見せつけたいんだよ。女の子だぜ? わかってやれよ」
「さすがほのか。もう莉沙のこと理解してんのかよ」
 当たり前に櫂斗が言うから、朋樹としては意味がわからない。

「ほのか、いろいろ聞いてやれよ。あいつ、俺に直には報告できねーからさ。ほのか経由で伝えたいんだろうし」
「女子はえぐいぞ? おまえ、耐えられんのかよ?」
「俺の彼女じゃねーもん」
 言ってくふくふいつものようにイタズラっぽく笑う。

 女子トークってのがどんなものかは明確に知っているわけではないけれど、でも自分だって“ノロケたい”って気持ちはあるわけだし、女子ならなおのこと“ノロケたい”だろうから。
 莉沙が照れて自分にそれをしないというのはもうわかっている櫂斗だから、第三者であるほのかにそれを託した。
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