キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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「ん」
 ノールックで堀の口にスプーンを突っ込む鹿倉。
 を、見ていた田村が眉根を寄せた。
 五人のメイン企画の打合せが午後も続くことになり、とりあえず昼食を兼ねた昼休憩として近所の中華料理店で出前を取り、そのままミーティングルームで食事することになったのだが、当たり前のように堀の隣を陣取った鹿倉が自分の麻婆豆腐を堀に食べさせていて。
「あ、辛っ」
 堀が言うと、鹿倉がくふくふと笑う。
「でも旨い」
「んじゃ、そっちの酢豚ちょーだい」
 今度は堀がピーマンを鹿倉の口に放り込んだ。
「じゃなくて! 肉よこせよ!」
「やだよ」
「けち」
 もはや。そんな光景は見慣れているという山本と志麻は黙々と自分の弁当を食べていて。
 最近堀とは一緒に動くことがなかった田村は、久々に見る二人の姿に少し複雑な感情を覚えていて。
「かーらーいー」
「苦手なら何でそれ頼んだんだよ」
「久しぶりにココの麻婆豆腐食べたかったし。てか、こんな辛かったっけ?」
 ペットボトルの水をがぶ飲みして、鹿倉がネクタイを緩めて首元を手で扇いだ。更に首元をわざと覗かせて「見て見て、すげー汗」なんて笑っている。
「辛いけど旨い」
「それなー」
 会社では、部屋で二人きりでいる時のような態度を田村に対しては一切見せない。そしてこうやって鹿倉が堀に対してベタベタとくっついているから、他から見れば田村との関係は親友以外の何物でもない。
 鹿倉が意図してやっているのかは不明だが、田村から見ればそんなことをして自分の性癖はバレないのかと不安になるような、際どい行動を堀相手には平気でやってみせるのだ。
「あー、もう水なくなった。堀さん、買ってきてよ」
「てめえで行けや」
「じゃあ、そっち貰うし」
 言って堀のペットボトルを煽った。
「あー!」
 空になったペットボトルを見て、堀が鹿倉の耳を引っ張る。
「あたたたたた」
「おら、行くぞ」
 二人で連れ立ってミーティングルームを出て行った。
 そんな様子を呆然と見ていた田村に、
「どした? あ、田村もジュースいるかった?」
志麻が声をかける。
「いや、まだお茶、あるからダイジョブっス」
「まーたイチャイチャしてたねー、あの二人。もー、付き合ってんじゃないの?」
 平然と志麻が言うと、
「ほんと、いっつもいつも。あれ、お客さんの前でも平気でやるからなあ、あの二人」
山本までがそんなことを言う。
「社内恋愛禁止じゃねーけどさ、いっぺんしばいたろか、って思うよね、激甘で」
 食べ終わった弁当の蓋を締めると、志麻がへらへら笑いながらそう言って。
「こないだお見合いパーティのイベであの二人がイチャついてたんだけどさ、進行してたタナさんがそれネタにしてイジって笑い取ってた」
 山本が思い出しながら笑うと。
「あー、やりそう。会場でウけたらあの二人全然悪びれないもんね」
「結構マジでそーゆー関係だと思われてんじゃねーの?」
 二人でくふくふと笑いながらそんな話を続けていたが。
「そーいや社内恋愛と言えばさ、経理の深山さんが今度営業の笠間と結婚するって。田村知ってた?」
「あー、らしいっスねー。こないだかぐと三人で呑んだ時に言ってましたよ」
 ここのところ忙しいと言っては同期三人呑みに欠席していた笠間が、その多忙の理由を明かしてくれた答えがそれで。
 長く付き合ってる彼女がいることは知っていたし、そろそろだろうとは思っていたけれど、いざその話を聞くとやっぱり嬉しくて。久々に三人で朝まで盛り上がったのだった。
「俺、全然知らなかったよ。深山さんって、わりと大人しいから女子たちが合コン合コンって騒いでても全然参加してなかったじゃん?」
「志麻さん、そーゆー情報すげー疎いよね。女子にキャーキャー言われ慣れてて、女の子はみんな俺の物とか思ってんじゃないの?」
「はあ? そりゃ律の方だろー。俺は知ってるぞ。合コンセッティングしろって総務の女子に詰め寄られている律、こないだ見た」
「何? 志麻さんも合コン行きたいの?」
「行かねーよ。律が無双決めるの、わかってんじゃん」
「そんなん、わかんねーし。志麻さん自分モテてる自覚ないっしょ?」
「あるわけねーじゃん。こんなおっさん誰が相手にすんだよって。なー、田村?」
 急に振られて驚く。
「俺はね、いんだよ。おまえらがどんどん結婚してくの、見送ってやるよ」
「そーゆー志麻さんが一番結婚に近いんじゃね?」
「あー、お見合い結婚ねー。あるかもねー」
「え? 志麻さんお見合いするんスか?」
「たまに話は来るよ? ウチ、親がうるさいからねえ」
「田村、知らない? 志麻さんって地元の議員さんのお坊ちゃまだよ」
「えええええ!」
「あれ? 知らなかった? 結構有名な話だと思ってた。ほら、見てよこのお坊ちゃまな空気」
 当たり前のように山本が続けたが、完全に驚愕の事実である。田村はあんぐりと口を開けるしかなくて。
「ほんと、帝王だよなー志麻さん」
 山本がそう言うと、開き直ったように志麻がドヤって見せた。が。
「なーんてな。そんなん関係ないけどね。俺は俺だし、親がなんて言おうと、別に跡を継ぐつもりなんてないし」
 いつものようにくふくふと鼻の奥で笑いながら、弁当殻を捨てるべくゴミ袋を広げた。
「あ、片付けは俺がやりますよ」
さすがに後片付けを上司にさせる田村じゃないから、慌てて志麻からゴミ袋を奪い取りながら我に返る。
「そ? ありがと。あいつら帰って来ないけど、空でしょ? 捨てちゃって」
 言われてみれば、自販機なんて部屋を出てすぐのエレベーターホールにあるのだから、こんなに時間がかかるわけがない。
 今頃二人でイチャイチャしてたりして、なんて変な妄想を始めた田村の表情がまた少し歪んでいたのか、
「どしたー? たむちゃん?」
 志麻に声をかけられる。
「あ、いや何も」
 妄想を振り払うようにゴミ袋に殻を突っ込むと、
「コレ、給湯室に持ってってきます」
「ありがと。その後タバコ吸ってきていいよ。午後は一時半から再開するし、それまで休憩」
 非喫煙者である志麻と山本がコーヒーを買いに行くというので、一緒に部屋を出たが、自販機にはやはり二人の姿はなく。
 勿論、仕事は仕事なので午後からのミーティングは何事もなく進んだが、鹿倉と堀が何かと言えばコソコソ、キャッキャしている姿を見る度に田村の妄想だけが突っ走って行った。

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