affection

月那

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「あらー、今日は珍しくおうちでイイコしてるのねー」
 リビングで、頭に入って来ないニュース番組をただ漫然と見ていたルカに、掃除機を持った美紅が声をかける。
 この間までは当たり前だった日曜日のドライブデート。の、予定お伺いメッセージも、勿論なくて。
 わかってはいたけれど、ただただ腐ってしまう気持ちはあるわけで。
 ソファで、携帯を見ないようにして、クッション抱いてテレビ眺めて。
 考えたくないのに、考えてしまうのがどうしようもなくて。
 なのに。
 何も知らない美紅の、何気ない言葉が。ささくれている気持ちを抉る。
「今日は私もパパと出かけるけど、私がいない時に勝手に車に乗ってっちゃダメだからね」
 わかってますよ。
 ただでさえ少し苛ついているのに、何で母親というのは息子の苛々を助長させることをわざわざ言うかな。
 ルカは返事もしないまま、今度は二階の自室へと籠った。
 ベッドに横になり、携帯のオンラインゲームを開く。
 あいにくとリアルの友人はログインしてなくて。仕方がないから適当にメンバーを組んで、ただ漫然とプレイする。
 何もする気になれない。
 今でも、少しでも気を抜けば、あの時のゆかりの頬の肌触りが、唇の感触が、ルカを完全に掻き乱す。
 掌に包み込まれる小さな両頬。
 夜に冷えた少し冷たいそれは、触れただけで溶けてしまいそうに優しく、ふわふわと柔らかくて。
 ルカの告白に驚いた様子で表情が固まった彼女が、それまでの笑顔を消してしまうのが怖くて。
 本当はあの時、彼女の返事が怖くて、塞いだ。
 柔らかな。滑らかな。甘い、唇。を、自分のそれで塞いだ。
 本当に、本当に愛しくて。喉から手が出る程、欲しくて堪らなかったゆかりの唇を。
 勢いで、塞いだのだ。
 最低だと思う。
 あんなカタチで、自分の欲求だけを満たすなんて、自分で自分が信じられないくらいで。
 批難される、とわかっている。冷静さを取り戻したゆかりが、自分のことを“男”として認識する。という事実が、まるでそれは自分のことを“ケダモノ”と思うのではないかと。
 そう考えると、今こうして、彼女はただただ自分を避けているだけなのではないかと。
 グダグダと、そんな怖い想像ばかりが大きくなってしまって、ゲームの世界にすら没頭できなくて。
 と。
 ゲームの画面にメッセージが入る。
 ゆかりだ。
 ルカは慌てて起き上がると、ゲームを強制終了してラインを開いた。
 “るーちゃん、ちょっと出れる?”
 え?
 “今ね、リビングで美紅と話してるの。その後ちょっと、付き合ってくれる?”
 超部屋着、というスウェットから慌てて着替え、ルカは一階のリビングへと降りて行った。
「あ、るーちゃん、おはよー」
「ルカ、ゆかりが金曜日と土曜日で出張してて、そのお土産貰ったのよ」
 そう言えば金曜日に七海が泊まりに来ていたが、それが理由か。
「じゃーん、福岡土産のめんたいこでーす。あと、これ有名なお菓子なんだって。美味しいらしいから食べてねー」
 わからない。
 いつもと、今までと、とにかく全然変わらない様子のゆかりが、ルカには全く理解ができない。
 それとも、それこそが答え、なのか?
「ナマモノだから早く届けたくて。美紅今からお出かけなのにお邪魔してごめんね」
「大丈夫よー。昨夜遅かったからあの人まだ寝てるし」
「でも美紅はデートの準備しなきゃ、でしょ? で、迷惑おかけついでに、るーちゃんちょっとお借りしていいかな?」
二人の会話に入れず立ち竦んでいたルカが、急に名前を出されてゆかりを見た。
「あ、運転の練習?」
「うん、そう。ちょっとその辺ドライブしてくるけど、いい?」
「どーぞどーぞ。あでも、ゆかりもどんどん注意してやってね」
「そーね、教官としてビシビシ鍛えさせてもらうわ」
 けらけらと笑いながら二人に言われて、ルカは何も言い返せないままゆかりに従った。
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